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第25話 知っている

「止めないのですか?」


 遠くで、アンナちゃんがシフア先生に訊ねる声が聞こえた。


「大丈夫だよ、ミナリーなら」


 先生は、わたしをじっと見つめながらそう答えている。まるで心配した様子はなくて、大丈夫だと確信しているようだった。


 不思議と、わたしも同じ気持ちだった。


 根拠も何もないはずなのに、この程度なら問題ないと頭が理解している。見たことがないくらい強力な魔術を向けられているのに、直撃すればたぶん死んじゃうのに。


 ……大丈夫。この程度なら、防げる。


「〈叫び、轟き、吹き荒れろ〉」


 ロザリィは紡ぐ。


 魔術の詠唱。それは、イメージの構築。


 決まった法則はない。


 人ぞれぞれのイメージを形にするために、言葉にし、声にして、唱にする。


「〈蹂躙、蹂躙、蹂躙。壊せ、抉れ、吹き飛ばせ〉」


 物騒な唱だなぁ……。


 彼女が詠うごとに魔力の奔流は風を纏い、二本の巨大な渦が出来上がる。


「〈爪痕を刻みなさい――風牙双激〉‼」


 そうして、魔術が放たれた。


 二本の巨大な風の渦は先端を前にして、わたしに向かって飛来する。


「ぎゅんっと来て、しゅばーん」


 わたしは、アリシアから聞いた言葉を思い出していた。


『ようはタイミングとイメージよ。ぎゅんって来たら、しゅばーんって魔力の壁を作るの』


 実際に向かってくる魔術を見たら、アリシアが言っていたことも何となくわかるような気がした。


 たぶん、こうだ。


 魔術を使うときに近い。体内の魔力を感じて、壁をイメージしながら放出する!


「ぎゅんっと来て、しゅばーんっ‼」


 直後、目の前で風の渦が爆ぜた。


『きゃぁあああああッ』


 強風が吹き荒れ、悲鳴が木霊する。周囲一帯を砂煙が覆い隠した。


「くひひっ。あーはっはっは! これが実力の差ですわ、ミナリー・ロードランド! わたくしに楯突くからこうなるのです。生きていますかしら? 息をしていたら褒めて差し上げますわ」


「へー。じゃあ、無傷で立ってたら何してくれるの?」


「は……?」


 砂煙が晴れて、わたしの姿を見たロザリィが目を丸くした。


 そんなに驚かなくてもいいのに。


「な、なぜですの……? なぜ、あなたは立っていられるんですのよ、ミナリー・ロードランドッ‼」


「なぜって、魔力シールドで防いだだけだけど」


 ぶっつけ本番。一か八かでやってみたけど、何とかなった。


 ただ、完全には相殺しきれなかったようで、魔力が爆ぜてしまった。成功していれば魔術と魔力が相殺しあって、先ほどのアンナちゃんのように、魔術を完全に消滅させられたはずなのだ。


「あ、ありえませんわ……。わたくしの全力の一撃が、平民のシールドを破れないなんて! 由緒ある魔術師の家系に生まれたこのわたくしの魔術が、平民に防がれるなんてっ‼」


「わたしの勝ちでいいかな、ロザリィ」


「まだですわ‼ くふふっ、くはははははっ! ここからですわよ、ミナリー・ロードランド! 一度のまぐれでいい気にならないでもらいたいですわねぇ‼」


「じゃあ、まぐれかどうかとことん試してみようよ」


「上等ですわ‼」


 再びロザリィの周囲の空間が歪み、魔力の奔流が渦を巻く。


「〈壊せ、壊せ、壊せ! 蹂躙、蹂躙、蹂躙ッ‼〉」


 もはや唱でも何でもない言葉の羅列は、されどさっきよりも巨大な渦を二つ作り出す。


「〈風牙双激〉ぃあああああああああああああああッッッ‼‼‼」


 咽喉を殺すような叫び声とともに放たれた二本の渦は、さっきよりも速く、鋭く、わたしに向かって襲い掛かってくる。


 けれど、――大丈夫。


 その魔術はもう、知っている。


「魔力シールド……っ!」


 二本の渦に向かって両手を突き出し、魔力を展開。向かってくる魔術と同等の魔力を、真正面からぶち当てるッ!


「はぁあああああああああああああああああああああああああっっっ‼‼‼」


 魔術と魔力がぶつかり合い、空間が軋みを上げる。


 そして次の瞬間、パッと魔力が弾けた。一度目は相殺しきれず爆ぜた魔力は、今度こそ完璧に相殺されてこの世から何ら事象も起こさず消滅する。


 成功した……っ!


「そん、な…………ぅっ」


 ロザリィはふらふらとその場にへたり込んで、頭を押さえて顔を顰めた。急激に魔力を使いすぎたことによる、体の拒否反応。魔力切れの前兆だ。


 もう、ロザリィに今のような大技を出せるだけの魔力は残されていないだろう。


 あとは簡単だ。


 この後どうすればいいか――〈私〉は知っている。


「ミナリー、そこまで。勝負はついたよ」


 と、目の前にシフア先生が割って入ってきた。


 ハッとしてみると、ロザリィはへたり込んだままぷるぷると肩を震わせていて、目じりに涙を浮かべながらキッとわたしを睨んでいる。


「きょ、今日のところはこれで勘弁してあげますわ! 憶えておきなさいな、ミナリー・ロードランド! 次こそ……次こそ負けませんわよぉおおおおおおおおおおおぉぉぉ……」


 ロザリィは制服の袖で目元を拭いながら、校舎の方へと走り去っていってしまった。


「えぇぇ……」


 そんな、泣かなくても……。


「あーあ。ミナリーがロザリィを泣かせちゃったー」


「ちょっ、アリシア⁉」


 いつの間に近くに来ていたアリシアがそんなことを言ってくる。べ、別に泣かせようとしたわけじゃないというか、そもそも突っかかってきたのはロザリィだもん!


「冗談よ、ミナリー。やったわね」


「んもぅ……。これでしばらく大人しくなってくれるといいけどね」


「あの感じだと、どうかしら。次は負けないって言ってたし」


「だよねぇ。あはは……」


 勝つには勝ったけど、これからも色々絡んできそうだなぁ……。


next→第26話 無表情だけど


2020:11/8更新

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