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ウェザリア王国物語~グラスノース編~  作者: 夕闇 夜桜
第二章:異世界召喚、鷹森結理編
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第二十七話:旅立つための卒業試験


前半は第十四話の結理たち側から見たパターン(内容的にはそんなに変わってません)、後半は卒業試験です




「さて、一通り教えたけど……卒業試験だ」

「卒業、試験……?」


 男モードのユーナリアにそう言われ、三人は不思議そうな顔をする。

 というよりも、面倒くさがりなユーナリアが卒業試験と称し、そんな面倒くさそうなことをするとは思えないのだ。

 とまあ、そんな失礼なことを考えている三人に、ユーナリアも分かっているのか、真面目ともいえないオーラを放ちながらも、説明する。


「ああ。お前にはある討伐依頼を受けてもらう。依頼を完遂し、換金したら、試験終了だ」

「え」

「それって、試験なんですか?」


 ユーナリアの説明を聞き終わり、思わず声を上げる。討伐依頼を受けろ、というのは、相手やモノにもよるが、基本的なことは今までと何一つ変わらない。


「そうだが……不満か?」

「いや、そうじゃなくて、試験っていうから、もう少し難しいものかと」


 三人の動揺を理解したのか、ユーナリアが問うも、いや、と三人を代表してそう返す棗。


「異世界人であるお前らに、難易度を上げた試験をやらせられるわけがないだろ」

「まあ、そうなんですが」


 全く、と言いたげなユーナリアに、結理は思わず苦笑する。


「なら、さっさとギルドに行ってこい。話は通してあるからな」


 そう言って、ユーナリアは三人をギルドに向かわせたのだった。


   ☆★☆   


 ギルドに着き、ユーナリアの名前を出せば、分かりました、とあっさり依頼は受理された。

 依頼はEランクの討伐依頼。

 だが、討伐対象が住むという場所に向かう途中だった。


(廉……!?)


 何かがぶつかり合う音がし、そちらに目を向ければ、そこには、この三ヶ月、ずっと再会を望んだ者たちの顔があった。


「どうした?」

「いや、何でも……」

「あれ、廉たちじゃないのか?」


 様子がおかしいことに気づいた棗が尋ねるが、何でもない、と返そうとした結理に、大翔があれ、と二人へ示す。


「確かに似ていると思うが……」


 本人たちか? と棗は首を傾げる。

 よく見れば、見知った顔と見知らぬ顔もいる。


「あーらら、苦戦中かぁ」


 結理が素知らぬ顔でどこか楽しそうな風に言えば、お前知っていただろう、と棗が呆れたような目を向ける。


「良いのか? 助けなくて」


 このままでは、やられてしまうかもしれない。


「別に良いんじゃない? 向こうには朱波たちも居るし」

「それはそうだが……」


 廉たちの様子を上から見ていた三人はそう話す。

 朱波たちもそうだが、あの場には見知った顔ーーラウラとシンディアもいるから、何かあっても対処できるだろう、とも思う結理。

 それに、と続ける。


「私たちが助けたら、意味がないじゃない」

「魔王を倒すための力のためか?」


 怪訝し、尋ねる棗に、結理は困ったように言う。


「それもあるけどーー今の私たちと廉たち。多分、実力差は私たちにまだ(・・)傾いてるはずよ。それに、手助けしないで、今の廉たちの実力ぐらい見ておきたいじゃない」

「それは……」


 結理の言葉に棗は吃る。

 はっきり言えば、魔物などの出現数が増えてきたとはいえ(ユーナリア談)、今の結理たちには魔王云々は関係なかった。

 自惚れているわけではないが、それでも今はまだ、結理は自身が本気を出せば(・・・・・・)、廉たちに勝てると思っている。

 そんな棗に、結理はそれに、と続ける。


「あと、誰がこのチームのバランス取ってると思ってるのよ」

「うっ……」

「確かに、鷹森が居ないと、前衛二人、後衛三人でバランス悪いもんな」


 結理の言葉に、棗は図星を言われたかのように固まり、大翔が、確かに、と頷きながら言う。


「だから、再会したら、朱波辺りに近距離系の攻撃技教えないと」

「ああ、そうだな。もしこれで、あいつらが負けたりしたら、特訓決定だな」


 そうだねぇ、と結理は言う。


「いつまでここにいるつもりだ?」

「俺たちは、師匠(せんせい)の試験をクリアしないといけないんだからな」


 それで、と尋ねてくる男二人の言葉に、結理は横目で二人を見て、廉たちに視線を戻しーー


「分かってます。全ては、あの五人の様子次第」


 そう返した。


   ☆★☆   


 詩音は自身を落ち着けるために、深呼吸をする。

 今からやるのは、魔物化した動物たちを指揮するモノを捜すこと。

 目を開き、周囲を確認する。

 数が減ったとはいえ、指揮官が指揮するのを止めたわけではない。


「朱波」

「ん?」


 詩音が話し掛ければ、朱波は振り返る。


「私が指揮官を(あぶ)り出す。そこに一斉攻撃して」

「私じゃなくて、廉たちに言えばいいでしょ!?」


 詩音の言葉に、朱波は反論する。


「まあ、そうなんだけど……手が空きそうにないの!」


 詩音にしては、珍しいハイペースでの話し方である。

 これには結理たちも驚いた。言いたいことははっきりと言う詩音だが、基本的に詩音は口数が少ない。そのため、幼いときから一緒にいる結理でも、詩音が叫んだりするのは見たことがなかった。


