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第15話『元陰キャラボッチの甘い日々』その一


 一月十二日


 三学期が始まり毎日の寒さに慣れた頃、ちょっとした事件が起こる。


 最近おかしいのだ。ぼっちらしく空気に徹している筈だったが、クラスの女子達が普通に話しかけてくる。


「井伊君は音楽何聴いてるの?」「駅前に新しいファーストフード出来たんだって」「好きなゲーム何?」 


 大久保達から情報を得た結果、俺がかっこよくなってきたという事を知った。

 栄養管理バッチリ、身だしなみもしっかりしてる。トークも棘がなくなり話しやすくなったとか。


 無論、種明かしをするとアキラが口うるさくするから従っているだけだがな。

 話し方も今まで一匹狼だったけど女の子と話すことが多くなり慣れたんだろう。


 まあそれはいいんだが、「ほら直助、ネクタイが曲がってるわよ」隣の席でもないアキラがわざわざここまで来て直してくれる。


「……悪い委員長」

「もうしっかりしてよね。ほんと私がいないと何もできないんだから……」

「申し訳ないついでにノート写させてくれないか? ちょっと考え事してさ」

「はぁ……ばーか」

「いつも頼りにしてます」


 すんませんと俺は手を合わせて机に頭を擦り付ける。


 それよりアキラはとうとうクラスで堂々と俺の名前呼びするようになる。他の男子にもしたことがない珍事。

 しかし悪い気はしないが、女子が寄ってくる度に割って入ってくるのはやめてほしいです。

 遠巻きに観察している大久保達が面白がるからこれ以上餌を提供しないでくれ。


「ねえねえ直助、今日は何食べたい?」

「湯豆腐と長芋のわさび漬け」

「お酒好きのオジさんみたい」

「なんとでも言え。キンキンに冷えた強炭酸とよく合う」

「じゃあ、帰りスーパー寄ろうか? 特売でキャベツ安かったからロールキャベツ作ってあげる」

「了解。後でお金渡す」

「お金は私が出すよ。この前カラオケ奢ってもらったからさ」

「いいのか?」

「うん。任せてよ」

「じゃあ、その代わり一緒に双子迎えに行こう」


 ありがとうと微笑むアキラ。

 なんて公衆の面前で俺達の披露してしまったから、無論、陰キャ陽キャ関係なく男子達にもこの様子は不審に映り色々と根掘り葉掘り尋問された。

 それはそうだ。クラスで大人気のアキラがぽっとでの陰キャと仲良くしていたらそれは関係を疑われても仕方ない。


 だから俺は、「委員長とはただのご近所さん」と迷惑かけないように赤の他人を装うことにした。


 なんだけどなぜかアキラの圧が強い。遠くから消しゴムを投げつけられる。

 しくじったか?


 ——放課後、どういうわけか先回りしていた水戸に捕縛。


「井伊ちょっといいか?」

「水戸なにかな?」

「今日牛丼でも食いにいかないか?」

「すまん、俺ベジタリアンなんだ」

「ジョークがうまいな。お前と仲良くなりたいんだ。考えくれよ」

「時間があればな」

「それに今日はナリとデートだろ?」

「聴いていたのか? しかしご期待に添えなくて悪いが、残念ながらただの買い物だ」


 適当に言葉を濁す。

 カースト最上位の顔面偏差値高いやつが俺と仲良くなってもメリットがないぞ。

 そもそも空気に徹してきたのにとうとう認識できたか。まさか修学旅行の俺の告白を真に受けたわけではあるまい。


「じゃあ井伊はナリと付き合っていないのか?」

「ただの友達だ。第一俺じゃ不釣り合い過ぎるわ」

「そうか。だがそれ以上の関係に映るけどね」

「出来の悪い弟みたいなもんだよ。いつも俺が迷惑を掛けている」

「それなら分かる。ナリは弟も欲しがっていたからな」

「だから余計な詮索はしないでくれ。委員長に迷惑をかけたくないんだ」

「それだったら俺が本気でナリを取りに行っても問題ないんだな?」

「……ご自由にどうぞ。ただし強引にいったら弟として介入するからな」

「心配するな。正攻法で当たってぶつかるだけさ」

「健闘を祈る」


 水戸はああと一瞥すると去っていく。

 これがモブ扱いの俺を初めて敵と認識した時だった。

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