着替え
私と瞬が付き合い始めてから数日。
やってきたよ。
あの憎たらしい発育測定が!
何が憎たらしいって、私は中学のときからほぼ身長が変わらない。毎年毎年誤差の範囲で伸びたり縮んだり、それでもって152センチで止まっている有様だ。
なのになんだ。体重だけは増えるのって嫌がらせなんだろうか。こんな嫌な気持ちしかしない発育測定、嫌い!
「嫌い!」
「…ふっ」
今の今まで私の発育測定に対する愚痴を聞いてくれていた瞬が笑った。
「笑うところじゃないよ瞬!こっちは真面目なんだから」
口を尖んがらせて言った。
「瞬はいいよ、背が高いんだもん。」
瞬は惚けたような顔をして言う。
「うちは歩花くらいの身長が一番好きだなぁ」
「なにそれ」
「ちょうど収まる」
「どゆこと」
「だから、抱きしめやすいってこと」
「はっ!?」
またこの人は耳まで真っ赤になりそうなことを言いなさる。この間ふいに瞬に抱きしめられたことを思い出した。
「前ギュッてしたときも、なんていうのかな。包みこめる抱きまくらみたいな心地良さ?っていうの?あーいう…」
「いい!いいから!恥ずかしいからやめて!」
「えーなんでー」
瞬ってば、不満そうな言い方しながら顔が笑ってますけど。
「とにかくね!私は発育測定が嫌いなの!」
「はいはい」
ニコニコして言う瞬。果たして理解してくれただろうか。
発育測定といえば、まずジャージに着替えなければいけない。
(あ…)
そういえば私、着替えるの初めてかも。
まだ体育の授業は行われていないから今日が初ジャージだ。
そして、瞬が着替えるところを見るのも初めてになるのでは。部活動体験のときに瞬はジャージになったけど、更衣室で颯爽と着替えたようなので私は見ていない。
(って、何意識してんの)
アホか、と自分をツッコんだ。同級生の女子の着替えを意識だとか笑えない。
(でもちょっと…)
気になる。
あのボーイッシュな瞬がどんな下着を着けてるんだろう…。ていうか、下着着けてるのかな。(ひどい)そもそも胸なかったらどうしよう…。(さらにひどい)
とても女性に対してとは思えない脳内の考えを一度蹴散らして、チラっと瞬の席を見た。瞬はもう着替え終わっていた。残念。
(…残念?アホか!)
と、アホみたいな葛藤を繰り広げているうちに周りのクラスメイトが着替え終わり始めた。
(やばっ)
まだ三分の一くらいしか着替えていなかった私は焦って、無駄に机をガタガタさせながらの着替えとなった。