「それに私だって、近日中に二度も同じ手を使うと思わなかったのよ」


 詩音はやや視線を逸らし、小声で呟く。

 何と言ったのかは分からないが、廉の耳に届いていたようで、何か思い当たったらしい。

 そして、結理も詩音が何となくやろうとしていることが分かった。


 言霊による命令。


 廉たちは実際に作用するのかどうかは実証済みらしいが、結理はともかく、大翔と棗が詩音の言霊発動の場面に立ち会うのは初めてだろう。


「はぁ、分かったわよ」


 溜め息混じりで朱波が頷き、それを見て、詩音は言葉を紡ぎ、発動する。


『我は世界を超えし者』


 詩音が一歩踏み出す。


『我は異界の巫女なり』


 詩音の周囲には、厳かな雰囲気が漂う。


『我の問いかけに答えよ』


 再度、一歩踏み出す。


『このモノたちの指揮官の位置と正体を示せ』


 ラウラたちには何と言っていたのか分からなかったのだろうが、母国(日本)語で紡がれた詩音の言葉に、少しの間、何も起きなかったものの、地が隆起し、そいつは姿を現した。

 その姿は、虫のように長く、獣のような毛で全体が覆われていた。


「ひっ!」

「ばっ、静かにしろ」


 その姿を見た結理が思わず悲鳴を上げそうになるが、大翔が慌てて口を塞ぎ、様子を窺えば、どうやら廉たちは気づいていないようで(それどころではないだけかもしれないが)、三人は内心安堵した。


