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銀色の雲の上  作者: 町屋りんご


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第29話-1 暖炉の傍で

ミハエルは、アレクサンダーがフライパンを熱して何やら料理するのを傍らで眺めていた。

暖炉からパチパチと薪の燃える音がする。


アレクサンダーがきっぱりと謝罪してくれた後、お互いその話題には一切触れていない。

まるで何事もなかったかのように。


真っ直ぐに目を見て詫びてくれたアレクサンダーに比べ、まごついた自身の臆病さには情けなくて笑うしかない。

そういったミハエルの不甲斐なさに、アレクサンダーは何も気づいていないようだ。

そんなこともひっくるめて、ミハエルはアレクサンダーに助けられる思いがするのだった。


実際、あの件以来アレクサンダーが小屋を訪ねてくることに抵抗がなくなった。


この日のアレクサンダーは、豚の塩漬け(アイスバイン)を焼いてくれるという。

アレクサンダーがロウ紙を紐解いて包みを剥くと、一口大に切り分けられた豚の塩漬けが一人前の量で出てきた。


肉は凍っている。

訊けば、ストーブで温められた教室で肉が傷まないよう校舎の寒い場所に隠しておいたのだという。


「オーブンで焼いた方が良いんだろうが、フライパンでも美味く焼けるらしいぜ」


「君はなんていうか、マメだね」


食材を傷まないよう持ち歩き、それを調理して人に食べさせようなど、ミハエルには考えもつかない。

アレクサンダーを感心半分、呆れ半分、そんな気持ちで眺める。

そんなミハエルにアレクサンダーは訂正してきた。


「君じゃなくてアレク、な」


「ええ? ……ア……アレク……」


アレクサンダーに言い押されて、淀みながら言い直す。

照れくさくて顔が熱くなる。


本人は「アレク」と呼ばれて嬉しそうだ。

この青年は、本当に人と友情関係を築くのが好きらしい。

内気なミハエルにしてみれば、アレクサンダーのこういった懐っこさは、やはり特勝と思うのだった。


「うちの料理人が作った特製の調味料ソースに漬けてあるからな。期待して良いぞ」


アレクサンダーは整った唇を得意げにぺろりと舐めた。

腕のシャツの袖まくり、豚の塩漬けをフライパンで焼き始める。


あっという間に香ばしいにおいが小屋中に充満した。


肉が焼けるとアレクサンダーは皿に盛りつけ、こちらに差し出す。

温かい食事を口に運ぶミハエルを、アレクサンダーはテーブルに頬杖をついて満足そうに見つめている。

彼のニコニコする様子に、ミハエルは腹の底がくすぐったいような、温かいような、妙な気分になった。


アレクサンダーに尋ねられる。


「軟膏はちゃんと塗ってるか?」


「うん、あれはよく効く」


血の滲んで荒れていたミハエルの手の甲は、貰った軟膏のおかげでみるみる治っていった。


「家で調合したものだからな」


ミハエルは目を丸くする。ゲルステンビュッテル家ともなると、薬局まで出向かなくても自宅で調合してもらうことができるのか。

たしかに軟膏の陶製の容器には、街の薬屋では見かけないような緻密で華やかな絵付けが施されていた。

もしかして家にお抱えの医者なんてのも常駐しているかもしれない。


そういえば、と、ミハエルは思い立って書机の引き出しの中をごそごそと探しだす。

手探りで目当てのものを見つけると、アレクサンダーに、ん、と差し出す。

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