第31話 下級生
翌日、ミハエルが教室に辿り着くと、下級生たちに囲まれているアレクサンダーが目に入った。
皆で和気あいあいと過ごしている。
近頃では下級生がアレクサンダーを訪ねて第八学年の教室までやって来ることが増えた。
用事の内容は、勉強の相談だったり、他愛もないことだったりといろいろだ。
アレクサンダーは嫌な顔ひとつせず、甲斐甲斐しく面倒をみてやっている。
集団に見慣れた人影があるのに気づく。
(あ、フランツ……)
ミハエルは目をそむけた。
半分血のつながった弟のフランツとは、家の内外に限らず全くと言っていいほど接する機会が無い。
これまでも何度か校舎のそちこちで、フランツがアレクサンダーに話しかけているのを見かけたことがある。
どうやらアレクサンダーに懐いているようだ。
執拗にミハエルを痛めつけてくるゲオルグとは対照的に、フランツはミハエルに関心を示さない。
稀に彼と鉢合わすこともあるにはあるが、ゲオルグに胸ぐらを掴まれているミハエルを見ても「そんな奴、放っておけよ」と一笑に付して去ってしまう。
たった今もフランツはちらりとミハエルのことを一瞥したかと思うと、すぐにアレクサンダーとの会話に戻って夢中になった。
彼らの輪にゲオルグやモーリッツも加わり、賑わいはさらに大きくなっている。
ミハエルは外套と制帽を素早く教室の後ろの壁に掛けると、集団には気にも留めないよう装いながら席についた。
自然と耳が彼らの会話に傾く。
アレクサンダーはフランツたちにせがまれて、以前籍をおいていたギムナジウムの話を聞かせてやっているようだ。
かつてアレクサンダーが全寮制のギムナジウムにいたというのが、通学制のこのギムナジウムの生徒たちには物珍しいのだ。
寮での過ごし方だとか、管理人に仕掛けたいたずらだとか、そんなことを面白おかしく聞かせてやっている。
この頃アレクサンダーを訪ねる下級生が増えた分、それが影響してかミハエルの元を訪ねてくる下級生の数が減った。
正直彼らへの対応には気後れしていたから、ありがたい状況ではある。
アレクサンダーは編入して日が浅いが、人が人を呼び、どんどん彼の人間関係が膨れ上がっている。
もとより規模の小さいギムナジウムであるから、もはや彼を知らぬ生徒はいないだろう。
下級生たちとの会話にゲオルグとモーリッツが加わったように、アレクサンダーを取り巻く様々な生徒たちが接触し始めた。
以前より、学年の垣根を越えて交流が活気づいているのを肌で感じる。
もちろん、ミハエルは蚊帳の外だ。
始業の鐘が鳴り始めた。
生徒たちは鐘が鳴り終わらぬうちに、自分たちの席や教室に、散り散りに戻っていった。