「朱波!」

「はいはい、シルフ。ノームも力を貸して」


 詩音に呼ばれ、朱波が適当に返事をしつつ、シルフーーと呼ばれた薄緑色の髪を持つ小さな存在ーーの名を呼び、茶色の髪を持つ小さな存在ーーノームにも力を貸すように言う。


「こいつが本当に指揮官ならーー」

「全滅させられる!」


 廉とシンディアが言う。


「ラウラ!」

「あーー!?」


 シンディアが声を掛ければ、不機嫌そうだったラウラの表情は一変し、「何だコレ……」と呟いた。


「とにもかくにも、こいつは倒さねぇとマズいな」

「そうですね」


 シンディアの言葉に廉が同意し、朱波たちは頷いた。


「それより、動きを封じないと」

『何で封じるつもり?』


 詩音の言葉に、ノームが尋ねる。


「ここにあるので、詩音の作用が効くものなんて、地面か植物ぐらいでしょ!? ーーっつ!」

「朱波!」


 朱波が言うが、指揮官らしき魔物の放った衝撃波に、朱波は吹っ飛ばされる。


「っ、」


 結理は思わず前に飛び出そうになるが、何とか耐える。

 今出て行っても、意味がない。そもそも、出て行ってどうするのか。

 そんな考えが結理の脳内をぐるぐると渦巻く。


「シルフ、朱波を守れる?」

『え……ちょっ、何するつもり?』


 そんな結理の思考を知ってか知らずか、詩音の問いに驚きつつ、シルフは聞き返す。


「守れるか守れないか聞いてるんだけど」

『……守、れる』


 詩音の気に()されたのか、シルフは(ども)りながらも答える。


「そう。なら、朱波の防御をお願い」


 そう言いながら、詩音はショルダーバックから指ぬき手袋を取り出し、手を通す。


「あの、詩音さん……?」


 廉が恐る恐る声を掛ければ、詩音は視線を向け、「何?」と尋ねる。


「あ、いや、よく考えたら、今言うことじゃなかった」


 慌てて、そう言って誤魔化せば、そう、と詩音は前を見る。


「ヤバい、キレてる……」


 廉は小声で言うが、状況を見ていた結理も同じ気持ちだった。

 はっきり言えば、怖くて何も言えなかった。


『いやいやいや、キレてるレベルじゃないよね!?』


 半分涙目になり、シルフは言う。

 精霊であるシルフも詩音の怒りは感じているのだと、結理は不思議に思う(そもそも、結理がシルフたちを精霊だと判断したのは、単に羽根がないという理由のみである)。


「まあ、何だ。あいつは、俺たちで一番怒らせちゃいけない奴なんだよ」


 廉は遠い目をするかのように、詩音を見る。


『ノーム、大丈夫かなぁ』


 シルフはノームを心配しつつ、朱波の飛ばされた場所に向かった。


   ☆★☆   


「お、無事だったか」

「当たり前でしょ」


 数分後、戻ってきた朱波に気づいた廉は、安心したように声を掛け、当の本人である朱波は当たり前、と返す。

 見ていた三人も彼女が無事だと分かり、安堵する。


「それで? 詩音が何かしてる以外は全く分からない状況なんだけど」


 朱波は周囲を見回し、どんな状況なのか説明しろ、と言外に言う。

 他の面々は魔物化した動物たちを捌いていたが、先程と変わったのは、この場にいるのが、詩音と対峙する指揮官らしい魔物がいることだ。


「ああ……詩音の奴が、あの魔物の動きを止めようと躍起になってる」


 廉が見れば分かると思うが、と付け加えて説明する。


「よし、粗方片付いた。あのデカいのを倒すぞ!」


 シンディアが話していた廉たちに声を掛ける。


「はい!」

はなからそのつもり!」


 廉は返事し、ラウラはそう返すと、詩音が対峙していた魔物に向かっていく。


「はああああ!!!!」


 ラウラが切りかかるが、魔物は息を大きく吸いーー


「衝撃波が来ます!」


 朱波が叫ぶ。


『グワワァァァアアア!!!!』


 そして、放つ。

 衝撃波がラウラの目の前まで迫る。

 もうダメだ。

 そう思い、目を閉じる。


「詩音!」


 廉が叫ぶ。

 彼女も近くにいる。

 巻き込まれないわけがない。

 だが、詩音は振り向かない上に、避けようともしなかった。

 いくら詩音が防御を得意としているからって、真正面からの攻撃を受けきれるはずがない。

 廉も朱波もそう思っていた。

 もちろん、防御が得意だとか知らない結理たち三人も、詩音が避けるか相手が外すかの二択で見ていたのだが、詩音は詩音で避ける気配がない上に、相手との距離が近いので、目の前の標的に対し、外すとは思えない。


「嬢ちゃん、避けろ!」


 シンディアが声を掛けるが、詩音が避ける様子はない。


(詩音……)


 再び体が前に出かけていた結理を棗が止める。


「結理」


 棗の方を見る結理だが、気持ちは分かるから、と棗は結理を定位置に戻す。


「ノーム」

『え、本当にやるの?』


 ノームの名前を呼んだ詩音に、視線だけ向けられたノームは、眉を寄せ、本当にやるのか、と尋ねる。


「やる」

『……分かった』


 詩音の言葉に、渋々とノームは頷いた。


「“土流壁”」


 巨大な土壁が現れ、衝撃波を防ぐ。

 その音で、ラウラは恐る恐る目を開いた。


「…………」


 ラウラは呆然としていた。

 そして、我に返ったのか、ラウラは詩音に礼をする。


「あ、ありがとう」

「いえ」


 礼を言われた詩音はラウラに短く返す。


「でも、アレのメイン技が衝撃波なら、何とか出来そうね」


 何か考えるような姿勢で言う朱波に、え? と廉は朱波を見る。


「ああ。それに、次を放つまで、わずかだが時間が掛かっているしな」


 シンディアも同意するように頷いた。


「なら、今がチャンスってことか」


 ラウラが笑みを浮かべるが、詩音はでも、と言う。


「弱点が分からない」

「弱点?」


 詩音は頷くと、目を細め、魔物を見る。


「これだけ大きいなら、弱点がどこかにあるはずなんだけど……それが見当たらない・・・・・・


 四人は自分たちが対峙する魔物を見る。


「奴のあちこちに攻撃するしかないってことか」


 シンディアが思案する。


「どうする? 早く決めないとまた衝撃波が……」


 ラウラが尋ねる。


「…………」


 しばし無言になる。


「うーん、それぞれが弱点と思うところに攻撃する、とか?」


 朱波がそう言えば、四人は朱波を見る。


「まあ、手当たり次第よりはマシか」


 シンディアは頷き、四人に言う。


「とりあえず、各々が弱点と思うところに攻撃する。いいな?」

「はい!」

「任せてください!」

「うん」


 順に廉、朱波、詩音の順で返事をする。


「ラウラ!」

「わーってる」


 そう言いながら、ラウラは切りかかっていた。

 本当に分かっているのか、と聞きたいところだったが、そんな場合ではないので、シンディアは放置した。

 そして、自身もラウラの後に続いて、攻撃を始める。


『シオンさん』


 ノームが心配そうに声を掛ける。


「大丈夫」


 詩音は安心して、と言う。

 そして、弓を放つかのように構える。


「詩音……?」


 訝る廉と朱波だが、攻撃を続けるラウラとシンディアを見て、自分たちもそこに加わる。


「こいつ、魔物じゃなくて魔獣なんじゃないの!?」

「もし魔獣なら、魔物化した動物たちを操れるか?」


 中々ダメージを与えられず、苛々してきたのか、やや不満そうな口調で朱波は言うが、廉はそれは無いだろ、と言いたげに言う。


『シオンさん』

「まだ」


 目を細め、タイミングを見計らう。


(まだだ)


 一番のチャンスは奴が口を開きーー衝撃波を放つ時。

 ノームが自身の能力で魔物を攻撃する。

 だが、やはりダメージはあまりないらしい。


「はぁぁぁあああ!!」


 叫びながら攻撃するのはラウラとシンディアの二人。


「チッ、ここも違うか」


 舌打ちしつつも、一つずつ弱点らしき場所を攻撃していく。


『グワワワアアアア!!!!』


 魔物が叫ぶ。


「っ、何なの!?」

「また衝撃波か!?」


 魔物の咆哮に、面々は驚き、距離を取る。

 一方で、詩音は弓の弦を引くような動作をする。


(あと、少し……)


