2008年―レグバ
マサチューセッツ州 ケンブリッジ――教授邸
出窓には家族写真が並んでいる。
寄り添う教授と妻、そして腕に抱かれた赤ん坊が写っていた。
――男は台所で、茶葉の瓶とポットを丁寧に並べる。
背後のテーブルでは、開いたままのノートパソコンが青白い光を放ち、画面には教授の微笑む顔が映っていた。
その穏やかな空気を裂くように、インタビュアーの声が響く。
「リブメタルの発生理由を突き止めれば、地球上はおろか、宇宙の理論すら覆す可能性がある」
――クッ。
男は喉奥で声を上げる。
ゆっくりと茶葉にティースプーンを差し入れた。
黒い皮手袋の指先が瓶の縁をかすめる。
「かつて天文学の常識が覆されたように、もし地下鉱脈が発見されれば、世界の枠組みそのものが変わる……。そう、あなたは論文に書きましたね」
言葉はそこで途切れ、重い沈黙が流れる。
そして静かな問いが投げかけられた。
「これは、事実ですか?」
ボツワナ セロウェ郊外――鉱山跡地
巨大な掘削機が唸りをあげ、地面に突き立っている。
轟音と振動が大地を揺らし、建物全体を震わせる。
機械は止まることなく、ただひたすら深く、地の底へ潜っていく。
掘削機の制御室から、カウントダウンの声が響いていた。
「11.98……」
スピーカーを通すその声に、職員たちが手を止めた。
「11.99……」
制服もバラバラな技術者たちが、ガラス越しに制御室の前へ集まってくる。
「12km」
呟いた瞬間、男の頬が熱くなった。
隣にいた仲間が口を開く。
「どうする? 一旦地上へ引き上げるのか?」
「おいおい、本気か?」
男は驚き、両手を広げる。
「この先には、地底世界があるんだぜ?」
今まさに現実になろうとする夢だった。
興奮を伝えようと視線を巡らせると、横から肩を叩かれる。
「落ち着けよ。映画の見過ぎだって」
機械技師が笑った。
「センター・オブ・ジ・アースか」
地質学者も口を挟む。
「私はザ・コア派。ダイヤと水晶の世界って夢があるわ」
他の仲間たちも笑いながら会話に加わる。
そんな彼らを見渡し、ため息をついた。
「あー……お前ら?」
首の後ろをぽりぽりと掻く。
「地底を信じないのはいいけどよ、でもな……」
真っすぐ仲間を見据えた。
「この地下に夢見てるのは、俺だけじゃないだろ?」
地質学者、エンジニア、研究者、ルート確保……
色とりどりの制服を着た仲間たちの顔を、一人ずつ見つめる。
やがて、一人がふっと笑った。
「ああ。お前だけじゃない。……俺も、ここに夢を見に来たんだ」
両腕を広げ、他の者たちもうなずく。視線が交わる。
――そうこなくっちゃ。
次の目標を口に出そうとする、そのときだった。
「宇民、大地」
低く鋭い声に、心臓が跳ねる。
恐る恐る視線を向けると、ひとりの男が立っていた。
スーツに身を包み、眼鏡の奥の目が冷たく光る。
その視線は、ただ真っすぐ、こちらを見据えていた。
――教授邸
パソコンの画面越しに、教授の声が静かに響く。
「……まず、地下でリブメタルの鉱脈が発見されたとしよう」
男は椅子に腰かけたまま、画面の教授に向かって――ポットを高く掲げる。
「そうなれば、病気や怪我といった概念が無くなる。人は寿命の概念を失い、科学技術は桁違いの速度で進化するだろう」
その瞬間、ポットからカップへ湯を注ぐ。
跳ねたしずくがモニターを汚し、教授の顔に散った。
インタビュアーの声が重なる。
「……桁違い、とは?」
教授は一瞬、視線を伏せた。
「千年先の文明に、一瞬で到達するかもしれない」
男は目を細める。
「想像を絶する世界になるということだ」
カップへ指を添えた。
口元へ運び、その香りを吸い込む。
画面の教授を見つめたまま、ひと口、口をつけようとし――
ピンポーン……
チャイムが鳴った。
屋敷の外から車のエンジン音が微かに届く。宅配業者だろう。
続けて、二度、三度とチャイムが鳴る。
