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ジミ地味アライアンス 〜おばか女子高生、青春のから騒ぎ〜  作者: 塩屋去来


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煩悩の数は





 人間には一〇八の煩悩があるという。そんなもんをわざわざ数えた昔のお坊さんも大したものだけど、それを大晦日に除夜の鐘で払ってしまおう、という発想は人間のご都合主義を表しているようで、なんだか面白い。


 そういう訳で、いつの間にか今年も終わろうとしている。


 大掃除は前日に済ませ、大晦日くらいは家族と一緒に過ごそう、という佳奈の意見はごもっともなもので、特別な日のひとつではあるが地味同盟は集まらない。


「今頃あいつらどうしてんのかな……」


 今は冬休みで、その短い休みが終われば、3学期が始まる。しかし3学期も短い。そうこうしている内に春がやって来て、進級し新学期になる。となると私たちももう3年生。進路を本格的に考え出さないといけない季節がやってくる。


 だが私は進路よりももっと目の前の問題について考えていた。今回地味同盟を結成したのは同じクラスの3人だった。途中で何故か後輩がひとり合流したけど、それはまあいい。私が考えている問題は3年になってクラスがばらばらになったらどうしようか、というところであった。私立によってはクラス替えのない学校もあると聞いたことがある。とても羨ましい。しかし私たちが通っているH県立舞坂高等学校は至って平凡な公立校だった。


 その可能性のほうが大きいだろう。となると今後の地味同盟の運営も見直しが迫られるのかもしれない。いや、てきとうに固まって駄弁っているだけじゃないか、と言われれば確かにそうなのだけど、私だって色々考えているのである。特にまだ佳奈の更生が途中なのに、別れてしまうのはやや不安だった。


 それに蒔田先輩がいなくなった文芸部を、出征した夫の家を預かる妻のように守らなけらばならない京香も心配だ。と喩えたら彼女は呆れるか怒るかのどちらかだろうけど。


「うーん」


 大晦日くらいは何も考えずのんのんのんびり過ごしていればいい筈である。しかし新年のことを考えると色々と惑ってしまう。


「私もまだまだ修行が足らんな」


 今夜煩悩を払ってもらう必要が私にもあるのかもしれない。


 特にやることがない、というのは中々処理しがたい問題だった。私は走り続けたいタイプなのだ。泳ぐのを止めたら死ぬマグロなのだ。しかしもしかしたら、ここは一息吐くのも必要なのだろうか? どうも頭が茹っているような気がする。


 大晦日の午前中と言うものほどやることのない時間はない。テレビはつまらんし、ネットを見て過ごすのもささくれ立った気持ちになりそうでこういった静謐な時間には合わないような気がする。


「私ゃ意外と学校が好きなのかもしれんね」


 それは友達も含めてだ。なんというか、私は休日の身の振り方が苦手なのかもしれない。人恋しい、という訳ではないのだが、ひとりでいるとなんとなく時間を持て余してしまう。佳奈や京香と違って私はあんまり本を読まないしゲームもやらないからなおさらだ。


「……ひょっとして私ゃ無趣味女なのか?」


 そういえば、お父さんは釣りが好きで、大晦日だというのに今日も海岸に行って釣りをしている。お母さんをほっぽってどういうことなのだと憤慨しなくもないのだが、お母さんは今夜のごはんや新年の準備で忙しいのでそれくらいのほうがいいのかもしれない、と私は思った。いずれにしても私だけが宙ぶらりんだった。どうせならお父さんに釣りを教えて貰おうかとも考えたが、釣りが趣味と言うのはなんともおっさんくさくて女子高生らしくない。さてどうするべきか。


 色々考えることはある。地味同盟を立ち上げたのは自身の人生を充実させるためでもあった。そんななのに無駄に時間を潰すのもなんだか勿体ないような気がする。大晦日くらいぼーっとしていればいいじゃない、という意見はごもっとも、しかしなんだかエネルギーが充ち満ちていて、そのぶつけ先が見当たらないのがもどかしかったのである。


「いかんいかん」


 とりあえず散歩に出かけることにした。なんの目的もないのも面白くないのでコンビニに昼食を買いに行くという用事も付け加える、ちょうどお腹も減ってきたことだし、お母さんがキッチンを占拠しているので、自分で作ることも出来ないし、忙しい(お母さんだけ忙しいのはなんだか悪い気がするが、仕方ない)ところ邪魔して昼食を作ってもらうのもなんだか忍びない。その結果の判断である。


 快晴の大晦日というのは中々いいものだ。ふらふらぶらついていると煩悩がすーっと抜けていくような気がする。澄んだ空気も気持ちいい。私の住んでいる所は閑静な住宅街でほかに歩いているひともすくない。散歩を日課にしているお年寄りくらいがいるだけ。静かだなぁとしみじみ思いつつ、最初はそれを楽しんでいたのだが、しばらくすると無音が退屈になってきて、私は音楽を聴くことにした。