 照準を合わせる。

 魔物は息を大きく吸う。

 おそらく、衝撃波を放つための準備や癖みたいなものなのだろう。


「詩音!」


 廉は再び叫ぶ。

 先程は防げたかもしれないが、もう一度防げるとは限らない。


「大丈夫」


 だが、詩音は大丈夫だと言う。

 衝撃波が放たれる。


「詩音!」


 今度は朱波が叫ぶ。

 だが、衝撃波が放たれたのと同時に、詩音も放つ。

 見えない矢が衝撃波を目掛けて飛んでいく。


「“破魔の矢”」


 誰にも気づかない様な小さな声で呟く。

 ()()()で破魔矢。


(詩音だから出来ること、か)


 結理はそう思う。

 彼女の実家が実家だけに、彼女自身の力もそれなりに強い。

 だが、異世界に来たためか、その力も少なからず上がっているらしい。

 衝撃波とぶつかった見えない矢は、衝撃波を切り裂き、魔物の口の中へ入る。


「ーーっ!?」


 目標物に当たらなかった衝撃波は、左右に分裂し、それぞれ横にいた廉たちに強風となり、襲いかかった。

 そして、詩音の“矢”を受けた魔物は、体内から光を放つ。


「え、何? この嫌な予感は」


 それは誰の呟きだったのか。

 もちろん、結理たちも見ていたため、その対処をする。


「先輩、火属性の防御、何でもいいから張ってください。大翔は伏せてて」

「お前はどうするんだよ」

「私は光属性の防御をします」


 棗の問いに答えつつ、結理は光属性の防壁を展開する。


「爆発の火と光を遮断できれば、食らうのは爆風ぐらいだろうけど、防壁があるから、何とか防げると思いますよ?」


 必死に逃げている廉たちには悪いけどね、と結理は慌てて退避する廉たちを見ながらそう思う。


「全員、逃げろーー!!」


 シンディアが叫ぶ。


 ドカーン!!!!


 予想通り、爆発した。






「っつ……大丈夫?」

「ああ……」


 二重防壁のお陰か、三人へのダメージは爆風のダメージだけだった。


「あいつらは?」

「無事っぽいですよ」


 棗の問いに、大翔がほら、と示す。


「ゲホッゲホッ……って、あれ?」

「傷が、無い?」


 煙は吸い込んだらしいが、傷はほとんど無いらしい。

 四人は不思議に思い、首を傾げる。


「ん……みんな無事だったね」


 詩音が四人の元に来た。


「詩音テメェ……」

「爆発するなら、するって言ってよ!」


 恨みがましく言う廉と半泣き状態で言う朱波。

 見ていた三人も、それには同意した。


「いや、私もあれは予想外だった」


 本当に予想外だったらしい。


「でも、本当にびっくりしたよ?」

「全く……。命を粗末にするんじゃない」


 本当に驚いたのか、溜め息混じりのラウラと心配しながらも厳しい口調で言うシンディア。


「無事だったから良かったものを」


 びっくりしたんだぞ、とシンディアは言う。


「ねぇ、詩音」


 朱波が話し掛ける。


「まさか口の中を狙うために、あの場所にいたの?」

「……まぁ」


 間違ってはいないので、否定はできない。


「つか、どうやって狙った? 弓も矢も無かっただろ」

「企業秘密」


 不思議そうな廉に、詩音は秘密、と言う。


「私たちのケガが無いのは?」

「私が防御したから」


 朱波の質問に、詩音はあっさり答えた。


「口の中を狙った理由は?」

「防御できませんから」


 ラウラの問いに、詩音は答える。

 人間なら手で口を塞げば無事だろうが、魔物は防ごうとはせず、攻撃されるとも思わなかったのだろう。


「本当は目でも良かったんですが、グロいですから」

「いや、口でも十分グロいから」


 目を逸らし、そう付け加えた詩音に、朱波はそうツッコむ。

 それを聞き、廉はやれやれと思う。

 魔物化した動物たちの指揮官らしい魔物は倒した。

 しかも、不慮とはいえ、魔物化した動物たちを倒してしまった。


「…………」


 空を見上げる廉に、そっと風が吹いた。


   ☆★☆   


「へぇ、考えたな」


 大翔はそう言うと結理に目を向ける。


「なあ、鷹森はあの場所にいたこと、知ってたのか?」

「まあね」


 大翔の問いに、結理はあっさり頷いた。

 それでも大体、での把握であり、ほとんど気配察知で場所を特定したようなものだ。

 弱点については、見ていただけなので、分からなかったが、結理はそこまで言うつもりはない。


「じゃあ、行くか」

「そうだな」


 三人はその場から立ち上がる。


「ご苦労様、廉」


 結理のその一言とともに、三人はその場から去り、目的地に向かった。


 ただ、その後、廉たちがラウラたちから、三人を見たという場所を聞き出して、必ず追いつくと決めていたとは知る由もない。


   ☆★☆   


「居たな」

「ああ」


 目の前には、依頼として出された標的(ターゲット)がいた。

 ただ、その見た目が問題なのだが。


「あれ何の所? オーガ? エルフ? コボルト? ドワーフ?」

「俺たちに聞かれてもな……」


 結理がこれでもか、とファンタジーな生物たちを上げていくが、どれも当てはまらない。

 全体的に見ればオーガっぽいのだが、細かく見れば微妙に違う。エルフの様に尖った耳に、ドワーフの様な髭の生えた顔、コボルトの様な毛の生えた腕……とにかく、これだ、というものがない。


