第4話 封印堂
ヒカリさんの運転で、後宇多天皇陵脇の駐車場に戻ってきたオレたちは、封じ屋の小屋を目指して歩き出した。
「ところで何であんな不便な場所に店というか小屋を構えてるんですか? こんなに封じの依頼が多いんだから、もっと街中の方が便利じゃありませんか?」
「あそこにはね、私たち封じ屋が代々封じ続けてきたものがあるのよ」
「代々……」
小春さんが話すところによれば、
「私たち封じ屋は陰陽道にその祖を持つ。その戦い方は、言霊、式神、そして結界。魑魅魍魎の動きを結界で封じ、陰陽道に由来する封じの呪文、つまり言霊に守られた鏡に封印する。式神は、八瀬君がここに初めて来た時見たように、言霊によって具現化し、時に人を守り、時に我らも守る。この3つを駆使して魑魅魍魎を封じるのが、我々封じ屋よ」
だそうだ。
「この鏡にはね」
ヒカリさんが自分の鏡を取り出して続ける。
「陰陽道に由来する封じ屋の呪文が書かれてる。だから対象にかざすだけで、この中に封じ込めることができるのよ」
図書館で調べても何も出てこなかった封じ屋のことを小春さんとヒカリさんが話してくれている、そう思って真剣に聞いていたら、
「私たちの話を真顔で聞くとは、八瀬君も封じ屋に興味を持ってきたか?」
と小春さんに茶化された。
「いや、そういうわけじゃないんですが、クロギリも植物園のコウホネも、その鏡で解決しちゃったので、もっとたくさん作って、小春さんとヒカリさんであちこちかざして歩けば、魑魅魍魎も早くいなくなるんじゃないかと思って」
歩きながら小春さんが答える。
「人に害をなさないものまで封じる必要はない、と私たちは考えている。それにこの鏡、際限なく封じ続けることができるわけではない。どんな入れ物にも限界があるように、鏡の中に封じることのできる魑魅魍魎の数も限られている。だから鏡に封じた魑魅魍魎たちは裏のお堂に移し、空の状態にしてまた次の魑魅魍魎を封じるのさ」
「裏のお堂に移す?」
「小屋の裏にお堂があるでしょ?」
何言ってるのあんたは、的な目でヒカリさんがオレを振り返る。
「そんなのありましたっけ……?」
「え、知らないの? じゃあとで案内してあげる。とにかく、鏡に仮封じした魑魅魍魎たちはそのお堂、封印堂って言うんだけどね、そこに移し、永遠に封じる。そして、そのお堂を結界で守っているのが、封じ屋小春の小屋というわけ」
ヒカリさんが珍しく得意げだ。
「むやみに近づくなよ。先代や先々代、さらにそのまた前から捕えてきた魑魅魍魎が封じられているからな。万一、結界が破れでもしたらとんでもないことになる」
と、小春さんに釘を刺された。
「もっとも、そこの結界は私でも解けないけどね」
結界か……。この間、京都駅の地下街とコウホネ退治の時、ヒカリさんの鏡で封じられない時があった。それと結界は何か関係があるんだろうか……素朴な疑問をぶつけてみると、
「あら! そんなこと聞くなんて、やっぱり封じ屋にだいぶ興味持ってきたんじゃないの?」
ヒカリさんが冷やかす。
「いや、そういうわけじゃ……」
もごもごしてたら、小春さんが助け舟を出してくれた。
「魑魅魍魎はね、人に見えたり見えなかったり、触れたり触れなかったりするの。つまりあいつらは、この世界と、あいつらの世界、私たちは異界と呼んでいるけど、その異界とを自由に行き来できるのよ。つまり、こちらにいるように見えても、本体が異界にいるうちは鏡では封じることができない」
小春さんが自分の鏡を出して説明をする。小春さんも、鏡、持ってるんだ。
「そこであいつらがこちらの世界にいるうちに結界を張り、異界への逃げ場の扉を閉める。つまり、こちらの世界と異界の間に境界を作るのよ。それを私たちは境界を固定する、と言うわ。その境界を固定した状態にして、初めてアイツらを鏡に封じることができる」
「境界を固定するには、お札でも効果があるんですか?」
オレは地下街で、小春さんがオレの額に貼ったお札を思い出して聞いた。
「えぇ。地下街の時は、地面に張った魔法陣で、バケモノが憑りつきそうになった君ごと動けなくした。そして君にお札を貼ることで、バケモノと君の境界を固定したのよ。そしてバケモノだけを剥がし、ヒカリの鏡に封じた」
「やみくもに鏡を向ければ、はい終了ってわけじゃないんですね」
「そうね。こう見えてなかなか頭を使うのよ」
奥が深い。
というか、結界を張る場所とかタイミングとか、ズレたら鏡で封じることはできないのか……
そんな話をしているうちにオレたちは封じ屋小春に着いた。
「じゃ、まずは移そうか」
小春さんがそう言うと、はい、と返事をしてヒカリさんが後に続いた。
「せっかくだから八瀬君も見ておくといい」
そう言って連れていかれたのは小屋の裏。そこには古い、道端の地蔵尊くらいの大きさの祠が、確かにあった。
「これがさっき言ってた封印堂、ですか?」
「そう」
「随分小さいんですね……」
「小さいけど、最強よ。ここに封じられた魑魅魍魎は絶対に出られない!」
ヒカリさんが、祠の中に鏡を置く。鏡が淡く光りだし、表面にさざ波のような紋様が浮かぶのが見てとれる。やがてその周りに文字が浮かんでくる。
臨、兵、闘、者……う~ん、あとは読めなかった。しばらくすると、文字も波紋も消え、光も収まった。
「完了」
小春さんが静かに言う。
「これで、鏡の中の魑魅魍魎が祠に移った?」
「そう」
ヒカリさんが頷く。
「じゃこれで、鏡は空になったってことですか?」
「そ。これでまた封じ放題!」
そう言ってヒカリさんは笑った。
その時、祠から取り出した鏡を太陽にかざして見て、ちょっと眉間に皺を寄せた小春さんが言った。
「ヒカリ、次の依頼っていつだっけ?」
ポケットからスマホを取り出し、ヒカリさんがカレンダーを確認する。
「次は……明日の夜ですね」
「明日か。八瀬君、ちょっとお使い頼まれてくれない?」
「お使い?」
「えぇ。ちょっとこの鏡、光にかざしてみると薄いヒビが入ってるのよ。妖裂といってね、長いこと使っていると封じた魑魅魍魎の妖力で傷みが出てくるの」
「え、じゃ早く直さなくちゃヤバいじゃないですか」
「だから、君にお使いをお願いしたいの。こういうのを専門に直してくれる職人さんがいるから、帰りに届けてくれない? ヒカリの鏡だから、本当はヒカリが行けばいいんだけど、八瀬君のことをその職人さんに知っておいてもらいたいのよ。連絡は私からしておくから」
そうしてオレは、家に帰るヒカリさんの車に乗せてもらって、お使い先に向かった。




