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【最終話】期末試験と二人暮らし


 *


 体育祭の日、新しい事実を知った。

 鳴神くんの初恋が俺だったってこと。初恋同士で付き合うって最高じゃん。

 浮かれて一生ニコニコしていられそう。――と思っていたけど、すぐに頭の痛い問題がやってきた。

 体育祭が終わると、あっという間に試験期間だ。生徒が二人でも普通に期末試験があるし通知表もある。出席日数が足りなかったり、成績が悪いと卒業できないのはどこの高校でも同じだった。

「出席日数だけは自信あるんだけどなぁ」

「それ、前にも聞いた。でもハル、ちゃんと真面目に試験勉強しないと、卒業できないよ?」

「分かってる、分かってるけどさぁ……やる気出ない」

「はい、クッキー」

 鳴神くんは缶の中からクッキーを一つ取り出して俺の口の中に入れてくれた。

「ありがと、やっぱりバターを鬼のように入れるとクッキーって美味しいよね。口に入れた途端広がるジュワジュワ感が至福」

「素敵な食リポありがとう」

「どういたしまして」

 お勉強のお供は、先週調理室で作ったクッキーだ。

 試験期間は家庭科部もお休みで、放課後は教室に残って二人で試験勉強をしている。いたって真面目な高校生だ。

 ふと、鳴神くんは卒業後どうするんだろうって思った。

 大学? 就職?

 前も思ったけど、家が神社だし神社で働くとかだろうか。

 俺は高校卒業したらどうするんだろう。親はまだ海外にいるだろうし、大学に行かないなら仕事をしないといけない。

 料理が好きだし、料理人? 福子ばあちゃんの家に住んだまま?

 でも、ここだと料理人になるにしても、働ける場所がなさそうだった。

「あれ、マジで俺……どうしよう」

 田舎での楽しいリア充ライフが目標だった。今のところその夢は叶っている。でも、そのあとの目標がない。鳴神くんと付き合ってるし、できればこのまま一緒にいたい。

 鳴神くんはどう思っているんだろ。

「ううっ、鳴神くん、俺……鳴神くんと離れたくない」

 手に持っていたシャーペンが机の上に落ちて転がった。

「急にどうしたの」

「鳴神くんって高校卒業したら、神社で働くの?」

「あーなるほど、そういうこと。まず最初に神社で働くか、だけど」

「うん」

「もし実家を継ぐとしても、神社で働くには資格が必要です」

「し、資格」

「前にも言ったけど、神社で色付きの袴を着ている人いるでしょ、あの人が神職の有資格者」

「ふんふん」

「で、その資格を取る方法はいろいろあるんだけど、養成所に通うか」

「養成所、え、芸能人?」

「まぁ、普通に勉強するとこかな? 他には神職過程がある大学にいけば資格が取れる」

「そうなんだ」

「俺は今すぐ実家の神社継ぐとかは考えてないんだけど、家の都合で資格だけは取っておかないといけなくて、一応、東京の大学に行く予定」

「そ……そう、なんだ」

「うん」

 つまり村を出るってことだ。自分の声が勝手にしおしおと沈んでいく。

「すげぇなぁ。鳴神くんめっちゃ将来のこと考えてるやん。俺さ、何も考えてなくて……卒業したら、鳴神くんと離れ離れになるってことしか頭になくて。一年に一回くらいしか鳴神くんと会えんようになったら、俺、寂しく死んじゃう」

 俺はうんうん唸りながら机の上にある参考書の上に突っ伏した。鳴神くんはそんな俺の髪をわしゃわしゃとかき混ぜてくる。まるで大丈夫だよと励ましてくれているみたいだった。けれど、あんまり大丈夫じゃない。

「ねぇ、ハル」

「ん?」

 机から顔を上げると鳴神くんは相変わらず綺麗な顔で笑っていた。その笑顔を見ていると、ちょっと大丈夫な気がしてくるから不思議だった。

「ハルも東京の大学行こうよ」

「へ?」

 全然考えてなかった選択肢を鳴神くんから与えられてびっくりした。

 俺が、大学? 勉強嫌いなのに?

「ちょっと打算はあるよ。ハルが俺と同じ大学とか近くの大学に受かれば、卒業しても一緒に居られるなぁって」

 考えが甘いかもしれないし、何も目標がないのに大学に行くなんて間違っているかもしれない。

 でも将来のことが何も決まっていないなら、それを決めるために、ちょっと答えを先延ばしにしたっていいんじゃないだろうか。

 いいと思う。絶対いい!

 だって、俺、卒業しても鳴神くんと一緒にいたい。離れたくない。

「大学」

「うん。ハルの親御さん、高校の間は一人暮らしダメって言ってたみたいだけど、大学なら許してくれるんじゃないかな?」

「そう、そうだよね! きっとそうだと思う」

「ねぇ、ハル」

「なに?」

「ハルが村に来てくれて、家庭科部作って。俺たち田舎でもリア充になれたでしょ」

「うん」

「今度は俺が東京に行くから、今度は俺を東京でリア充にしてくれる?」

「……あ、アキちゃん」

「はい」

 俺は優しく微笑む鳴神くんの手を握った。

「ま、任せろ! 一緒に東京の大学行こう!」

「じゃあ、そうと決まれば、お勉強頑張りましょう、はい。参考書」

 ポン、と机の上に参考書が積み足される。

「え、えと。ち、ちなみに……鳴神くんの行きたい大学の偏差値は……いかほど」

 ニコニコニコニコと鳴神くんは笑っている。答えてくれない。

 多分、今の俺の頭だと同じ大学は難しいんじゃないだろうか。多分無謀だ。でも一緒の大学に通いたい!

「俺、ハルと一緒に東京の大学に行きたいなぁ。あ、二人暮らしとかできるといいよね?」

「が、頑張り、ます」

「うん、頑張ろうね」

 甘えるような鳴神くんの麗しい瞳に俺の心はドキドキしっぱなし。

 来年の春、二人で東京の大学へ通えるかは神のみぞ知る。

 でも、俺たちの幸せな二人っきりは、どうやらまだまだ続きそうだった。



 終わり




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