「オーガもどきって事にしておく?」

「だな。もし、亜種とかだったら嫌だ」


 とりあえず、呼び名を決める。

 結理の言葉に大翔が頷きながらも、こんなのは嫌だ、と本気で思っているのか、顔を顰めている。

 他の魔物の気や瘴気に当てられたのか、はたまた合成獣(キメラ)なのか分からないが、依頼として出ているのだから、他にも数匹はいるのだろう。


「どうする?」

「今まで通りで良いでしょ。前線が大翔、その補佐が私、援護は先輩で」

「だな。今更、役割変えるわけにもいかないしな」


 確認を取られた結理の答えに二人も頷く。

 いくつかの討伐依頼を終えた後、チームで依頼を行うなら、立ち位置ぐらい決めておけ、とユーナリアに言われて決めたのが、この立ち位置である。

 棗が後方射撃であることはあっさり決まったのだが、前線をどちらがするのかで揉めた。

 攻撃力重視なら結理を前線、大翔を補佐に、バランス重視なら大翔を前線、結理を補佐にするかどうか、である。

 結局、依頼内容を確認し、相手が相手なので、攻撃力よりもバランス重視で攻め、状況次第で攻撃力重視に切り替えようと決まったのは、グランドライトを出てからだ。


「わっ」

「っ、と」

「おっ」


 いきなりの攻撃に、慌てて回避する。


「これは反撃しても、問題ないよな?」

「正当防衛は成立するんじゃない?」


 後輩二人の言葉に、今はそんなこと言ってる場合じゃない、と頭を抱える棗だが、銃に弾を装填する。


「二人とも」


 声を掛ければ、二人は棗を見る。


「準備は良いか?」


 そう尋ねれば、二人は剣を構える。結理に至っては、失敗作(・・・)ではない、成功作(・・・)の剣であり、珍しくやる気を出している(真面目ともいうが、いつも不真面目というわけではない)。

 棗も銃を構え、そして告げた。


「旅立つための卒業試験、開始だ」


   ☆★☆   


 剣で切りかかり、魔法や弾を放つ。

 戦い始めて数分経ったが、それでも効いている様子はない。


「こいつ、本当はEランクに対する依頼じゃないんじゃねーの?」

「でも、師匠は私たちがクリア出来ると思って、この依頼を試験にしたわけだし……」


 CランクからDランクレベルじゃないのか、という大翔に、いくら何でもユーナリアが無茶な依頼を自分たちにさせるわけがない、と結理は言う。


「まあな。結理のメイン属性の説明時にも言っていたぐらいだしな」


『私だって、自分の弟子に死なれたら困るのよ。後で責められるのはともかく、いなくなられたらなられたで悲しいから』


 目を逸らしながら、ユーナリアはそう言っていた。何があったのかは知らないが、過去に何かあったのだろう。


「…………」

「まあ、な」


 ユーナリアに自分たちが、何だかんだで心配されているのは、分かっていた。

 それなら、と結理は相手を見上げる。


「とっとと終わらせて」


 上から拳が降ってくる。


「早く帰って」


 それを躱しーー


「安心させないとーーね!!」


 拳から上に向かって、剣を振り上げれば、綺麗な一直線から血が吹き出す。

 それを行った張本人は、片目を閉じて、二人に振り向き、そう告げた。


『グワアアアアア!!!!!』

「…………」


 先程まで、何のダメージを負わなかったオーガもどきが悲鳴を上げる。

 そのことに、二人は驚いた。

 ただ、腕を傷つけただけなのに、先程からの攻撃よりも悲鳴を上げられるとは思わなかった。


(さっきはダメージ与えられなかったのに、腕にはダメージが与えられた……?)


 傷つけた本人も、そのことには驚いていた。

 一体、どうなっているのか、と体の構造を知りたいと思う反面、危険を冒してまで調べたいとは思わない。


「ほら、驚いてないでさ」


 じっとしているとこちらが危ないので、結理が声を掛ければ、その声ではっ、とした二人も、腕を中心に攻撃を始める。

 一方で、向上した身体能力と袖から出したワイヤーを使い、オーガもどきの真横ーーほぼ顔の横ーーを通り過ぎ、背後に回った結理は、振り返られる前に背中を傷つける。


「アーンド、“起爆弾(きばくだん)”」


 ニヤリと笑みを浮かべ、結理は何かを放り投げると、“火球(ファイヤー・ボール)”をぶつけ、爆発させる。


『グワァァァアアア!!!!!』


 腕を傷つけた時よりも悲鳴を上げるオーガもどき。

 結理が今放ったのは、ユーナリアと作っていた爆撃系の道具の一つで、元は失敗作である棗の発砲で爆発するガス缶であり、そのうちの一つの改良に成功した“起爆弾”である。それに“火球(ファイヤー・ボール)”をぶつけ、爆発させたのだ(なお、二十四話時に出さなかったのは、単に入れてなかっただけである)。


(手榴弾でも良かったんだけど、先輩から問いつめられそうだしなぁ)


