42話 別荘
何の話だったけか。ふとセリナの照れ顔を見ていてたら時間だけが過ぎていることに気付いた。
「あ、リストの姿が見あたらないのだが、どこにいるんだ?」
自分の身の話より聞かなければならない事は、こちらの方が先だった。俺とセリナが無事だから大丈夫だろうけど。
「リストちゃんは、料理が得意なのよ。知らなかったでしょう。さっきまで2人で夕食の支度をしていたのよ」
「悪いな。なんか俺邪魔してしまったみたいで」
正直に言うと料理作っている姿を見て見たかった。
彼女は俺の方へと身体を近付けると、
「心配してるからこうして見に来たのよ。それに、リストちゃんが、1人でできるからと言っていたから......」
「そっか、心配してくれてありがとう」
俺は顔を背けつつ感謝の気持ちを伝える。窓からは涼しい風が吹いてきている。が俺の体温は上昇気味になっている。
彼女は体勢を整えるとベットからヒョイと立ち上がる。
「どういたしまして。さぁご飯にしましょう!」
両腕をピンと伸ばして、背伸びをする。
「そうだな」
飯が食えることよりも、2人の手作りの料理を食べれることにテンションが上がっていた。
すっかり日が暮れていた事に気付いたのは今さっきの事で。確か意識を失ったのは、昼過ぎだったから、時間にしたら5、6時間ほど寝ていた事になるのか。
俺は部屋を後にし、歩いて向かう。
◇
「シュナイダーは......」
あの姿では、生きてはいないのかも知れない。ただ、どうなったのだけが知りたい。俺はあの人からこの世界の事を知ったのだから。
「あの人は......傷が深くて助けることができなかったわ」
声には覇気が無くて弱々しい。いかん。彼女にとっては言いたくも無いことを聞いてしまった。
「セリナは悪く無いんだ。だからあまり自分を責めないほうが良い」
俺が殺したんだから。
階段を降りて、香りが強くなっているのを感じた。
リストは椅子に座って俺たちを待っていた。
長いテーブルには、美味しそうな料理が並べられている。定食並みの量が盛られており食欲をそそられる。
「二斗やん、目が覚めたんだね。冷めないうちに食べて」
俺はリストの隣の席に座る。セリナは俺の向かい側に腰掛けた。
「どうよ?美味しいでしょ」
俺が一口目に手を出したとき、リストは興味ありげに問うてきた。
「うまいな!このコリコリの感触がたまらん」
素材は分からないが、食感とサッパリとした味わいが妙にマッチしていてうまい。
「それはね、サハギンのカルパッチョなのよ」
セリナは料理の説明をしてくれる。
「よかったね、セリナ」
リストは小さく呟く。セリナは顔を赤らめて、
「私が作ったのだから美味しいに決まっているわ」
言うと、腕を組みこちらをじっと見つめる。
俺は目のやり場に困ったので、
「ああ。その通りだよな」
同意する事で彼女の機嫌を戻す事に成功した。
◇
食事を終えて、キグナスの件についての話が始まった。無論切り出したのは俺である。
「リストが盗んだっていう、リストバンドは今どこにあるんだろうな」
ちらっと様子を見ながら質問をしてみる。
「それが......私バザーのおっちゃんに売っちゃったから分からないんだよね。売れ残っていれば別だけど」
そうだよなぁ。稼ぐために盗みを働いていたんだから当然と言える。
「リストちゃんが、いつ売ったかにもよるわね」
確かに。リストは首を傾げると
「よく覚えていないんだ」
申し訳なさそうに答える。
「忘れているんなら仕方ないか。明日バザーのおっちゃんに、聞いてみようか」
「そうね」
「うん」
別荘の全体像は掴めてないが、広いという事は確かのようだ。なにせ俺が寝ていた部屋の広さが何箇所もあるんだから。それぞれ別の部屋で朝を迎える。




