35話 イザコザ
外には出て来てはみたものの、病院なんて存在するのだろうか。仕方ないこの際やけっぱちだ。
それっぽい所に入るしか無い。セリナの容態が悪化する前に!
外は暗くなってきている。
「君たち僕が瞬間移動出来る事を忘れていないかね。君たちには逃げ場はないんだよ」
街の空間が歪む。
目の前の黒い異空間から声が聞こえた。
黒いコートの男に道を塞がれた。キグナスはどうやらやすやすと逃がしてはくれないみたいだ。
俺は隣にいたリストに耳を掴まれる。
「ここは私がなんとかする。だから二斗やんは先に行って」
どうするつもりなんだ。こいつを足止めするには、杖を奪わなければならないのに。
「何をコソコソと話をしている。2人とも僕が始末するんだからな!」
杖を構えて詠唱の準備をしている。
「もらった!」
リストが瞬歩の能力でキグナスの杖を一瞬にして奪いこちらに投げつける。
「チッ!」
彼の地面に描かれた魔方陣は姿を消す。
詠唱は解かれキグナスは舌打ちをする。
リストはこちらを振り向き。
「二斗やん今のうちに」
「ああ!」
俺は焦って足を踏み外しそうになるが、その場から離れるため路地をひたすら駆け抜ける。
リストありがとう。必ずお前の事を迎えに来る。それまで無事でいてくれよ。
「まんまと逃がしてしまったみたいね」
「僕と1対1でやりあおうってのかい。随分と舐められたもんだ」
◆
「ここは一体......」
背中から感じる吐息がむず痒く感じる。だがその声はかすれていて、息使いもさっきよりより一層荒くなっている気がする。
「馬鹿。今は喋らずジッとしていれば良いんだよ」
俺の肩を強く握りしめ。
「そうね」
この言葉を最後にセリナの声は途絶えた。
何処でも構わず走り、そしてようやく十字架が掲げられている教会を見つける。
「誰か居ますか!」
神にもすがる思いで、必死にドアを叩く。
「居たら返事してくれ!」
俺の声に反応してドアはゆっくりと開き始める。
「うるさいのよ。今日は定休日だから帰った帰った」
シスターの格好をした黒い髪の女性がいた。耳には派手派手しいイヤリングをしており、手を使い俺たちの進入を拒む。
「そこをなんとかお願いします。こいつを
セリナを救ってあげたいんです」
俺の気迫に押されたのか。深いため息をついて。
「今日は特別な。お代は3割り増しで貰うから」
俺は教会の中へと入って行く。
◆
「あなたは椅子に掛けて少し待ってなさい」
教会の人にセリナを預けて、木の椅子に腰を掛ける。
セリナを仰向けにして女神像の前に静かに置く。
「命は平等であり、儚ものよ。我がこの者の傷を癒そうではないか。
復旧蘇生術」
彼女の周り無数の光が差し込み、それがセリナを包み込んでいく。女神像が少しにこやかに見えるのは気のせいだろうか。
頭のフードを拭うと。
「これで彼女の命は救われた。時期に目を覚ますだろう」
彼女の声は柔らかく暖かい。
「よかった.....ありがとう助けてくれて」
彼女は手を出し。
「お礼なんてもうこりごりなのよ。それよりお金を出しなさい。10万GCよ」
俺は鞄の中から、財布を取り出す。5万GCかないじゃないか。
「10万なんて大金俺には持っていない」
「なんだと! 助けてやったというのにお金がないとは。はぁ」
「5万GCならあるから払うよ。後の5万は必ず返すからもう少し待ってほしい」
頭を抱えてこちらを見つめる。
「それで私は本当に払いに来た人は見たことがないわ。それよかバックレる奴らばっかりよ」
彼女は地団駄を踏み答える。
「信じてくれないか。そうだ。明日クエストに行って必ず返す。なんならセリナをここに置いていっても良い」
リストも時期にここに連れてくる。俺一人でクエストを受けて戻ってこれば良いんだ。
「人質というわけね。君の必死さから見て彼女は君にとって特別な人だというのは分かる。」
彼女は頷く。
「分かったわ。そういえばまだお互い名前も知らないわね。私はミレイ。貴方は」
「俺は新居等二斗」
「名前だけでも覚えて置いてあげるわ。それで貴方はこの後どうするの?」
「俺は戻らなくてはいけない」
「そう」
「ミレイさん。セリナの事をお願いします」
「あなた随分と私に気を許してるわね」
「命の恩人さんを疑うなんてことできないから」