教授の言葉が、無粋な電子音にかき消される。
男は静かにカップを下ろすと、片手を懐に滑らせた。
冷たい金属が指先に触れる。
ゆっくりと銃を引き抜き――
チャイムをかき鳴らす扉を撃ち抜いた。
立ち上がると同時にカップを投げ捨てる。
砕け散るガラスの音が、続く銃声に飲まれた。
扉に向けて何度も引き金を引く。
自然と上がっていく口角をそのままに、穴だらけの扉に手をかける。
扉がわずかに軋みながら、外の光景が広がって行く――
銃口が男を取り囲んでいた。
特殊部隊だった。
男の横、足元で戸惑ったような声が上がる。
配送業者が警察に組み伏せられていた。
銃を持つ手に力を入れる、その前に、
衝撃が体を突き抜けた。
風に嬲られ灼熱を持つ。
胸に大きな穴が空き、全身の感覚が遠のく。
前を見据えた。
一人、また一人と、銃口の先にある顔を、記憶していく――
「休むな!」
弾丸の嵐が襲いかかった。
冷たい衝撃が、男の腕を、足を、腹を貫く。
視界が大きく揺れ、急激に意識が剥がれる。
痛みも、恨みも、体さえ奪われ――
ゆっくりと、静かに、落ちていった。
――どこまでも続く暗闇の底で、かすかな地響きが生まれる。
まるで何かが地の底で、ゆっくりと、地上へ迫ってくるようだった。
警察部隊の一人が、足元の微かな揺れに気づいた。
誰かが踏み鳴らしたわけでも、車が通ったわけでもない。
「……なんだ?」
小さく呟き、慣れた手つきで銃を握り直す。
周囲の仲間たちはまだ揺れに気づいていない。
静かな住宅街は変わらず、木々のざわめきや犬の鳴き声が聞こえるだけ。
それでも、足元だけが異質に振動していた。
「退避!」
鋭い命令に反射的に振り返る。
怒声を上げる隊長の姿、それが――異様だった。
足が、地面に埋まっていた。
「……隊長?」
駆け寄ろうとすると、地面がめり込む。
反射的に飛びのく――だが足が重く、思うように動かない。
「撤退しろ!早く!!」
隊長の怒声は、喉を潰したかのようなかすれ声に変わった。腰はすでに埋まり、胸まで沈んでいた。
「撤退だあぁ!!」
叫びが合図のように響き、仲間達が一斉に駆けだす。
男も後を追おうとするが、足は見る間に沈んでいく。
驚く間もなく、恐怖する間もなく、すぐに胸まで土に飲まれる。
息苦しさと共にようやく顔を引き攣らせた時、背後から潰れた声が届く。
「クソ……!」
わずかに動く首で無理に振り返ると、隊長の顔が地面に埋まりかけていた。
垣間見えた顔は、音もなく沈んでいった。
現場から1ブロック離れたワゴンの中、男は静かに無線装置を置いた。
うつむいた顔は車内の薄暗がりに沈み、表情は読み取れない。
やがて、絞り出すように言った。
「作戦は中止だ……住民の避難を優先させる」
隊員たちは静かに頷き、インカムで他の部隊へ指示を送る。
男は深く息を吸い込み、拳を握りしめた。
力を込め、車内の壁を殴る。
「クソッ!」
衝撃で車が大きく揺れた。
しかし隊員たちは男を見ず、黙って任務に従う。
「クソッ! クソッ! クソッ!!」
男は髪を振り乱し、全身で壁を殴りつける。
嗄れた声が車内に響いた。
「化け物め……!」
そのとき、子供が足を止め、ふっと顔を上げる。
視線の先では、カメラのレンズが子供を捕らえていた。
作品プロトタイプの紙芝居はコチラ↓
https://www.youtube.com/watch?v=eq2lqUnhf2w
三鬼とレグバのイメージ映像はコチラ↓
https://www.youtube.com/watch?v=tRRtLOpOUfQ
絵や設定画はコチラ↓
https://www.pixiv.net/artworks/127381652
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手書き+AIのべりすと+chatGPT




