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モブキャラ人生が終了したら二周目が始まったんで、今度は主人公になりたい  作者: 長篠金泥
第4章

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第130話 「狙いは俺じゃなくて、ウチにいる誰かだわ」

 赤っぽい革ジャンに破れたジーンズ――服装の方向性は他二人と同じ。

 ジャンパーの下の黒シャツは、ディスチャージのバンドTだろうか。

 半端な長さの金髪は一見ボサボサだが、そう整えられている雰囲気だ。

 華奢きゃしゃな男かと思いきや、体型的に二十歳前後の女だったらしい。


 二人の仲間が蹴散らされたのを見ておいて、戦意がおとろえていない。

 俺をにらみながら、パンク女はヨタヨタした歩調で距離を詰めてくる。

 コチラに対抗できる手段があるのか、もしくはラリっているのか。

 どちらにしても、気を抜くとおかしな流れになる危険がありそうだ。

 女の動きを注視していると、レオーネの後部座席からもう一人出てくる。


「なるほど……そいつが自信の源か」


 姿を見せた男は、さっきぶちのめした長髪より少し身長が低い。

 しかしデカい――手足も首も太く、肩は筋肉で盛り上がっている。

 日焼けした肌のせいで、ボディビルダーっぽさも感じられた。

 だが肉のつき方からして、現場仕事で作られたナチュラル体型だろう。

 丸いレンズのサングラスに、標高が低くて染めてないモヒカン。

 他の連中と雰囲気が異なるのは、作業着姿が馴染なじんでるせいか。


「ケイト、どうすんの?」

「あいつらは、俺が何とかする。アリスは……転がってる奴らから、鍵とか財布とか抜いてくれ。あと散弾の入ったバッグも回収。その後で尋問だな」


 振り返らずに指示すると、背後のアルジェントがモタモタと動き出す。

 情報が足りないから、とりあえずコイツらが何者か把握はあくしておきたい。

 訊いても答えないだろう、とは思いつつも一応やるだけやっておく。


「で、誰に頼まれたんだ?」


 パンク女は問い掛けを無視し、ポケットから何か抜き出す。

 黒い金属棒――いや、刃まで黒く着色してあるナイフだ。

 暗殺者かよ、と笑いたくなるがトンチキなデザインでも刃物は刃物。

 女の挙動を視野に入れたまま、モヒマッチョがどう出るかを警戒。

 コイツは武器を使わないようだが、デカい奴はそれだけで脅威だ。

 芦名あしな奥戸おくとがいれば、深く考えずに任せられるんだが。


「ツレは意識不明の重体だが、ちゃんと見えてるか?」


 あおり気味に確認するが、これといった反応は引き出せない。

 モヒカンはサングラスで読めないが、女は目がわっているようだ。

 その様子からして、冷静沈着なキャラというワケでもないのだろう。

 となると、こいつらは臨時で組まされた急造グループなのかも。

 そんなのを俺にぶつけてくる、雇い主の意図が読めないな――ん?


