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追放聖女の帰還  作者: 当麻月菜
聖女に褒美は不要です!

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4

 なぜこんなことになったかというと、浄化の儀を終えて結界の間を飛び出したサーシャは、たった8歩でアズレイトに腕を掴まれてしまったのだ。


 そして抵抗する間もなく、アズレイトの腕に座る羽目になった。


 向かう先は、謁見の間。きっとそこで、不本意な展開が待っているだろう。


 サーシャはアズレイトと出会ってから、ただの一度も自分の思うように事が進でいない。だから悲観的になっているわけではなく、絶対的な確信を持っているのだ。

 

 とはいえ、このまま流されるわけにはいかない。


 サーシャは誰に何と言われようとも、今すぐここから離れるつもりだ。ニワトリが心配なのは本当だけれど、それが理由なんて真っ赤な嘘だ。


 でも、本当の理由は言いたくない。絶対に言えない。だって、それを聞いたらアズレイトが悲しむから。


 もし悲しまずに平然とされたら、サーシャはとてつもないダメージを負うことになる。


 だからどんな手を使っても、アズレイトの腕の中から脱出したいのだが、謁見の間はもう目の前だ。


「サーシャ様、このまま入ることをお許しください」

「許さないって言っても、入る気なんでしょ?」

「さすがサーシャさま。よくおわかりで」


 扉の前で足を止めたアズレイトは、クツクツと喉の奥で笑う。


 今の今、サーシャを詰ったことなんて、すっかり忘れているみたいだ。そう思ったけれど──


「陛下の前で許可なく背を向ける不敬は、聖女様とて二度は許されません。どうか御身を大切になさってください」


 低い声でサーシャに囁いたアズレイトは、要は「逃げるなよ」と訴えている。


 一方、釘を刺されたサーシャは、つい憎まれ口を叩いてしまった。


「私を抱えて謁見の間に入ろうとしている人からそんな忠告を受けたくないです」

「おや?サーシャ様はわたくしを心配してくださるのですか?それは嬉しい限りです。ですが、ご安心ください。陛下には許可を得てますから」

「う、嘘!?」


 そんな暇なんて、なかったはず。


 そう問い詰めようとした瞬間、謁見の間の扉が衛兵によって開かれた。

 

 謁見の間にはエカテリーナを始め、グレスローとや魔導士。官僚たちもサーシャの到着を待っていた。


 エカテリーナを除いたその人たちは、アズレイトに抱かれて入室したサーシャを見ても驚いた表情は見せない。


 礼儀作法に疎いサーシャでも、抱っこで入室するのが普通でないことはわかる。もし仮に許容範囲だとしても、サーシャは恥ずかしい。


(ちょっと!誰かアズを咎めてよ!)


 サーシャは必死に目で訴えるが、誰とも目が合わない。意図して、目を合わせないようにしているのだ。


 そんな無情な人達にサーシャがギリギリと歯ぎしりをしても、玉座の前に到着するまでアズレイトの足は止まらなかった。


「あの部屋に虫でもいたのか?」


 やっとアズレイトから地面に降ろされて、ほっとしたのは束の間。エカテリーナから的外れな質問を受けたサーシャは無言を貫く。


 森で生まれ育ったサーシャが、虫を見て怖がるわけがない。それに完璧に磨き上げられた王宮で、害虫などいるわけがない。


 これは、暗に浄化の儀の後に逃げだした理由を問いただしているのだ。


(冗談じゃない。誰が言うもんか)


 不敬罪覚悟で、サーシャはそっぽを向く。


 そんなサーシャを見ても、エカテリーナは意地悪く微笑むだけ。


 おそらくサーシャが理由を語る気がないことをわかっていたのだろう。何事もなかったかのように口を開いた。


「先ほどはご苦労だったな。念のため宮廷魔導士に確認させたが、瘴気はすべて消滅したと報告を受けた。我が国は救われた。礼を言う、サーシャ」

「あー、いえいえ。そんなこと──」

「と、いうわけでそなたに褒美を取らせる」

「あ、お気遣いは不要で──」

「おぬしの後ろにいる種馬を、そなたに与えよう。良く尽くす良い馬じゃ。貰っていけ」

「はぁ?!ちょ、ちょっと待ってくださいっ。私、そんなの要りませ──」

「それと、帰路の馬車はこちらで用意しよう。長旅になるからな、丈夫なものにする。少し時間を取らせるが、準備が出来次第、呼びに行かせる。おぬしはそれまでは部屋で休んでおけ」 

 

 サーシャの言葉をことごとく遮って、一方的に言葉を放ったエカテリーナは、これまた一方的に席を立つとそのまま奥へと引っ込もうとする。


 さすがにサーシャは待ったをかけた。瞬間、エカテリーナの歩調が速くなった。これは俗にいう”言い捨て”というヤツだ。


 女王がそんな狡いことをするなら、こっちだって礼儀を無視してやる。


 そう決めたサーシャはエカテリーナの背に向かって、しっかり自己主張させてもらう。


「聖女に褒美は不要です!!」


 謁見の隅々まで響く大声でサーシャは強く訴えたが、返事はない。ただただ虚しく、こだまするだけだった。

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