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第26話 無表情だけど

「ごめん、ミナリー。あたし用事あるから」


 放課後になってアリシアに一緒に帰ろうと誘ったら断られた。


「よ、ようじ……? も、もしかして、これから誰かと放課後デートですか……?」


「違うわよ。というか、なんで敬語なのよ」


「だ、だって! アリシアさっきまでわたしにべったりだったじゃん! てっきり、今日も一緒に帰って一緒にお風呂に入って一緒にご飯食べて一緒に寝ることになるかと思っていたのに!」


「いや、なんで急にあんたのほうから依存度増してきてるのよ……」


「っていうのはまあ冗談で」


「おいこら」


 でもまあ、断られたことには正直ちょっと驚いた。


 用事っていったいなんだろう?


「姉さまが言ってたでしょ。月末にある新入生歓迎レース。それに向けて、調整をしておきたいのよ」


「調整って?」


「箒とか、あたし自身のコンディションとか」


「月末までまだ二週間もあるのに。気合入ってるね、アリシア」


「当然でしょ。万全の状態で挑まなきゃ、姉さまには勝てないわ」


 入学試験のレースをぶっちぎりで優勝したアリシアが、そうまでいうアリス先輩っていったいどんな飛行をするんだろう。


 アリシアは気合を入れるように髪を結びなおして、よしっと箒に飛び乗った。


「少し遅くなるかもしれないから、今日はそのまま自分の部屋に帰るわ。また明日、学校で会いましょ」


「あ、うん。またね、アリシア」


 わたしは手を振って、飛び去って行くアリシアを見送った。


 ……やっぱり、速い。真っ赤な箒はみるみるスピードを上げて、夕日を浴びてキラキラと光る金色の髪が遠ざかっていく。


 一人残されたわたしは、箒に乗って一人で寮へ帰宅した。


 ちょっと、寂しいな。こっちに来てからはほとんどずっとアリシアと一緒だったから、アリシアが居なくなるとわたしは一人ぼっちだ。


 遅刻やロザリィとの勝負で悪目立ちしてしまったせいか、教室ではちょっと避けられているような気もする。わたし、アリシア以外に友達できるかなぁ……。


 不安に気分をどんよりさせながら、寮のベランダに着地して窓から帰宅する。


「ただいま」


「お帰りなさい。……一人ですか?」


 先に帰っていたアンナちゃんが、わたしを全裸で出迎えた。カーペットの上には脱ぎ散らかされた制服と下着が散乱している。


 わたしは無言で近くに落ちていたシャツを拾って、アンナちゃんに上からかぶせた。


「うん。アリシア、今度の新入生歓迎レースの練習だって」


「そうですか。ところで、なぜわたしはシャツを着せられたのですか?」


「服を着ていなかったからだよ」


 それ以外に理由なんて必要だろうか。


 アンナちゃんは「そうですか……」と何かをあきらめた様子で、ソファの上で三角座りをする。いつもの感情を読み取れない表情で、ぼーっと虚空を見つめ始めた。


 不思議な子だなぁ……。


「そういえば、アンナちゃんって魔力シールド得意だよね? 誰かから教わったりしたの?」


「故郷に居た頃、家庭教師から教わりました」


「そうなんだ。じゃあ、後ろから飛んできた魔術をシールドで防ぐのってどうやるの? アンナちゃん、シフア先生の魔術を見ずに防いでたよね? コツみたいなのがあれば教えてもらえると嬉しいなー……なんて」


 いつロザリィから不意打ちを受けてもいいように、身を守る術は多いほうが心強い。


 けれど、アンナちゃんはわたしのほうを見ると、ふるふると首を横に振った。


「コツなんてありません」


「そうなの?」


「はい。これは、わたしの体質です。ミナリーさんになら、見えるかと思います」


「わたしになら見える……?」


 それはつまり、魔力ってこと?


 一見、アンナちゃんに変わった様子はどこもない。けれど、しっかりと集中して目を凝らすと、かすかにアンナちゃんの周囲の空間が歪んで見えた。


 微弱な魔力が、常にアンナちゃんから周囲に放たれている……?


「見えましたか?」


「うん、何となくだけど……。もしかしてアンナちゃん、常に魔力を流し続けてるの?」


「それがわたしの体質です。この体から常に漏れ出ている魔力が、接近する魔術を探知します。それに合わせて魔力シールドを張っているだけです」


「へぇー……」


 常に体から魔力が漏れ出ているなんて、すぐに魔力切れを起こしちゃいそうだ。そうならなくて、しかも魔術シールドまで張れるんだから、アンナちゃんは物凄い魔力量を持っているんだと思う。


「凄いなぁ、アンナちゃん」


「ミナリーさんこそ、先ほどの授業での魔力シールドは素晴らしいものでした。あれほどの強力な魔術を打ち消せる魔力シールドはなかなか出せません」


「そ、そうかなぁ。えへへ……」


 アンナちゃんの言葉には感情がほとんどこもってない分、嘘っぽくなくて褒められると素直に照れてしまう。


 それからしばらく、わたしはアンナちゃんと何気ない会話をして過ごした。


 そうして一つ、知ったことがある。


 アンナちゃんは常に無表情だけど、話せば話した分だけ話しを返してくれる。


 受け答えは淡々としていて、けれどそれは話に興味がないからとか、わたしに興味がないからでは決して無くて。


 アンナちゃんはアンナちゃんなりに、ちゃんとわたしと向き合ってくれている。


 だからつまり何が言いたいのかと言えば。


 わたしはアンナちゃんと、友達になりたいと思った。

・2020/11/8

本日6時~22時まで、2時間ごとに1話更新していきます。

計9話です。

次話は8時すぎ更新予定。


ブックマーク、評価、感想、レビュー、賜れますと作者は非常に喜んで執筆活動に邁進します。

何卒宜しくお願い致しますm(__)m

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