表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
交響楽(シンフォニー)-遠い旋律2-  作者: 神山 備
私を星まで連れてって!
36/36

闘うお姫様、英断するお嬢様

「お前なぁ、さっさとケツ割る位なら最初からやるんじゃねぇ!」

それを聞いて激怒した翔真に、

「芸能界を辞めるなんて誰も言ってないじゃん。あたしはモデルを辞めたいって言ってるだけだよ」

彩加は真顔で翔真に言い返した。

「あん? それのどこが違うってんだ」

モデルがモデルを辞める。立派な廃業ではないか。そして、

「翔兄だって正直あたしにファッションセンスなんてないと思ってるでしょ」

「……」

逆に翔真は問いかけられて、思わず口ごもってしまう。

確かにセンスがあるとは言えない。ただでさえ女だけでも三人姉妹の末っ子で、その上伯父宅から更には幼い頃から家ぐるみでつきあいのある松野家からとお下がりだけで事足りる状態で、服を買いに行くことなどなかった。

 華野はその状態を嘆き、膨大な服をそのまま着るのではなく、リボン一つ、バンダナ一つ付け加えてオリジナルを追求していたが、彩加にはそれがない。着られれば良いという感覚だ。ただ、モデルもスタイリストが用意した物を着ればいいのだから、選ばなくていい分楽だとも言っていたはずだ。なのに、なぜ今更……そう思った翔真に、

「あたし声優さんになりたいの」

と彩加はそう言って身を乗り出す。

「声優? んなもんモデルやってたからっておいそれとなれるもんじゃねぇだろ」

声優と言えばいまや人気の職業だ。養成所に通ってプロダクションに所属できたとしても、役をもらえるのはその中のほんの一握りだ。

「女優さんでもいいけど、それだと見た目に左右されるでしょ。でも、声だけならいろんな役にチャレンジできるわ。男の子にだってなれるでしょ」

と語る彩加は夢見顔だが、その見た目に左右されないために力量のある大御所とオーディションで肩を並べることになるのもまた事実なのだ。その道はバンドをやっている自分や、アイドルをやっている華野より険しい道だと思う。

「とにかく、養成所に入るのが先じゃねぇのか。基礎もねぇのに、オーディションに受かるほど甘い世界じゃねぇぞ」

口ではそう言ったものの、翔真は自分たちを見つけ出してくれたプロデューサーに頼んで、特撮などを通じて声優業界ともつながりのあるスターライト企画を紹介してもらい移籍をさせた。それを聞いて、

「私には協力してくれなかったのに、ずるい!」

と華野が暴れることになるのはこの少し後のこと。

 尚、この移籍があったから、息子の嫁の兄伏見悠馬が俳優としてデビューできたので、私としては密かに感謝しているのだが。それを言うと華野が怒るので言えなかった。


 だが、その華野もまた、それからあまり時を置かずして『KIRARA』を卒業して芸能界を引退する。

 理由は……結婚。相手はあのアイドルになるきっかけをくれた、翔真のバンドメンバー吉野弘幸だ。

そこでソロに転向ということで卒業し、後日入籍という段取りとなったが、日本のマスコミをナメてはいけない。華野の卒業後のスケジュールがある一定期間以降空白になっているのに気づいた一社が、「HANANO引退、結婚へ!」とスクープしたのだ。当然、マスコミは騒然として彼女を直撃したが、華野は記者たちに対し、

「これからは私は、hirο(弘幸の芸名)だけのアイドルになります」

と毅然と言い放ち、芸能界を去った。そして、その言葉通り、弘幸との間に二児を儲けた今も復帰する予定はない。


 一方、彩加はというと……

声優にはなれなかったが、持ち前の天然キャラを生かして? タレントとしてバラエティーを中心に活躍している。

「いつか、劇場用のアニメのゲスト声優をゲットするんだから」

が、目下の彼女の口癖だ。現状に満足せず闘い続けている『お姫様』のことだ。本当に実現するかもしれない。

                   -Fine-




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