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モブキャラ人生が終了したら二周目が始まったんで、今度は主人公になりたい  作者: 長篠金泥
第4章

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第129話 「まず右目から、次に左目だ」

 軽い調子だが、拒否や反論を認めない「圧」を感じさせる声だった。

 誰かを脅したり殴ったりの、荒っぽい諸々に染まった気配がある。

 アルジェントの肩を掴んだニット帽の男も、程々に暴力と親しげな雰囲気だ。

 大量のピアスと両腕をいろど刺青タトゥーが、社会性の不足を物語っている。

 相手の出方がわからない場合、言われるまま黙って従うのはあやうい。

 そんな経験則けいけんそくから、何気なく移動して背後の男から離れ、その姿を確認。

 

「おいおい……大人しくしろ、つってんだろ」


 キレて大声を出すでもなく、余裕ぶった態度でそう言ってくるのは、二十代半ばくらいに見える、ウェーブのかかった長い黒髪の男。

 細身で背は百八十近い――ヒョロい印象はなく、変な凄味を漂わせていた。

 服装や雰囲気からして、世間的には不良と分類されるタイプだろう。

 しかしチーマーやヤンキー、ヤクザなどのスタイルとは異なる。

 バンドマンや、暴走族とは似て非なる走り屋(ライダー)に近そうだ。


「こんな人目のある場所で、騒動を起こすつもりか?」

「騒ぎになるかどうかは、オマエらの態度次第だな」


 トラブル開始に躊躇ちゅうちょがないのは、第一印象そのままだ。

 薄笑いを浮かべたニット帽の男も、長髪のスタンスに同調している様子。

 それなりににぎわっている休日の駅前でも、自重する気はないらしい。

 コチラとしても、やるならやるで対応できなくもないのだが……

 視界のすみで存在感をアピールする交番が、行動を制限してくる。

 だが現状なら、被害者としてポリスに協力を要請できるのでは。


「大声で助けを求めるって選択肢もあるんだが、どうよ」

「やるのは構わんが、個人的にはオススメできねぇ」

「……助けを呼んでも無駄、ってことか?」

「さぁて、どうなるんだろうなぁ」


 牽制けんせいに質問を投げてみたが、軽々となされる。

 もしや、警察も動かせるような存在がバックについてるのか。

 でなければ、国家権力をガン無視する胆力たんりょくがあるだけか。

 どちらにしても、まともな連中じゃないとは理解できた。

 となると、それ相応の対処法で切り抜けさせてもらうしかない。


「しょうがない……何の用だか知らんが、付き合ってやる」

「ったく、聞いてたよりだいぶ態度のでけぇガキだな……」


 ボソッと呟かれた一言から、いくつかの推測ができる。

 まずコイツらは、俺を薮上荊斗やぶがみけいとだと認識して接触してきた。

 となると、これまでに敵対した集団のどれかが黒幕だろう。

 いや、それは間違いないとしても、敵が多すぎて絞り込めんな。

 そして直接の関係者ではなく、依頼されて襲撃に来ている。

 ならば、ある程度「手強い」と思わせれば退かせられるか――


「ともあれ、話の続きは落ち着ける場所に行ってから、だ」


 長髪の言う「落ち着ける場所」に独特のニュアンスがにじむ。

 要するに、人気のない場所まで連行する、って意味だろう。

 情報を引き出すためにも、とりあえずはついていくしかない。

 しかし人数を集められていると、少しばかり制圧が面倒だ。

 俺一人だったら、同時に七、八人ぐらいならどうとでもなる。

 だが、アルジェントを守りながらだと手間が増えすぎる。


「何でもいいが、手短に頼むわ。この後、草卓球くさたっきゅうの予定がある」

「どうなるかは全部、お前らの態度次第だ。あいつらに続いて、あそこの先。煙草屋の横の道を入れ」


 草卓球をスルーして、後ろから道順を指示してくる長髪の男。

 アルジェントを捕獲ほかくしているニット帽は、先導する形で前を進む。

 煙草屋の横の細い道を進んだ先は、確か袋小路ふくろこうじの行き止まりだ。

 ここらは駅前の再開発計画の対象だったが、バブル崩壊で何もかもが頓挫とんざした結果、無人のビルや元大型スーパーが数年放置されている。

 いざって時の逃走経路はあるが、その場合もあのおっさん(アルジェント)が大荷物だな。


 そんなことを考えながら歩いていると、薄汚れた車が視界に入る。

 確かレオーネの……エステートバンだか、ツーリングワゴンだか。

 助手席に見える人影は、たぶんコイツらの仲間なのだろう。

 車のサイズ的に、他に待機しているのがいても多くて三、四人。

 強硬策きょうこうさくで何とかなる――そう判断した瞬間、俺は歩調をゆるめた。


「んん? おい、チンタラしてねぇで――」


 十歩ほどをトロく進んだところで、だいぶ近くから長髪の声が。

 銃弾入りのバッグを手放し、トトッとバックステップで距離を詰める。

 そして「ココだ」というタイミングで、右のトラースキックを放つ。


「おぶぁっ!?」


 あごを狙ったが足が上がり切らず、胸板を蹴り飛ばした。

 それなりの衝撃はあったにしても、入り方としてはだいぶ浅い。

 長髪のわめき声は、打撃への反応より奇襲への驚きが主成分だろう。

