第二十六話:特訓と『召喚札』
今回の全て回想
「ねえ、先輩」
「何だ?」
話しかけられ、棗は振り向く。
「私たちって、そろそろ王都に行った方が良いのかな?」
廉たちと合流しようにも、王都へ行かないと無理な上、時期が時期なので、出来れば完全に夏に入る前に王都へ向かいたい。
「そうだな。師匠に一度話してみるか」
棗にそう言われ、そうですねぇ、と結理は返す。
この件に関しては、ユーナリアの判断次第だ。実力不足だと判断されれば、王都へも行かせてもらえない可能性もある。
とにかく、一度話してみようということになり、三人はユーナリアの部屋に向かった。
☆★☆
「ん? 王都?」
「はい」
何やら作業をしていたらしいユーナリアが手を休めて、三人の話を聞けば、首を傾げた。
「別に良いけどさ。私からの教えは、最後まで聞いていきなさいよ。そうしないと許さないから」
ユーナリアからあっさりと許可が出て、三人は驚くも、笑みが浮かぶ。
「もちろん、分かってます。師匠の教え、全て身につけてみせます!」
「ふふ、良く言ったわね。なら、それに見合うように、私も頑張らなくっちゃ」
三人のやる気を見たユーナリアは微笑み、自身もやる気を出す。
「それじゃあ、今からやりますか」
「い、今からですか!?」
椅子から立ち上がり、今からやると告げたユーナリアに、驚く三人。
「あら、私の教えを全て身に付けるんじゃなかったの?」
くすり、と笑みを浮かべて言うユーナリアに、三人も慌てて立ち上がり、頭を下げる。
「っ、お願いします、師匠!」
そんな三人を見て、ユーナリアはなら、場所を移動しましょうか、と言い、三人に外出の用意をさせた。
☆★☆
「この前、メインで使うように言った属性は、それぞれ覚えてるわよね?」
「はい」
ユーナリアの問いに、三人は頷く。
三人それぞれのメイン属性はーー大翔が水属性、棗が火属性、結理が闇属性である。
それを理解したユーナリアは一人ずつ指示していく。
「まずはヒロト」
「はい」
「あんたは氷属性の魔法を収得しなさい」
そう言いながら、ユーナリアは一つの氷の玉を作る。
「今から開始して、氷の玉の大きさが全て同じになるまでは、終わりじゃないと思いなさい」
「はい」
ただ同じ大きさの氷の玉を作れ、と言われても、簡単ではない。力を入れすぎれば大きくなるし、力を抜きすぎれば小さいまま。
ユーナリアは自身の氷の玉を大翔に渡し、棗と結理に向き合う。
「二人は対苦手属性組ね」
「はい」
「師匠、私は対策方法が分かりません」
ユーナリアの言葉に、棗は頷き、結理は「先生、分かりません」と質問するように手を挙げ、尋ねる。
確かに、闇属性が苦手とするのは光属性であり、光属性もまた闇属性が苦手とするためか、闇属性が他に苦手となる属性が結理には分からなかった。
「それについては後で教えるから、大人しく待ってなさい」
そう言われ、結理は分かりました、とユーナリアと棗の説明を聞きながら、大翔の練習風景を見る。
どうやら、上手くいってないらしく、サイズが全てバラバラだ。
「ナツメは対水属性対策として、雷属性の魔法の収得しなさい」
「雷属性、ですか?」
雷属性は風属性の派生だが、それを聞いた結理は主属性でもいいんじゃないのか? と思ったのだが、どうしても風属性の方が応用が利く。そのため、この世界では、風属性も雷属性もこのような扱いなのだろう。
棗は現在、対水属性対策として、雷属性の魔法を練習中だ。ミスして大翔の方へ魔法が飛んでいったとしても、ユーナリアが無属性の障壁(衝撃吸収仕様)を張っているので、問題はない。
「じゃあ、次はユーリね」
「はい」
棗を少し見ていたユーナリアだが、大丈夫だと判断したのか、結理の方へ来た。
結理の返事に微笑むユーナリアだが、次第に困った顔になる。
「はっきり言って、私も闇属性が光属性を苦手とし、その逆も然り、としか知らないから。ユーリの苦手対策は難しいのよね」