 と思いながら、手持ちにあった手榴弾を見て、近いうちに似たようなことを思うとは予想もしない結理である。

 今の爆発のせいか、背中が焼け(ただ)れ、地面には切りつけたときに出たのか、オーガもどきの血が落ちていた。


「腕と今のでやっとダメージ与えられたとか、防御力どんだけ高いんだよ」


 大翔の台詞に、結理は苦笑いする。

 数分前まで同じ事を思っていたので、否定はしない。


「でも、そう言いたくなる気持ちは分からなくはない」


 棗の同意するような言葉に、大翔と結理はオーガもどきを見上げる。

 三人より倍近くある身長を持つオーガもどき。

 先程の拳を振り下ろした地面が微妙に凹んでいることから、力もそれなりにあるのだろう。


『…………ルル』


 オーガもどきの動きが止まる。

 不審に思ってオーガもどきを見ていれば、結理がいち早く気づいた。


「っ、先輩、大翔、逃げて!」

「何を言ってーー」

『グォオオオオオ!!!!!』


 叫ぶ結理に、不思議そうな顔をする大翔だが、オーガもどきの咆哮で声はかき消される。


「っ、かはっ……!」


 そして、二人は怪しく目を光らせたオーガもどきの一振りによって、その場から吹き飛ばされる。


「大翔、先輩!」


 結理は叫ぶが、飛ばした張本人であるオーガもどきを静かに見上げる。


「絶体絶命、ってとこ?」


 聞かなくても、尋ねなくても分かる。

 明らかに不利だ。

 まだ使ってない道具はあるが、数量が決まっている以上、無駄に消費するわけにもいかない。


「…………」


 ちらり、と結理は大翔たちが飛ばされた方を見る。


「普通なら、逃げるところだけどーー」


 結理は剣を構え直す。


「今、仲間に与えてくれたダメージは、きっちり受けてもらう」


 剣先をオーガもどきに向け、何の表情も浮かべず、結理はそう言った。


   ☆★☆   


 傷つき、それを返せば、再び返される。


「…………、」


 全身が傷ついているのに、動ける理由が分からない。立っていられるのが奇跡だと思う。

 光のない黒い瞳が、目の前のオーガもどきを捉え、血が出ていた場所は止血済みだが、それでも動き回ってるせいか、傷口がすぐに開く。


「……かい、すぎんだろう、が……」


 大翔たちが戻ってくる気配はないが、かなり遠くまで飛ばされたのか否か。無事なのかどうか、今の結理に確認する(すべ)はない。


(やっぱり、元の世界(むこう)みたいに上手く行かないか)


 だが、それで当たり前でもあるのかな? とも結理は思う。


(異世界なんだから)


 でも、と短剣を握りしめる。


「何回目だよ、そう思うの」


 オーガもどきに蹴り飛ばされるが、すぐに受け身を取り、体勢を立て直す。


「でも、まだ戻ってこないのなら、少しぐらい本気出しても良いよね」


 そう言いながら吐血するも、手の甲で拭うと、結理はオーガもどきを見上げた。






 さて、オーガもどきに吹っ飛ばされた大翔たちは、というとーー……


「げほっげほっ……」

「大翔、生きてるか?」


 ()せながら、体を起こす。安否確認なのか、棗の問いに大丈夫です、と返せば、そうか、と返ってくる。


「動けそうか?」

「全身を強く打たれたみたいです。結構痛いですよ」


 どうやら棗も大翔もかなり遠くまで飛ばされたらしく、二人の場所まで一直線の道が出来、その間の木々は折れ曲がっていた。ただ、オーガもどきと結理が見えないのが気になるが。


