第34話-2 悪ガキ
アレクサンダーは心臓がワクワクを通り越して弾け飛んでしまうのではないかと思った。
寮生たちは、日持ちのする軽食やおやつを貯めこんで、真夜中の宴会の決行日の真夜中になると寝床からコソコソと這い出す。
真夜中の宴会中は、カーテンから灯りが漏れないように黒い布をかぶせておき、広い寝室の真ん中で小さなランプを一つだけ灯す。
臭いがこもらないよう窓を少し開けてぬかりなく準備する。
慎重に見張り役も配置しておく。
スリル満点な宴会だ。
子どもたちは、事前に理科室からこっそり拝借しておいたビーカーにジュースを注ぐと、声をひそめて乾杯した。
針金にウインナーを刺してアルコールランプで炙り、ジュージューと音を立てるのを熱々のまま頬張る。
管理人の足音がすると、すぐさまランプを消して寝台の下に全てを滑り込ませ、寝巻のまま布団に潜り込む。
ミハエルも、まるで今にも管理人に見つかってしまいそうにハラハラしている。
「次の日は眠いから、みんな欠伸を噛み殺すのが大変だった」
「寮生活が監獄だなんて言って、なんだかんだ、楽しんでいたんだね」
「工夫の賜物だ」
「充実させるための?」
ミハエルは口の端を上げてみせる。
「規則はやぶるためにあるからな」
「君らしい」
「楽しいぞ。まずは規則のうんと厳しい寮に住めばいい。破り放題だからな」
おどけてみせる。ミハエルも、はは……と笑っていたが、急に真顔になった。
「僕には無理だよ」
「まあ、真面目なミハエルには……」
「僕に、共同生活は、無理だよ」
急で意外な返答に、アレクサンダーは不意を突かれた。
その声色からは、絶対にありえないという確固とした気分と、気のせいか諦観のようなものが含まれている気がする。
やはり人嫌いなのだろうか?
人と馴れ合わない性格であるし、現に小屋で一人暮らしをしているようなものだ。
アレクサンダーはこの際、以前から知りたかったことを尋ねてみた。
「いつからこの小屋にいるんだ?」
この小屋で、いったいどのくらいの年月を過ごしてきたのだろう。
「それを知ってどうするんだよ?」
ミハエルの顔がみるみる曇っていく。
が、すでに尋ねてしまっている。
「いや、知りたいなと思っただけだ」
ミハエルはしぶしぶ教えてくれた。
「………十歳の頃からだよ」
「十歳⁉」
ミハエルは言うんじゃなかったという顔で、そっぽを向いている。
「いや、すまん。でも、随分幼い頃からこの場所にいるんだな」
ミハエルは「まぁね」とだけ答えた。
「で、君は寮生活を充実させるために、そんな悪戯をずっとやって過ごしていたわけだ?」
ミハエルは、半分意地悪そうに言う。
「そうだな。でも、上級学年になると遊びの内容が可愛くなくなるんだな、これが。
上級学年になると、子ども騙しな悪戯は卒業だ。
教師たちに隠れて札遊び、酒、煙草に手をつけ始めた。
こういう遊びは、ぜんぶ兄貴たちが教えてくれた。
級友たちに教えたら、あっという間に流行した。
なにせ皆、ちょっとでも大人に近づきたいからな」
優良生なミハエルは全く手を付けようとしない遊びだろう。
「羽目を外しすぎたな。酒と煙草もだが、札遊びが良くなかった。調子に乗って手持ちの小遣いを皆でちょっと賭けたら賭博扱いだ。
遊戯の延長線上のつもりが、素行不良だ。
俺は監獄部屋行きだ」
そのギムナジウムには、“監獄部屋”というものがあった。
悪さをした生徒を閉じ込めておく、文字通り監獄用の部屋だ。
アレクサンダーはそこの常連になった。
もっとも監獄部屋行きは生徒たちには英雄扱いされたから、“出所”するたびにアレクサンダーの株は上がった。
級友たちは喜んで、やんややんやと歓声に近い声で出迎えられた。
「無邪気に遊んでいただけのつもりだったんだがな。
俺は周りの善良な生徒まで巻き込むから質が悪いらしい」
ハハハハと豪快に笑うアレクサンダーの前でミハエルも笑いながら、
「君は人を楽しいことに巻きこむのが上手だものね」
と言った。
それから、神妙な顔になって尋ねた。
「そのギムナジウムを辞めることになったのは、素行不良だったから?」
「いいや」
教師たちに目はつけられていたが、常に成績は上位であったし、度胸のあるところは教師たちにも気に入られていた。
「じゃあ、なぜ?」
「それはな……」
アレクサンダーは当時のことを思い出していた。




