53話 帰り道②
「あんた.....エグルだろ?」
俺はこの男を知っている。そして彼の狙いがセリナだということも。黒い帽子に黒いスーツ姿。見間違えるわけが無い。
彼は深く被った帽子を手で挙げる。そして軽く手と手を叩いてみせる。
「名前を覚えてくださっていたとは。私もうれしく思いますぞ」
不気味な笑みを浮かべながら話す。
「それで......」
と前置きをしながら、俺は相手を見据える。
「あんた一人で来た訳じゃあ無いよな」
辺りを見渡して他の気配を探る。目の前にはエグルの姿しか見当たらないがどうも怪しい。
「お察しが良くて助かりますよ、二斗どの。さよう、貴方は私たちのテリトリーの中に既ににはいっているのですよ」
木々の中からこちらを見ている瞳が写っている。数は5,いやもっといるのかもしれない。
「貴方は私に用があると言ったわよね。二斗とリストに危害を加えないでいただけるかしら」
彼女の落ち着いていながらも、ハッキリとした力強い口調が草原に響き渡る。
「セリナ王女はずいぶんと成長されましたな。王様にベッタリだった昔を思い出しますな」
こちらをからかう様に楽しげに話すエグル。
「ダメだよセリナ。お前抵抗しないと殺されちまうんだぜ。それでもいいのか!」
俺は自分の心に問いかけると同時に彼女の意見を聞く。
「殺すだなんてあいつのハッタリに過ぎないわ。もし殺すようなら、あの人は必ず報復されるわ。だから心配しないで」
「セリナ。私は今の状況がよくわかっていなくてなんて言えばいいのか分からないけど、私はセリナと別れたくなんか無い!」
そうだその通りだよリスト。どんなにセリナの意見が的を得ていたとしても、俺とリストの気持ちまでは汲み取ってはくれない。口に出さなければ分からないことだってあるんだ。
俺は口に空気を思いっきり吸い込む。
「お前達の好きにはさせねぇ! そっちがやる気なら相手になってやる」
震える足に力を入れながら話を進める。
「ちょっと二斗。私はそんなこと頼んでいないわ! なのにどうして.......」
セリナは困惑気味の表情を見せている。ああ、俺はそういうお人好しの所が好きなんだ。だけど......
「お前が無事でいられる保障が無い以上、素性も知らない輩にやすやすと渡す訳にはいかない。それに俺の記録をつけるという王様の命に逆らうことになるんじゃ無いか」
直前に考えて書いていますので、矛盾が生じていれば感想欄にてお知らせいただきたく思います。