「はぁ……」


 近くの木に手を起きながら、何とか二人は立ち上がる。

 その後、木を支えにしながら、二人は歩いていく。


「結理の奴が無事なら、いいんだが」

「無事じゃなくても大丈夫だというやつですからね、鷹森は」


 それについては棗も否定しない。

 結理に対しては頭から血を出していても平気だと言いそうなイメージがある。


「まあ、死んでなければいいんですよ」


 廉たちのためにも、ユーナリアのためにも。


「…………」


 二人は無言で足を進める。

 そして、オーガもどきがいた場所に近づくと、二人は首を傾げる。


「何だ? 霧、か?」

「いや、これは……」


 赤い何かがその場を覆っていた。

 その先には、オーガもどきとやはりというべきか、様子がおかしい結理がいた。大翔たちが来たことにも気づいていないらしい。

 さらに、オーガもどきの左腕が無く、生えていた髪や髭もバッサリと無くなっていた。

 何があったのかは分からないが、かなりの無茶をしたというのは二人にも分かったものの、状況が状況のため、中々手出しが出来ない。


「っ、マズっ……」


 ーーが、オーガもどきが大翔たちに気づいたらしく、残っていた右腕を振り上げる。

 逃げられても避けられない。

 どうしようか、と思案すれば、オーガもどきの腕は振り下ろされることなく、オーガもどき自身がその場に倒れる。


「一体、何で……」


 オーガもどきが倒れたことにより、赤い何かも消え始める。


「大翔」


 棗に声を掛けられ、二人でオーガもどきの討伐証拠部分として角を切り取る。


「依頼はこれでクリアか?」

「ああ。それより……」


 ぼんやりしていた結理に二人は目を向ける。

 赤い何かがあったときは分からなかったが、今ははっきりと目に見えて分かった。

 結理は真っ赤にーー髪と服だけだがーー染まっていた。袖から見えた白い布らしきものから止血したと思われるので、無事と言えば無事らしい。


「それにしても……これだけ近づいているのに、結理にしては珍しく気づいてないのか?」

「気づこうにも気づけないか、本当に気づいてないのか」


 気配に敏感な結理が反応しないため、不安になる二人だが、近づこうとすれば、がくんと結理が倒れそうになる。


「……もり、しっかりしろ、鷹森!」

「ひろ、と……?」


 大翔が慌てて支えに行くと、結理は目を見開いた。


「無事、だっ、たんだ」

「ああ。先輩も一緒だ」


 どこか安堵したように言う結理だが、大翔たちからすれば、心配の方が上回っていた。


「ったく、心配したんだぞ?」

「そうだ、オーガもどきは……?」

「ああ、それならーー」


 どこか慌てたような結理の問いに、大翔が答えようと倒れたままぴくりともしないオーガもどきに目を向ける。


「倒せた、の……?」

「ああ……何でだ?」


 不思議そうな結理に、棗が尋ねる。


「あいつは、倒しても、何度も、起き上がって……げほっげほっ」


 それは有り得ないだろ、と言いたげな大翔たちに、二人がいない間に戦って気づいたことを説明する結理だが、途中で噎せてしまう。


「でもこれは、やっぱりEランクが受けていい依頼じゃない。Aランクでも、チームじゃないと討伐不可能なレベルだ」

「ちょっと待て」


 今、聞かない方がいい情報を聞いた気がした。


「Aランクでも、チームじゃないと討伐不可能……?」

「そんな奴を一人で(・・・)倒したのか?」

「道具を使いまくったし、腕も落としましたから」


 眉を顰める棗と一人で、を強調する大翔に目を逸らしながら答える結理。


「それともう一つ。さっきの奴は何だ?」


 それなら、と尋ねる大翔だが、分からないのか、結理は首を傾げる。

 さっきの奴というのは、赤い何かのことだ。


「まさかの無意識だったか」

「……ああ、あれか」


 溜め息を吐く棗に、少し記憶を辿り、思い出したのか、一人納得する結理。


「あれはダメ。単なる気配消しと目くらましだから」


 その割には地味にダメージ与えていたような、と先程の状況を思い出す二人。

 実際、本来の効果と使い方は違うのだが、結理は説明するつもりはない。


「で、だ。お前ら、いつまで引っ付いてるつもりだ?」


 どこか苛立っている様な言い方をする棗に、二人はああ、とあっさり離れる。そんな二人に、何とも言えない目を棗は向ける。

 そして、溜め息を吐きーー


「とっとと換金して帰るぞ!」

「はい」

「りょーかい」


 棗の言葉に、結理と大翔はそう返事を返した。


   ☆★☆   


「試験合格おめでとう。今日はお祝いだな」

「師匠……」


 珍しく出迎えたユーナリアに、換金し帰宅した三人は驚く。


「珍しいですね。師匠が出迎えるなんて」

「三人とも無事に戻ってきたからな」

「…………」


 ユーナリアの出向いた理由を聞き、軽く感動し掛けていたのだが、そんな三人に爆弾が落とされる。


「でもまあ、俺でもやりたくない依頼だから、微妙に不安だったがな」

「おい」


 ユーナリアの本音を聞き、思わず突っ込む結理。


「私たち、本気で死にかけたんですけど」

「それについては悪かった」


 さっきまでのことを思い出し、軽く青ざめながら言う結理に、ユーナリアは謝る。


「別に、師匠が謝る事じゃないよ。私たちに力がないのもいけないんだから」

「ユーリ……」


 換金後、三人での反省点の一つがそれだった。

 ほとんど血塗れでギルドに戻ってきた三人に、ぎょっとしながらもゼルたち『壮大な(グランド・)創造者たち(クリエイターズ)』とミラたちギルド職員がギルドの奥に押し込み、三人を着替えさせたのだ(ギルドには三人の場合みたいに対応できる様、シャワー設備がある)。そして、綺麗さっぱりした三人は、そのことに苦笑いしながらも換金したのだがーー


『やっぱり、無茶しすぎたか?』

『いや、あれは仕方ないだろ。向こうは本能で動いてたんだから』

『私、絶対腕落ちた……』


 ゼルたちやミラたちに迷惑を掛けたため、オーガもどきとの戦闘を振り返る。中でも、結理は目に見えて落ち込んでいた。


『いやいやいや、半年であの実力だろ?』

『あれと対等に戦えるって、凄いと思うぞ?』


 三人がユーナリアの弟子だと知る冒険者たちが励まそうとするが、


『対等じゃない。こっちは満身創痍だったし……』


 一度ネガティブになると、そこから中々抜け出せない。

 冒険者たちはどうする? と互いの顔を見合わせる。

 確かに結理たちは満身創痍だったが、歩けていたのを見ると、まだマシな方だと思えるのだが、本人たちは違うらしい。


『しかも、無限再生とか、マジふざけんな。片腕落としてやっと優勢とか、こっちの回復追いつかねーし、麻痺させても『麻痺? 何それ』状態で平気で動き回るし、効いてるのか効いてないのか分からないっつーの。しかも毒も似たようなものだし……』


