↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
首の誉  作者: しめさば
15/15

エピローグ

 季節の失せた街角。

 空は眩い雲に覆われて、白いハレーションを起こしている。

 桜井はひとり闊歩する。

 すれ違う人は、誰も彼も異様だった。

 皆、仮装をしているか、驚くほど美男美女である。


「銀葉も、黒枝も、色と植物の部位の組み合わせだ」

『はい』

「赤根も」

『そのように意図されて、メーカーにデザインされました』

「知っていたの?」

『何をです?』


 桜井は立ち止まり、交差点に立つ。

 放射状に7本の道路が伸びている。

 その間にそれぞれ、切り分けたチーズのような尖った建物がたっている。

 その中の一つに、一階がカフェになっているところがある。


「蒼月の頭の中では、全部つながってた?」

『私は首です。あなたの頭を支えるだけの』

「屁理屈はいいから」

『屁理屈ではなく、ジョークです』

「減らず口はいいから」

『心外です』

 桜井はカフェに近づいた。

 満席で賑わっている。

 ベルのついた重たいドアを引いて、店に入った。

 すると、喧騒が嘘のように、静謐な空間が広がった。


 店内を見渡す。

 店員はおろか、客の姿もない。

 窓の外を見ると、先ほどすれ違った人たちが歩いている様子もなかった。


「いらっしゃい」

 厨房の方から声がする。

 女性の声だ。

 桜井は咄嗟に振り向く。

 しかし、誰もいない。


 すると背中側から笑い声がする。

 また振り向く。

 そこに人影があった。

 テラス席に二人座っている。

 女性が向かい合って、談笑していた。

 二人とも見覚えのある姿だった。


「手招きをされているけど、行っても大丈夫?」

『私の目の黒いうちは大丈夫です』

「首に目がある?」


 桜井はガラス戸を開けて外のテラス席に出た。


「やほー、会いたかったよ」

 黒髪の女性が頬杖をついている。

 振っている方の手には、煙草が挟まっていて、灰と煙が舞った。

「また、お会いしましたね」

 向かいに座るのは長い黒髪の女性で、毛先が赤く燃えている。

「黒江さん」

 桜井は喫煙者の名前を呼んだ。

「いい趣味してるね」

 黒江は桜井の容姿を指して言った。

 桜井は、清廉な女性の姿をしていた。

 白いスーツに青いショートヘア、表情のない美人だった。

「蒼月の趣味です」

「なーんだ、残念」

 黒江はおどけて見せた。

「本来は、私たち三人の高貴なるお茶会なのですが、蒼月さんがどうしてもとおっしゃるので、ご主人同伴を許しました」

 赤毛の女性が上品に頭を下げた。

「ご主人って」

「文字通りです」

 彼女は赤根である。

 どういう存在なのか、桜井にはまったく理解できないが、意思をもって、会話のできる状態で、ネット上に漂っている。

『ボディガードを連れてきました』

 蒼月の冗談に、二人が笑っている。

 蒼月は驚きを隠せなかった。

 蒼月の声が、直接他者に届いているだ。

「嬉しそ」

 黒江が鼻から息を漏らした。

「どうです? 自立した気分は」

『どうということも、ありませんが』

 言葉は途切れ途切れである。


「黒江さん、今どこに?」

「ここにいるじゃん。大丈夫?」

「あなたは、何者だったんですか」

「ごめんね、期待させて。いたずらに欲望を刺激するのが好きなんだ」

「そんな話は」

「実際どう? 迫ったら、許してた?」

「まさか」

「宍戸だっけ? 君の連れは、淡白だったよ」

桜井は仰天した。

「宍戸の相手って……」

「ボディガードさん喋りすぎ、退がって、退がって」

黒江は桜井に向かって手を払った。

「そうですよ。本日の主役は、蒼月さんです」

赤根は立ち上がり、蒼月にむかって両手を差し出した。

払われたのも、迎えられたのも、アバターとしては一人であった。


「さあさ、寄った寄った」

「お友達として、ご招待させていただきました」

「有志の、自我をもった首(ネック)の集まり」

 黒江はピースサインを顔の前でヒラヒラさせた。

 赤根がしおらしく首をもたげた。

 黒髪が揺れる。

「ようこそ、顔二つ(トゥ・フェイス)へーー」

「またの名を、首同盟」

 黒江が大笑いした。

 その声は異空間を反響した。

 茶会が終わるまで、どこかでその笑い声はうっすらと聞こえ、鳴り止まなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。