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OJAS  作者: 藤宮
4/6

現代

 上野駅から歩いて十分。

 江闘陽子えとう ようこは、通りに並ぶ監視カメラを気にも留めず、建ち並ぶビルの一つに入って行く。

 十五階建てで眺めが良い、開放感のある環境をうたい文句にしている高校だ。

 その実態は、警備員が生徒達の出入りを監視し、中には二重のセキュリティゲートで構えた監獄のような場所だった。

 江闘はその物騒さに当初は引いていたが、今では「こんな高校他にはない」と笑っている。


「おっはよー! 皆のしゅう~」

 教室に入り、挨拶をする、

「うるせーぞ、江闘!」「あ……陽子ちゃんおはよう……」「おは~」と、罵倒が混ざった返事が返ってきた。

 それを受け止めるように手を広げ、

「みんな~! 今日もアタシ! がんばるからねー!!」

 両手を振って飛び跳ねる。すると更に視線が集まってきた。

「江闘……なんか今日、テンション高くね?」

 タッツンがドン引きしながら言った。

「そうなんよ~」逃がさないとばかりにずんずん近付いて行き、鞄から出したチラシを押し付ける。

「今日! 江闘さんのライブがあるから、よろしくー!」

 言い終わると、傍にいた友人達にチラシを押し付けていった。

 すると、一人が呟いた。

「江闘さん、今日の放課後……補習じゃなかった……?」

「あっ……」

 さぁ……と血の気が引く。

 即座に体を翻し、教室の入口に駆ける。

「んじゃ! みんな、今日のライブ! 来てねー!!」

 手短に告げ、勢いよく扉を開いた。

 教室を飛び出す、その瞬間――

「ぶはっ!!!」

 鋼鉄の塊のような存在に突っ込み、跳ね帰りながら教室へ戻された。

「いたぁーー!!!」

「陽子ちゃんっ……大丈夫……?」

 飾に支えられながら、勢いよく上体を起こす。

「ちょっと! なんか銅像にぶつかったんだけど――」

 開いた足の間から、そいつを見上げた。

「……って……お前かよ」

 校則を無視した白のジャケットに黒のズボン、三鬼みきだった。

 途端に教室が静まり返る。次々と椅子を引く音が響いた。

 クラスメイト達がお行儀よく座る中、三鬼は何を考えているのか、ゴッ……、と重い一歩を踏み出した。

 ゴッ……、ゴッ……と、三鬼が歩く度に床が鈍い音を立てる、まるで鉄の塊が歩いているような足音だった。

 間近で立ち止まったので、とりあえず、その赤目にへらりと笑いかける。

「おはミッキー……って」、襟首を無造作に掴まれ、「……お? ぉお!?」、そのまま持ち上げられた。

「ちょっすごっ! 力つよっ! 片手芸! みんな! 見て見てー!」

 思わずピースピースと自慢した途端に、床へ下ろされる。

 そのまま三鬼は重い足音を立てて教室の隅へ歩き、机にドッと足を乗せた。

 ジャケットの襟に顔を埋め、寝る姿勢のようだった。

 そんなコミュ障のすぐ隣りまで椅子を引きずり、背もたれを抱き込むように座る。

「あーあー、お前が引き籠るせいで皆こっち見てくれないじゃーん」

 こちらを見ようとしないもじゃ頭を眺めながら、椅子を揺らし三鬼の肩に頭突きをかます。

 反応の無い体を何度か突いたところで、

「ねぇ。 今日さ――」

 言いかけて、言葉を切った。

 チャイムが鳴り響いていた。

「ま、いっか」

 そう言って、椅子を元の位置に戻す。

「お前、どうせバイトだろ? もし来る気があったら、秋葉原でライブがあるから」

 目を閉じている銅像に言うと、鞄から教科書を取り出し授業の準備を整えていく。


 大人しく授業を受ける江闘は、ふと気づく。

 セキュリティーゲートはもう閉まっている。

 学校から抜け出すことが不可能になっていた――。

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