 特に結理が酷く、恨めしそうに呟き、大翔たちも自分たちが不在の間に何があったのか想像でき、聞いていた冒険者たちもうわぁ、と言いたそうな顔をする。


 とまあ、こんな感じで、ギルドで少し休んでから帰宅したのだが。


(次見たら絶対仕留める)


 そう思う結理の目は、恨めしそうになっていたのだろう。隣で棗が「目が(こえ)ーよ」と呟く。


「でも、本当に無事で良かった」


 結理の頭を撫でるユーナリアだが、反対に睨まれる。


「私は頭を撫でられる年齢(とし)じゃないんですが?」

「今ぐらいいいじゃねーか。どうせ、お前らは明日王都に発つんだろ?」


 ユーナリアの言葉に、彼を睨みながら手を外そうとしていた結理の手が止まり、棗と大翔も無言になる。

 ユーナリアの卒業試験に合格したということは、グランドライトを出て、王都に向かうということだ。


「そう、ですね」


 かろうじて声を出すが、それだけであり、何も続かなかった。

 四人とも食事をする手だけを動かすが、数分後にその空気を破ったのはユーナリアだった。


「何、辛気くさい顔してんだよ」

「させた本人が言いますか」


 三人に何とも言えない目を向けられ、ユーナリアは顔を引きつらせる。


「まあ、そうなんだけど、どうせずっと会えないわけじゃないだろうし、お前らが王都に行くのは友人との合流であり、元の世界に帰るためじゃないんだろ?」

「それは……」


 はっきりとは分からない。

 合流後、元の世界に帰れると教えられた場合、特に何もなければ(・・・・・・)帰る予定だが、廉たちなら何かあるはずだ。


(魔王がいるなら勇者もいるよね)


 誰が、とは言わないが、勇者になっていてもおかしくはない。

 そう思いながら、結理はグラスに口を付ける。


(しかも、良運持ちが固まってるとか)


 笑えてくる。

 いきなり小さく笑い出した結理に、不審者を見るような目を向ける三人。


「おい、これ酒じゃないか?」


 結理のグラスの匂いを嗅いだ棗の言葉に、大翔たちも嗅いでみる。


「師匠、俺たち酒系はダメだって、言ったじゃないですか!」


 この中で唯一の成人越えしているユーナリアが持ち込んだのだろう。


「どうすんだよ、これ。結理が二日酔いになったら、明日出発するどころじゃないぞ?」


 未だに小さく笑い続けている結理を見て、棗が頭を抱える。

 この様子だと、ずっと飲んでいたらしいが、いつから飲んでいたのかは分からない上、最初から飲んでいたのかもしれない。普通なら味で気づかないはずがないのだがーーそもそも年齢上、酒の味を知らない結理は、気づかなかったらしい。


「あ、これ。酒は酒でもビールの類っていうより、カクテルに近いな」


 軽く口を付けたユーナリアがそう結論づける。


「鷹森にぶっ飛ばされますよー」


 そう言いながら、大翔はその場にある酒類をを台所に運ぶ。また間違って飲まれては大変だ。

 そして、そのぶっ飛ばしそうな結理は、未だに笑みを浮かべており、机の角にガン、と額をぶつけてその場で悶えている。


「完全に酔ってるな」


 痛そう、と顔を歪めながらも、ユーナリアの言葉に棗は同意する。


「どうします?」

「部屋に連れていくしかないだろ」

「誰が連れていくんですか?」


 棗とユーナリアの会話に、戻ってきた大翔が加わる。


「いっそのこと放置しとくか?」


 運ぼうと思えば運べるのだろうが、二人にそんな体力は残っていない。ユーナリアに目を向ければ逸らされる。


「……痛い」


 そんな三人を余所に、結理は起き上がると、額を触りながらそう呟く。


「そりゃそうだろ。思いっきりぶつけてたんだから」

「う~……」

「とにもかくにも、お前は早く寝ろ」


 棗の説明に唸る結理に、ユーナリアが部屋へ行け、と促す。


「そうします……」


 素直に従い、自室に向かう結理を見つつ、食べ終わった分の片付けを三人は始める。


「お前ら、よく付き合えるよな」

「まあ、そうですね」


 ユーナリアがそう言えば、片付けを続けながら大翔がそう返す。


「それでも、王都にいるであろう友人たちよりは、付き合いが短い方なんですよ」

「そういや、前にも似たようなことを聞いたな」


 棗の言葉でそういえば、と思い出したのか、ユーナリアが頷く。


「その情報源は鷹森ですよね?」

「どうだったかな」


 台所から茶と水を持ってきた大翔に聞かれるが、本当に忘れたのか、ユーナリアは肩を竦めると水に口を付け、目を細める。


(朝になったら三人はグランドライトを去る。それなら俺は……)


 師匠として、最後の最後まで何かしてやろう。

 ユーナリアはそう思う。

 大翔と棗は理由が分からず互いの顔を見合わせていた。


 そうしてグランドライトでの夜は更けていく。



読了、ありがとうございます


誤字脱字報告、お願いします



さて、今回は第十四話の結理たち視点、ユーナリアからの卒業試験でした


それにしても、長い……



次回は『そして、時は現在へ』


いよいよ旅立ちの時

旅立つ三人にユーナリアはあることを告げます



それでは、また次回



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