やっぱり、か、と結理は思う。
いくら自分たちにこの世界について教えてくれた『師』とはいえ、全部を全部、知っているわけではない。
だから、とユーナリアはいう。
「ユーリには、代わりに補助魔法と光属性の魔法を教える。闇属性メインとしているから、光属性を使用したときの拒否反応のようなものも確認する必要もあるしね」
それに、結理は頷くが、横からユーナリアが付け加える。
「あと一応ってことで、別の方法も教えてあげるから、その時までは補助魔法と光属性の魔法を覚えなさい」
そして、三人の特訓はユーナリアの監督の元、開始されたのだった。
結論から言えば、大翔は氷の玉を作るのに慣れ、個々で同じ大きさが作れるようになり、氷属性の魔法の練習に入っていた。
棗は雷属性を放てるようになり、空からの落雷も地面付近でねじ曲げ、的にぶつけることもできるようになった。
ただ、それを見たユーナリアが、
「それはどうなんだ」
と突っ込んでいたのだが。
結理に至っては、光属性の魔法はあまり強力なものでなければ問題なし、ということが分かり、補助魔法の練習に入っている。
ただ、ユーナリアの言っていた別の方法が慣れるまで大変だっただけなのだが。
その別の方法というのが、『召喚魔法』といい、結理たち三人に使われたであろう人に作用するものや、獣や悪魔など召喚獣という括りに入るであろうモノに作用するものがある。
今回、ユーナリアが結理に教えたのは後者である。
「はい、これ」
「これは……?」
ユーナリアから差し出されたカードの様な紙を裏表に返しながら見る。
「それは『召喚札』といい、召喚に使うものよ」
「『召喚札』……」
カードを見ながら、結理は復唱し、それを見たユーナリアは頷く。
「今は何も無い状態なんだけど……」
ユーナリアはポケットから取り出した『召喚札』を見せる。
「喚び出したいモノのイメージするか、そこにイラストや名前を書く。そうすれば、その真っ白な状態から、このようになる」
結理の持つ『召喚札』と自分の持つ『召喚札』を示しながら、ユーナリアは説明する。
「ただ、イラストに関しては、画力が必要になるから、そのまま直接描くんじゃなくて、一回、別の紙に下書きしてから『召喚札』へ描きなさいよ?」
イメージの方が、細部まで自動的に描けるから、描くよりは簡単だけどね、というのはユーナリアの言葉である。
時間を掛け、じっくりと考えたりしたいのなら、描く方でも構わないが、そうでなければ、イメージで描き、吟味するしかない。
「…………」
説明を聞き、召喚札を見て、無言になる結理。
「まあ、能力は想像主がいくらでも与えられるから。あと、これは注意事項」
ユーナリアに結理は顔を向ける。
「想像主ーーこれは私たちのことだけど、イメージしたものーー便宜上、召喚獣と呼ぶけど、召喚獣に嘗められないように」
ユーナリアは真面目な顔をして言う。
「召喚獣は想像主により、意思や言動を持つことがある。想像主と召喚獣の関係ーー想像主の中には、主従関係だからと平気で召喚獣に乱暴する者もいる」
『自分が想像し、生を受けさせたのに、逆らうのか!』
ユーナリアは一度だけその場面を見たらしく、罵声を受けていた召喚獣が哀れで仕方がなかった。
その召喚獣が今、どうしているのかは知らないが。
「また逆に、想像主が召喚獣に乱暴を受ける者もいる。契約の対価として魂を要求したり、気に入らないと、想像主を罵倒する」
ユーナリアはそこまで話し、そっと息を吐き、空を見る。
「つまり、何が言いたいのかって言うと、生を与えた以上は命の保証をしてやれってことよ」
虐げるのでもなく、虐げられるのでもない。
これから現れるモノと『契約』するのなら、立場は自分が上だと示せ。
それでも力を使い、使わせるのだから、対等でいろ。
