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「神影さん!ずっとここにいたんですか?」
真島彩花が近づき、話しかけてきた。
「…外は冷えますよ」
「そうですよ!だから、一緒に中に入りましょうよ!」
僕は空へと煙を吐き出した。
「…そう言えば、真島さんでしたよね?吸血鬼の噂話をされたのは…」
「はい!神影さんも興味があるんですか?さっきもその話になったんですけど、みんな信じてくれないんですよ〜」
「…そうなんですね」
「そうなんですよ!たしかに、噂話なので〜私だって本当なのかどうかなんて知りませんけど…火のないところに煙は立たないって言うじゃないですか!」
「…そうですね」
「みんなして酷いんですよ〜!まぁ、橘さんが苦手だから、そう言う話をしちゃった私も悪いんですけど…」
話し出したら止まらないな…
「…それで、どのような噂だったのかお聞きしてもよろしいですか?」
「はい!なんか〜ここのホテルを経営してる人が吸血鬼の眷属だ〜とか吸血鬼だ〜とか、ホテルに泊まった人達から血を吸って吸血鬼にしてるとか〜色々書かれていましたけど…」
「…そうなんですね」
「本当だったらどうします〜?私達、吸血鬼にされちゃうんですかね?」
「…どうでしょうか。純潔じゃなければ吸血鬼にはならないと聞いたこともありますが…」
「それ…どういう意味ですか?」
「…深い意味はありませんよ」
「私が純潔じゃないって言いたいんですか!」
「…いえ。深い意味なんてありませんよ。純潔な人なんて、そうそういないのではないですか?」
「これでも私は純潔ですからね!」
「…そうですか。真島さんは純潔なのですね」
「って!何を言わせるんですか!ち、ちが!違くないけど…あの、その…」
「…別に人それぞれですから。気にする必要もないと思いますが…」
「…そういう神影さんはどうなんですか?私も教えたんだから、教えてくださいよ!」
「…どうでしょうか。純潔とはけがれなき清らかなことを指す言葉ですよね?そう言う意味では純潔とは言えないかもしれませんね」
「…どういう意味ですか?」
「…そのままの意味ですよ。言葉など受け取る相手次第でどのような意味にも変わるものです。真島さんが受け取った意味のままでよろしいのではないですか?」
「私は…よくわかりません」
「…そうですか」
僕は空へと煙を吐き出してから、
タバコの火を灰皿で揉み消した。
「…外は冷えますね。中に入りましょうか」
「は、はい」
真島彩花と一緒にホテルの中に入った。
部屋へと戻りながら、話しかけてくる。
「神影さんはご飯を食べなくてよかったんですか?」
「…そうですね」
「いつも食べませんよね?何か理由があるんですか?」
「…どうかされたんですか?」
「え?」
「…僕が食事をしないことについて気にされているようですので…どうして気になるのでしょうか?」
「そ、それは!そ、その神影さんのこと知りたいって…思うことは…ダメなことですか?」
どうしてそんなに気になるのだろうか?
いちいち説明しなければならないのだろうか?
「…そうですね。アレルギーってあるじゃないですか」
「は、はい。人によってはあると思いますが…」
「…アレルギーがある方はアレルギー症状がでる食べ物を食べたりしませんよね?」
「そ、そうですね」
「…それと同じだと思えば、気にはならないのではないですか?」
「神影さんはアレルギーがあるんですか?」
「…いえ、ありませんよ。ですが、人それぞれ体質も違えば価値観も違いますよね?アレルギーだってそうです。ある人もいればない人もいる。そのように考えれば気にする必要もないのではと思いまして…」
「…結局、どうしてなのかは教えてくれないんですね」
僕はため息をついてから真島彩花に尋ねた。
「…真島さんはどうして食事をされるのですか?」
「え?それはお腹が空きますし…食べたら美味しいじゃないですか!生きる為には必要なことですよね?」
「…そうですね。ですがそれだけですか?」
「え?うーん、どうですかね?」
「…真島さんは生きる為にと考えて食事をされているんですか?」
「いや…食べてる時はそんなこと考えたことありませんけど…」
「…そうですか。僕のことを知りたいと言いましたね?でも真島さんは自分のことをどれだけご存じなのですか?」
「え?じ、自分のことは自分が一番わかってると思うんですけど…」
「…そうでしょうか?自分のことは自分で見ることはできませんよね?他人から見ることによって気付けることもあるのではないですか?本当に自分のことを全て理解していると言えますか?」
「そ、そう言われると…どうでしょう?」
「…そうですか」
「え?結局、どういうことですか?全然、わかんないんですけど!」
「…そういうことですよ」
真島彩花は悩んだ表情でえ?え?と言い続けている。
では、失礼しますと言ってから、
僕は部屋の中に入った。
「リンちゃんおかえり〜」
「…灰皿持ってきてくれたんだな」
「んー?ああ!受付の人が持ってきてくれたんよ!部屋ん中はダメだけど、ベランダならいいってさ〜」
「…そうか」
「リンちゃんコーヒー飲むっしょ?受付の人にさ!コーヒー飲むんすよって話したらいっぱい持ってきてくれたんよ!めっちゃいい人だよな!」
「…そうだったんだな」
「リンちゃんはメシ食べなかったんしょ?ちゃんと受付の人に話したん?」
「…ああ、話したよ」
「そっかそっか!俺からも一応、話しといたけどさ!多分一人分いらないと思うんすよね〜ってさ!」
「…そうか。ありがとな」
「いいっていいって!リンちゃんこの部屋の風呂見た?めっちゃでかいんよ!3人ぐらいなら余裕で入れそうなデカさでさ!めっちゃすごいんよ!」
「…そうか」
「リンちゃんどうする?先に入る?」
「…橘から入れよ。僕はコーヒーを飲みながら、タバコでも吸おうかな…」
「んー?そっか!じゃあ、そうするわ!」
僕はポットのお湯を沸かし、コーヒーを入れる。
コーヒーを入れた紙コップをベランダに持っていき、
椅子に座りながら、タバコに火を灯した。
空へと煙を吐き出す。
タバコを吸いながら、真島彩花に話しかけられたことを思い出して、苦笑する。
帰るまでここで過ごしてもいいかもしれないな…
そんなことを考えてしまった。




