43話 リストバンドはどこへ
ベッドには時計らしきものは見当たらないが、この眩い日差しを無視して程寝る必要性を感じられない。カーテンを閉めておけばもう少し寝られていたのに。そんなくだらない事を考えつつも体を起こす。準備体操を少し行った後、
「さぁ今日も張り切って頑張ろう!」
自分を奮い立たせるように言った。テンションが高いまま部屋を後にする。二人が起こしてくれるようなシチュエーションを考えていたが、どうやら俺の妄想のうちでしかなかったようだ。
「はやいな、二人とも」
セリナとリストはキッチンで、料理をしている。俺が起きるの遅かったのかなとか考えてはいた。
階段を下りて一階のテーブルに向かうと朝食の準備が着々と進められている。俺も手伝うべきだったろうか。
「おはよう二斗」
「二斗やん。おはー」
「おはよう」
こうして、朝の挨拶をしたのは久しぶりだったのでなんか変な気分だ。でも悪くない。
「では、いただきます」
セリナは、俺の動作を見て、
「手を合わせることに何の意味があるのかしら」
と尋ねてきた。
「そりゃあ、食材になってくれたモンスター、作ってくれた人への感謝の気持ちを込めてだよ」
現世にはモンスターはいないがだいたいは同じことだろう。
セリナは頷いた後、俺と同じく手を合わせる。
「それは立派な心構えよね。私も真似するわ」
それを聞いていた、リストも私もと言わんばかりにささっと手を合わせた。
「じゃあいいか。せーので(いただきます)というんだぞ」
仕切るつもりはなかったのだが、せっかく教えるのであれば正しい所作を身に付けて欲しいという配慮からだ。
「わかったわ」
「うん」
「せーの!いただきます」
ほぼ同時に発せられた言葉、清々しい気分だ。小学生の給食当番でやっていた事を思い出すなぁ。懐かしい。それぞれ食べたいものを手にする。
◇ ◇ ◇
朝食を終えると、着替えをして出発する。
「噴水前にいくんだよな」
「そうね。一番有力な情報が手に入りやすいところからいくのが無難よね」
「うん。いこうよ」
噴水前までの道を歩いていく。やはり獣耳をみるとうれしくなるな。また変な性癖をさらしてしまう所だった。にやける顔を歯を食いしばって我慢する。
「おっちゃん。久しぶり」
声をかけたのはリストだった。声のトーンから察するに仲がいい事が伺える。
「おーリスト久しぶりだな。元気にしておったか」
「うん。おっちゃんも元気で何よりだよ」
彼女は笑顔で答える。
「それでな、紋章が描かれたリストバンド売ったの覚えてるか?」
再開の挨拶を済ませた後、早速本題に入っていく。
「ああ、あれか。昨日の夜、買いに来た奴が追ってな」
「黒いマント着ていませんでしたか!」
話に割り込むように俺は質問する。
「着ておったぞ。どうしても欲しいというから売ってあげたんじゃがな」
「どこにいるか分かるのか」
「グランド王国に帰るっていっておったぞ。胸元に軍証をつけておったのぉ」
「ありがとう。おっちゃん」
よし。ここまでの情報があれば確実にキグナスはここに来ていた。そして今はグランド王国にいることも分かった。
「よし、グランド王国に戻ろう」
どうして殺しに掛かってきたのか今度こそ確かめてやる。
◇ ◇ ◇
俺達はセイント軍の基地の前まで来ていた。
「二人は少し待っていてくれ」
心配そうな二人を余所に俺は扉を開ける。
「キグナス!いるんだろ」
地下階段から足音が聞こえる。だんだんと音が大きくなっていく。
「二斗。生きていたんだな」
「わるかったな。どうして俺たちを殺そうとする。リストバンドは見つかったのだろ」
「ふぅ。僕はね王様に盗まれてしまった事を知られたくないんだよ。君たちには王女がいるんだろう。遅かれ早かれ気づかれてしまうかもしれないし、王様の命令は絶対だから。自害しろと言ったら従わなくてはいけないんだよ」
ため息を付きながら話す。
「自殺なんて王様が口にすると言うのか」
「お前に何が分かる!このリストバンドを悪用されていたら今頃大変な事になっていたのかもしれないってのに!」
「でも実際は起きていない。ならそれでいいんじゃないか。王様への忠誠心がある事は誇るべきだろう。だけどそこまで気負う必要も俺は無いと思うぜ。
俺はクエストで稼いだ金貨を取り出す。
「いくらしたんだよ。これはリストの罪滅ぼしのためだ。お前が出したお金分を立て替えさせてもらう」
「本当にお人よしだお前は。目の前に自分を殺そうとしたやつがいるってのに」
「お前は悪い奴じゃないってことは俺は分かってるから」
金貨10万GCをキグナスに渡す。
「そうだ。このリストバンドについて説明してあげよう。民の右腕にある鳳凰の紋章についてはお前は聞いているだろう。王国民としての証のために付けられているものだ。そしてこのリストバンドは階級で言うと王より一つ下の地位である事を証明するもの。すなわち民に命令を下す事をゆるされているということだ。
そして命令は絶対。仮に俺が王を殺せと命ずればそのように動くだろう。逆らうのであれば僕が殺す。この国は王が絶対的存在なんだよ」
彼は長々と話すので眠くなってきてしまった。
「盗まれたのはお前の失態でもあるんだろ。なら今度は気を付けないとな」
俺はそう呟いた後、基地を去っていく。