 だから、予期せぬ展開への混乱が続いている内に、第二撃へと移行。

 蹴り足を収めつつ体を半回転させ、そこから踏み込んでのタックル。


「うぇうっ――」


 体勢を崩している相手に下からもぐり込み、腰の辺りに取り付いた。

 シャツに染み着いたヤニ臭さに、つい顔を背けたくなるのを耐える。

 無抵抗すぎて、何か仕掛けてくるんじゃないか、との警戒も湧く。

 しかし、長髪は戸惑ったままフラつくばかりで、反撃の気配は皆無だ。

 だからといって、モタモタしていたら何が起こるかわからない。

 なので、まずは行動不能にするために地面に転がす。


「おぉっ、おぉんっ!?」


 両の膝裏を抱えた状態から引っくり返せば、妙な声でえた。

 直後、長髪の背中と後頭部がアスファルトに思い切りブチ当たる。

 恐らくコイツは、どうしてそうなったのかも理解できていない。

 状況把握の猶予ゆうよを与えず、マウントポジションからの追撃。

 まずは顔の真ん中を狙い、連続して左右の掌打しょうだを落とす。

 三発目で芯をしんえた感触があり、鼻骨びこつを折ったのがわかる。


「んごっ、ぅごっ――ぶぃぁ、ぐぇあっ――」


 テンプルへのフックで脳を横に揺らした後、髪を掴んで前に引く。

 それから体重を乗せて地面に叩きつける、縦の揺さぶりを数セット。

 またがった相手の全身が弛緩しかんし、半開きの両目から瞳が消えた。

 鼻腔はなのあなからは濃い赤色が、滾々(こんこん)と流れて顔面の下半分を染めていく。


 戦闘力は奪った、そう判断して立ち上がって次の標的へ向かう。

 一撃目からここまで二十秒前後、ニット帽の男からのアクションはない。

 それでも異変には気付いていたようで、俺の方を見据えて固まっている。

 俺に対する盾のつもりか、アルジェントを前に出し震え声で訴えてきた。


「なっ、なななんっ……タンマタンマタンマ!」


 止めたくなる気持ちはわかるが、聞いてやる道理がない。

 敵対者の挙動を注視しながら、早歩きで間合いを潰していく。

 その途中、右手の指に絡んでいた長い髪を振り捨てる。


「止まれってんだよ! じゃねえと刺すぞ、オルァ!」


 アルジェントの首に左腕を巻き付け、右手に持った凶器をしめすニット帽。

 千枚通せんまいどおしかアイスピックかわからんが、太くて長い針状の金属の先を。

 足は止めず、速度も緩めず、目をらさず、声もあららげずに応じる。

 

「好きにしろ」

「うぇっ――マジで、マジでやんぞっ、ぉいっ!?」

「好きにしろ。だが刺したら、それを使ってお前の目をつぶす。グッチャグチャになるまで潰す。まず右目から、次に左目だ」


 凶器を指差しての予告で、俺の本気は十二分に伝わったらしい。

 目線が泳ぎ気味になり、凶器の先端は震え、人質をかかえる力も抜ける。

 その隙を見逃さず、アルジェントがニット帽の拘束から離脱した。

 わたわたしたキレの悪い動きでも、ビビッて動けないより五百倍マシだ。

 何の遠慮えんりょらなくなったところで、大きく息を吸う。

 そして息を詰めたまま、標的に向かって全速で突進。


「ひぅいっ」


 シャックリの出来損できそこないめいた音を残し、ニット帽は車の方に逃げる。

 危険を判断して撤退するのは、選択としては正しい。

 だが、この状態での背を向けての遁走とんそうは、完全に不正解だ。

 しかも逃げ足が遅いし、途中で足をもつれさせてスッ転んだ。

 何なんだコイツは、と呆れながらも追い付き、そのまま前に跳ぶ。

 そして起き上がりかけた相手の背中に、右膝から落下した。


「フッ!」

「おんごっ――」


 強く息を吐くと同時に、ニット帽の背――肝臓周辺へ着地。

 その衝撃で、アスファルトに額を打ち付ける追加ダメージも入る。

 ヤケクソで暴れられる前に、行動不能にしておいた方がいい。

 そんな計算から、耳の裏を狙って拳を繰り返し突き込んでおく。

 薄皮越うすかわごしに骨を殴る感触が四回、そこで相手の反応が消えた。


「あぁもうっ! ヒドいじゃないか、ケイト!」

「何言ってんだ、ちゃんと助けただろ」

「結果的には無事だったよ? でもさ、基本見捨てる方向だったじゃん!」


 一段落したところで、アルジェントが抗議の声をぶつけてくる。

 転がった千枚通しを拾いつつ応じるが、納得からは程遠い様子だ。

 

「まぁ落ち着け。あの場合は――っと、まだ終わってないらしい」


 エンジンのかかる様子がないが、どうするつもりなのか。

 そう警戒していたレオーネの助手席から、小柄こがらな人影が降りてきた。

長らくお待たせしました……が、内容的にはいつも通りな感じです。

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― 新着の感想 ―
>薄汚れた車が視界に入る。 確かレオーネの……エステートバンだか、ツーリングワゴンだか そういえば某石原軍団の作品、トヨタ車以外に乗っているキャラが出ていると犯人だと演技に関係なく分かったという都市…
主人公のことを聞いてきてるからひょっとしたら強いかと思ったが、普通に雑魚だったな 主人公の強さはフクロにすりゃどうにでもなるみたいな楽観で聞き流してたかな?
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