表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モブキャラ人生が終了したら二周目が始まったんで、今度は主人公になりたい  作者: 長篠金泥
第4章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

138/138

第135話 「サンドイッチはサンドイッチ伯爵が発明した」

 芦名あしなとアルジェントを送り出してから、一時間ほど後。

 ウチのリビングは、いつになく人口密度が高くなっていた。

 まずは俺と鵄夜子しやこ、それに家に残っていた綾子あやこに、タクシーで来た桐子きりこ

 それから村雨むらさめ姉妹に奥戸おくと、それを迎えに行った二人の総勢九名。

 空閑くがにも一応電話したが、外出中らしく連絡がつかなかった。


「悪いな、いきなりの呼び出しで」

「それはまぁ、いいんだけど……」

「シャコねぇは何で正座させられてるの?」


 瑠佳るか汐璃しおりが、ソファで正座しながら項垂うなだれている鵄夜子を気にする。

 その隣に座る綾子は、若干の既視感きしかんがあるのか苦笑いだ。


「そこらへんも含めて、状況説明と作戦会議だ」

「また人助けなのかー?」


 奥戸に訊かれるが、否定も肯定も何か違うような。


「広い意味じゃそうだが……今回狙われてんのは、俺と姉さんだな」

「じゃー協力するしかねーなー」

「そうだね、僕らにできることを、最大限に」


 奥戸はいつも通りだが、桐子は真剣な表情で言ってくる。

 油断はできないけど、そこまで深刻でもない――と前置きしようと思ったところで、綾子が読んでいたパンフレットをテーブルの上にポンと投げた。


「で、問題はコレなんだね」

「他にも色々あるけど、そいつが最大って感じだわ」


 八人の視線が、やけに豪華な作りのパンフに集中する。

 丁度いい雰囲気なんで、このタイミングで始めるとするか。

 