「ぬぉ――っとぉ!」


 パンク女がナイフを持った右手をスッと上げ、刃先をコチラに向ける。

 さっきまでの険しい表情がゆるみ、笑顔に似た崩れ方をしていた。

 丸いグリップ、妙な形状のヒルト――俺はコレを知っている。

 この後で何が起きるかの情報が、記憶の底から浮かび上がった。

 詳細を思い出すより先に「マズい」と警報めいた感覚がはじけ、左に跳ぶ。

 それとほぼ同時に、一瞬前まで自分のいた場所を何かが高速で通過した。


「珍妙なモン、持ち出すんじゃねぇ!」


 怒鳴りながら、攻撃対象との六メートルほどの距離を数歩で詰める。

 パンク女の勝ちを確信した笑みは、二歩目で跡形なくヒビ割れた。

 スペツナズ・ナイフ――もしくはバリスティック・ナイフ。

 ブレードを発射するギミックをそなえた、ソ連の特殊部隊が使用していたとされる遠近両用の武器だ。

 前世でも時々遭遇した面白アイテムだが、まさかこんな所で再会するとは。


「ヒァ――ぁびゅっ! がっ――」


 逃げも構えもしない女の腹に左拳を突き入れ、発しかけた悲鳴を強制停止。

 頭が下がったところで、右の平手を振り抜いてよこつらを張り倒す。

 体重が軽いせいか、フワッと一回転してからパンク女は地面に沈んだ。

 呼吸を整えつつも動きは止めず、後ろに控えるモヒマッチョに狙いを移す。

 二人で連携しての攻撃も想定していたが、モヒカンはにぶいのかやる気がないのか、足を止めてボサッとしていた。


「まっ――待て待て待てっ! 違う、違うんだっ!」


 コイツもかよ――当たり前だが、待ってなどやらない。

 刺青いれずみニット帽もそうだが、話なら敵対行動を取る前にしてくれ。

 一方的に不利になった状況での、ルールにないタイムアウトを誰が認めるんだ。

 本当に何かしらの事情があるのかもしれんが、とりあえず聞いてやるのは戦闘不能にしてからだな。


「だぁらっ、待てってんだろっ!」


 止まらない俺にキレながら、モヒカンが前蹴りを繰り出す。

 速さもあって重さもある、けれどもどうにも軽い。

 体格差からして、命中すれば大ダメージの一発になる。

 しかし、ワザと当たりにでも行かない限り、まず当たらない。

 牽制けんせいのために放ったのが丸わかりの、隙を生み出すだけの蹴りだ。


「なっ、とぁっ、ヤメぇえっ――」


 伸びきった蹴り足を掴んで、そのまま前に押し出していく。

 モヒカンは一歩、二歩と軸足で跳ねて耐えようとした。

 だが、三歩で限界に達して体勢を崩し、尻と背中を強打する形で転倒。

 そこで手を放し、追撃の姿勢に移行しようとするが、モヒカンは素早く身を起こす。

 さっきまでの鈍重どんじゅうさは演技か――何にせよ、とりあえず動きを止めねば。


「おぷっ、まっ、待てって、別になぁ――」

「やかましい、黙れ」

「いいから、聞けって! 別に、アンタらとやり合うつもりは――」

「ソッチになくても、コッチはたっぷりある」


 モヒカンに組みついて首に右腕を回し、いつでも絞められる状況を作った。

 相手の膂力りょりょくだと、強引に逃げられる可能性も十分ある。

 だから、キメる時はマッハで終わらせないと、俺が危ない。


「アンタを足止めしろって、そう頼まれただけなんだよ!」

「いつ、誰から、報酬ほうしゅうは」

「くっ、詳しくは知らねぇ! 話を持ってきたのはジュディだ!」

「ジュディ?」

「そこのっ――とにかく、アンタを家に帰らせるなって、そういうぅうっ!?」


 そこまで聞いて、ギロチンチョークで気道と血流をふさぐ。

 ノーガード状態から仕掛けたので、一瞬で綺麗に決まった。

 抵抗の気配があったのは数秒だけで、モヒカンの全身はすぐに脱力。

 グンニャリした筋肉塊を放り、酷使されて痺れの出た右腕をフルフルとほぐす。


「アリス、事情聴取はナシだ! 速攻でウチに戻る!」

「たぶんコレ、車の鍵っ」


 アルジェントが投げてきた、キーホルダーのついた鍵をキャッチする。

 思いっきり軌道きどうがズレてるせいで、ちょっとしたファインプレーみたいなジャンプを披露してしまった。

 キーホルダーには、カラフルでリアルな蝶だか蛾のイラストが描かれている。

 だがよくよく観れば、樹脂の中に本物が封じられているヤツだった。


 パンク女――たぶんジュディから、ナイフのグリップと替えのブレード数本を回収。

 本名か綽名あだなか知らんが、まぁどうでもいいことだ。

 モヒカンからは、ナイロン製の二つ折り財布を没収しておく。

 ジックリ探ればもっと色々ドロップするだろうが、今は時間が惜しい。

 アルジェントを待たずに、レオーネのバンだかワゴンだかの運転席にすべり込んだ。


「きったねぇなぁ、オイ」


 足元は菓子パンの袋や、空き缶が転がっていて邪魔くさい。

 デカめのゴミを車外に投げ捨て、煙草の灰だらけのハンドルを払う。

 ゴミ以外にも物が無駄に多く、とにかく雑然としている印象だ。

 広めの荷台には、ギターケースやケーブルやアンプが積まれている。

 あいつら、それっぽいとは思ったがホントにバンドマンだったのか。

 何でそんなんが襲ってくるんだ、と思いつつセルを回せば三度目で点火される。


「いや、コッチだ。運転を頼む」


 助手席のドアに手をかけたアルジェントを止めて、席を移る。

 反対側に回り込んだおっさんは、車内の惨状にウッと顔をしかめた。

 だが黙って自分の荷物とダッフルバッグを後部座席に放り、ハンドルを握る。


「急いでくれ、アリス。狙いは俺じゃなくて、ウチにいる誰かだわ」

「となると、綾子くまたま鵄夜子しやこさんがヤバいの?」

「芦名って線もあるが、たぶん姉さんか綾子あやこのどっちかだろ」


 俺の言葉に頷いたアルジェントは、ポンコツ車を発進させて大通りに入る。

 車体の振動が大きすぎるが、とりあえず自宅に着くまで持てばいい。

永遠に感じた花粉との死闘も、ようやく終盤戦に突入しつつある気配です……

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― 新着の感想 ―
芦名の活躍が見られるのかな?期待してます。 ところで花粉症の薬は服用されてますか。私は十数年来ドーピングを続けていますが処方薬では「ザイザル」が一番だと思います。町医者に行って依頼すればすぐ処方し…
更新ありがとうございます。ワンマンアーミーが組織に勝てないパターンだよな。しかも主人公と面識ないのを囮に使う、いやらしい流れだ。
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