 Metallicaの「Ride The Lightning」。名盤である。


 私がメタラーであるのは内緒にしている。女子高生らしくないからだ。しかし人生に一度くらいはライブに行ってみたい気もする。趣味の合う彼氏もいれば、なお――


「アホか」


 彼氏などと。出て行ったはずの煩悩がまた生えてくる。人間の煩悩というのはそういうものなのかもしれない。でていったそばからキノコのようににょきにょきと。若いから欲望も沢山ある。なんともはや。


 アルバムが「Fade To Black」に入ったあたりでローソンについてしまった。「Creepinng Death」くらいまでは聴きたかったな、思いつつ音声を切って店内に入った。冬休みなので店員さんはほぼ学生だった。大晦日まで働くとはえらいものだ、と私などは思う。思うだけで特にねぎらいはしない。そういったえらそうな立場じゃないからだ。結局私はおにぎりふたつと「からあげクン」、それから麦茶も買ってそこそこに店を出た。


 近くの公園で休憩がてら昼食タイム。ここら辺は賑わっているので家族連れで遊んでいるひとたちも多い。そうして「からあげクン」をぱくついていると。3歳児くらいの男の子がコケて泣いているところを見た。とても微笑ましい。なぐさめてあげたい気もするが、それは親の役割である。


 私もいずれ家庭を持つ日がくるのだろうか。しかし自分が「奥さん」とか呼ばれる姿はなんとも想像しにくい。これまで男子と付き合ったこともないからそうなのだろうか。なんとなくだけれど、私は一生独身のような気がする。私のような暴れ馬の手綱を握れる男がいるとは思えなかったからだ。でもそれでもいいのではないか。女友達(結婚している)と一生付き合いながら、独身の優越感に浸って生きるのも悪くはない。


 まあそこら辺は急いで考える必要もない。


「しかしやはり煩悩は晴れてくれんね」


 帰ってからは昼寝をした。エネルギーが有り余っているのに睡眠欲もあるのがよく分からないが。睡眠も人間の欲望のひとつだから仕方ないのかもしれない。


 起きた時には夕方だった。こんな時間に昼寝してしまうと夜寝られなくなるだろうが、どの道大晦日だから夜更かしをするので、丁度いいだろう。


「そろそろ起きてきなさい、紀子」


 お母さんが読んできた。私は「へーい」と生返事をしながらリビングに移動する。いつの間にかお父さんも帰って来ていて、お母さんに今日の釣果を自慢していたりする。お母さんは真面目に聞いていない。こんな時期にお魚を釣って来ても邪魔なだけだ、といううんざりした顔がはっきりと見える。とはいえ我が両親は別に仲が悪いという訳ではない。ヘンなところでバランスが取れている。ちなみに私は容姿も性格もお父さんに似ていると思う。それは自慢にするところだ。


 食卓にはお寿司と年越しそばが並んでいた。毎年恒例の家族団らん。そういえば、私が高校生になってからはこういった機会もすくなくなっているような気がする。


「紀子もいずれ家を出て行くときが来るんだろうなぁ。お父さんは淋しいよ」

「それが子を持った親の宿命よ、お父さん」

「しかし男親は娘が旅立つのはつらいものだよ、お母さん」


 年越しそばには豪勢に大きく太い海老天が乗っている。私はすこしずつそばを啜りながら、たまにおいなりさんを食べたりする。天ぷらは出来るだけあとに取っておく。まだサクサクのまま食べたい気もするが、おいしいところは最後に取っておきたい性格はいかんともしがたい。


「来年は受験だな」

「おいおいお父さん。こんな日にイヤなことを思い出させんな」

「大丈夫よ、紀子はこう見えて要領がいいから、なんとかするわよ」


 とりとめもない話をしながら「紅白歌合戦」を観ていた。正直な所メタラーの私にとってはポップスや歌謡曲、演歌は退屈なのだが。ここは家族に合わせるのも大事である。


 ぼーっとしながら、今年の総括、と大層なものでもないが、内心で振り返っていた。いい年じゃなかったんじゃない? と思う。最初はどうなるかとじつは心配なのだったが、地味同盟は予想以上に上手く回っている。絆のようなものが出来上がりつつある。私は地味同盟を高校限りの関係に終わらせるつもりはない。一生ものの絆にするつもりだった。京香あたりは鼻で笑うかもしれないが、私は本気である。あのステキな女達を決して話してなるものか。誓って言うが私はレズではない。


 しかし、その京香――


 さしあたっての課題は彼女だった。もし蒔田先輩との恋愛が上手く行けば――彼女との距離は離れてしまうのだろうか。でもそれでもいい。哀しいことではあるけれども、私は上手く行くことを願っている。なにより大事なのはみんなの幸せである。


 そんなことを考えている内に除夜の鐘が鳴り始めた。ああ、今年も終わるんだな、とこの時はしんみりしてしまう。しかし私は充実しているし、漲っている。未来は明るい。そう確信している。


 どうか来年も地味同盟にとって良い一年になりますように。

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