「まず、現状についてザックリと説明すると――」


 御護屋ごごやでの買い物帰り、見知らぬ集団からの襲撃を受ける。

 そいつらを撃退して戻った自宅には、四条真奈美しじょうまなみ誠也せいやの伯母親子が。

 真奈美らの目的は、怪しい投資話を鵄夜子に持ち掛け、カネを引き出すこと。

 以前から接触があったが、鵄夜子は俺に黙って一人で対処していた。

 強引に話を進めようとした伯母親子は、俺が「説得」して追い出す。

 伯母親子の背後には、どうやら厄介な黒幕が控えている気配。

 そっちと繋がっていそうな、タケミという人物も姿を見せていた。


「――と、いう感じでウチの金とか家とか、そこらが狙われてる」


 手短に要点だけを語れば、聴衆ちょうしゅうは数種類の反応を見せる。

 既に事情を知っている鵄夜子と綾子とアルジェントは、特に変わらず。

 芦名と奥戸も、基本的に暴力で解決するスタンスのせいか、動揺はない。

 汐璃は神妙しんみょうな顔をしているが、どこまで理解しているか怪しい。

 瑠佳は心配そうな態度を丸出しに、俺と姉さんの方をうかがっている。

 パンフをめくっていた桐子は、眉間みけんに深々と陰翳いんえいを刻んでいた。


「どうした、おい。シワやばいぞ」


 自分の眉間を指で縦になぞって指摘するが、桐子は渋面じゅうめんのまま。

 そして、開いたページをコチラに向けて言ってくる。


「何だか見覚えあるんだよね……この人」

「真ん中の、不自然に歯が白いオッサンか」

「それ。たぶんタレントか歌手、だったと思うんだけど」

「芸能人なら『元』でも、詐欺商売の広告塔に使えるな」


 どんなに有望な投資なのか、いかにも「金持ってます」なスタイルでキメた男が、美辞麗句びじれいくっぽいものを並べて熱く語っている。

 成功するべくして成功を勝ち取った我々と共に、フロンティアスピリッツと大和魂やまとだましいのハイブリッドで共に未来へ――とか何とか、そんな寝言を。


 メインの商品は、小売価格が数万から数十万という、最高級テキーラ。

 原酒をたるで買って熟成させ、数年後の販売収入を期待する。

 これはウイスキーなどでもある、まぁまぁメジャーな投資法だ。

 ウイスキーならいずれ暴騰するが、テキーラはどうだろうか。


 この会社は原酒への投資も募集しているが、別の形式も推している。

 預かった資金で入手困難なテキーラを確保し、それを特殊なルートで販売して得た利益から、高利率の配当を約束する――らしいのだが、説明を読んでも意味不明だ。

 大量の数字と横文字で細々と説明してあるが、システムを読み解くのは困難。

 わかりやすさを放棄している時点で、邪悪な意図しか感じられない。

 頭に浮かぶのは「数字は嘘をつかないが嘘つきは数字を使う」って警句けいくだ。


「このテキーラ投資はおとり、というかだろうな」

「確かに、詐欺にしちゃ利回りが大人しいかな……まぁ、こんなガタガタな内容じゃ、この程度のリターンも絶対無理だけど」


 既にパンフを読んだアルジェントが、ニヤニヤとダメ出しをする。

 年の功によるロクでもない経験値で、コイツは犯罪全般に結構詳しい。

 俺から語ると「何でそんなこと知ってんの」って話になりがちなので、説明役としてちょっと役立つポジションだ。

 綾子はもう一度パンフを手にすると、胡散臭うさんくさげに社名を読み上げる。


「ペンテウス……『バッコスの信女しんにょ』の?」

「たぶんな。テキーラの原料になる竜舌蘭リュウゼツランの学名はアガベ、その言葉の元はギリシャ神話に登場するアガウエー、そしてバッコス――ディオニュソスの不思議パワーで狂ったアガウエーに殺される息子、それがペンテウス」

「……何でそんなこと知ってんの」


 ついつい語りすぎて、瑠佳からのツッコミが入ってしまった。

 酒が関係する雑学を知っていると、飲み屋での情報収集の役に立つ。

 なので未来で獲得した無駄な知識が、俺の頭には詰め込まれている。

 しかしながら、そんな事情を説明するワケにもいかない。


「教養にあふれてるから、自然体で豆知識が出るんだ……サンドイッチはサンドイッチ伯爵はくしゃくが発明した、とか」

「それくらい、あたしでも知ってるけど」

「サンドイッチ伯爵は悪魔崇拝(すうはい)の秘密結社『地獄の火(ヘルファイアー)クラブ』の中心人物だったとか」

「けぇにぃ、思い付きでテキトー言ってない?」


 汐璃が抗議してくるが、全部本当の無駄知識だ。

 ただ、サンドイッチの発明者ってのは俗説でしかない。

 ついでに、悪魔崇拝も単なるゴッコ遊びだったとか。


「いや、サンドイッチ伯爵はどうでもよくて。問題は、詐欺を仕掛けてるのがイヤな感じに知識をひけらかすような面倒な相手、って可能性が高い点だ」

「伯母さんの話からしても、悪賢わるがしこいヤツなのは確定かな」


 反省の意を表して黙っていた鵄夜子が、会話に加わってきた。


「賢さはさていて、悪いのだけは間違いない。姉さんが一人で対応してたら、いずれはそいつとも対決するハメになってたはずだ」

「うっ……そうだね、ゴメン」

「じゃあ、足を崩していい……けど、今後はトラブルを自分だけで何とかしようとすんの、絶対ナシだぞ」


 正座をやめた鵄夜子は、足をさすりながら軽い調子で応じる。


「大丈夫、わかってるって」

「次やらかしたら、罰として蓑踊みのおどり笠地蔵かさじぞうだからな」

「前者もイヤすぎるけど、後者は何されんの!?」


 話が横滑よこすべりする気配を察してか、芦名がフォローを入れてくる。


「なぁケイ、その投資が撒き餌ってことは、寄ってきたのを釣るのが主目的か」

「じゃないか、と俺は予想してる。もっと稼ぎたい野心があって、それ用の資金も準備できるヤツを選別するための」

「なるほど……テキーラの商売で実際に儲けがなくても、配当金を出せば餌になる」

「ああ。多少の赤字は帳消しにできるくらい、二段構え三段構えでガッツリ持っていくんだろう、カモの財産を」


 しかつらで納得する桐子に、同意の頷きを返す。

 俺の予想を聞いて、奥戸と瑠佳からもリアクションが。


「下手な鉄砲でも乱射を続けてりゃー、そのうちカモに当たるなー」

「でもケイちゃん、投資話を持ち込んできた親戚を追い返しちゃったから、元凶まで辿たどり着けないんじゃ……」

「じゃあどうするか、ってのが作戦会議のメインテーマだ」

 

 ウチの財産を諦めてないであろう、伯母親子にどう対処するか。

 その背後にいる可能性が高い、詐欺集団へのアプローチ方法は。

 誠也が操っているらしい、攻撃的なバンドマンたちへの警戒。

 俺の関係者ってことで標的になる危険性と、自衛のための手段。

 色々ある諸問題をひっくるめて、最終的にどこまでやるのか。


 雑多な題材と参加人数の多さで、会議は迷走するかと思われた。

 しかし、感情的で無駄に混乱する主張をする間抜けや、重箱のすみを突きたいだけの阿呆がいないので、意外な速度で話はまとまる。

 とりあえず情報収集を優先し、高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変りんきおうへんに対処する、いつも通りの方向性だが。

久々のジャンル別ランキング日間1位(26/5/12 12時時点)への感謝を込めて更新です。

「面白い」「こういうの好き」「会議回なのに登場キャラ多すぎだろ」という方は、評価やブックマークでの応援をよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
>「数字は嘘をつかないが嘘つきは数字を使う」 なるほどなるほど、勉強になりました。
会議と考えると人数多めだけど、仲間内での情報共有と考えると面子をハブるのは悪手。とはいえボッチだった主人公が組織運営術をどこで学んだか?まあ関わってきた組織を観察していたのかな?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