「『召喚札』は言わば『門』よ。想像主と召喚獣を結ぶ『契約の門』。貴女が何を、どんな召喚獣を喚び出すのかは分からないけどーー」
生を与えた以上は、彼らの主として、きっちり面倒を見て上げなさい。
ユーナリアはそう告げた。
「……師匠」
『召喚札』に目を向けていた結理が、呟く。
「契約内容、って、想像主が決められるんですか?」
「……? 時と場合ね」
結理の問いに、首を傾げ、ユーナリアはそう答える。
「召喚条件は?」
「それは双方の合意で決められるわよ。あまりにも力が強いと判断されれば、制約は付くけど」
ユーナリアの説明を聞き、結理は思案する。
本人は何やらぶつぶつと呟き、持っていた一枚でどうしよう、と言っている。
どうやら、候補がありすぎて決められないのか、とユーナリアは苦笑する。
「はい。一応、『召喚札』は失敗しても書き直せるけど、念のためにもう一枚あげるわ」
「……いいんですか?」
二枚目は予想外だった様で、結理は確認する。
「別にいいわよ。でも、さっきまでの説明はちゃんと守りなさい」
「分かってます。私はぞんざいに扱うつもりもありませんし、もし、師匠が言ったようなことをすれば、仕返しするつもりでいますから」
ユーナリアの言葉に、結理は頷く。
何となくだが、この弟子はそうやりそうな感じがするなぁ、とユーナリアはどこか物騒なことを、ほのぼのとした表情で見ていた。
そしてーー
「ほのぼのしてますねぇ」
「ああ」
休憩していた大翔と棗は、二人揃って結理たちの方を見たのだが、どこかほのぼのとした空気を放っていた。
「今一瞬だけ、鷹森が猫に見えました」
「鷹の間違いじゃないのか?」
鷹森なだけに、と棗は言うが、彼女の気まぐれな部分は猫みたいで否定はできない。
「そのうち、師匠は愛猫家になるような気がします」
「いや、それは無いだろ」
結理は猫ではなく人間だ。
「ま、師匠の結理に対する特別扱いは、今に始まったことじゃないしな」
「あれ、先輩。もしかして、師匠が鷹森ばかりに構ってるから妬いてる? それとも逆? ねぇ、どっちー?」
「大翔テメェ……」
完全にからかっているであろう大翔の言葉に、棗は怒りを露わにする。
それに気づいたのか、大翔は逃げ出し、棗が追い掛け始める。
その騒ぎに気づいたらしい結理たちも、追いかけっこをする二人を見て、ユーナリアが仲裁に入ろうとする。
そんな光景を見ながら、結理が空を見上げれば、風が吹き、雲が流れる。
「黒と白……漆黒と純白……」
そう呟き、笑みを浮かべ、ユーナリアから貰った『召喚札』に描く。
結理が何かをしていることに気づいたのか、追いかけっこをしていた大翔たちが何やってるんだ? と覗きに来る。
それに気づいているのかいないのか、結理は手を止める気配は無い。
「出来た」
そうして出来たのは、『漆黒』と『純白』を持つ対の存在。
「相変わらず、上手いよな」
「美術は四だからね」
大翔の言葉に、否定はしない、と結理はやや偉そうに返す(ちなみに、転移前に通っていた高校の評価は五段階式)。
「名前は?」
「もう決めてあります」
『召喚札』の下部にある名前の記入欄に名前を書く。
「この二人の名前はーー……」
ある日の昼下がり、三人は新たな魔法を手に入れた。
それは今後どんな影響を及ぼすか分からないが、
(せめて、廉たちの力になれればいいな)
まだ見ぬ幼馴染たちへそう思いながら、結理は三人に特訓の再開を促すのだった。
読了、ありがとうございます
誤字脱字報告、お願いします
さて、今回は『特訓』がメインのはずが、『召喚札』がメインみたいになりました
後半はほのぼの(?)してましたが
ちなみに、結理の対の召喚獣は前話に伏線があります
完全に登場するのは合流後ですが
次回は『旅立つための卒業試験』
王都に行けるか否か、ユーナリアからの試験に三人はクリアすることは出来るのか(と、予告してみる)
それでは、また次回
H25/08/08 誤字訂正




