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術中覚醒(イントラオペラティブ・アウェイクニング)と論理的切断手術(ロジカル・アンピュテーション)

30メートルのモノリスに走った亀裂は、岩が砕けるような音を立てなかった。空間と時間そのものが引き裂かれるような轟音を響かせたのだ。


光の固体ソリッド・ライト黒水晶ブラック・クリスタルの巨大な構造物が、内側から外側へと粉々に砕け散った。俺たちを襲ったのは瓦礫の破片ではなく、絶対零度の衝撃波だった。球形の空間の空気が瞬時に凍りつき、まるで重鉛のように重い雪の結晶が降り注ぐ「逆さまの吹雪」となって俺たちに襲いかかった。


俺は後ろに弾き飛ばされ、半透明の床を滑った。


顔を上げると、第零の君主ソベラーノ・ゼロは落下していなかった。彼は床から1メートルの宙に浮き、裸足は虚無の上に置かれていた。白いリネンの衣服が、風もないのに波打っている。その顔は完璧なほど穏やかなままだったが、両目に広がる星屑の虚空が俺のチームに向けられた。


『お前たちのノイズが、秩序の眠りを妨げている』彼の声に声帯は必要なかった。それは俺たちの心臓の鼓動に直接押し付けられ、危険なほどにその速度を低下させた。


グリッスルが咆哮し、オークの熱い血を無理やり巡らせて停滞ステイシスに抗った。彼女はためらわなかった。リヴァイアサンを移植された脚を使い、弾道ミサイルのような威力で宙へ跳躍する。山をも両断する弧を描き、恐るべき骨の斧が君主の頭蓋骨を真っ直ぐに狙って振り下ろされた。


第零号患者は避けなかった。シールドを展開することもなく、手を上げることもなかった。ただ、斧を「見た」だけだ。


彼の顔から1メートルのところで、地球最大の捕食者の骨から鍛造されたグリッスルの千年の武器が、色を変えた。古びた象牙色が半透明になる。瞬きする間に、リヴァイアサンの骨は脆いガラスへと変成トランスミュートさせられたのだ。


グリッスルの打撃の運動エネルギーが、彼女自身の武器を空中で粉砕した。オークは武装を失い、呆然としたまま床に激しく叩きつけられ、その空っぽの両手はガラスの粉にまみれていた。


「グリッスル、下がって!」ヴァレリアが叫んだ。


エンジニアは氷に膝をつき、プラズマライフルを最大出力で発射した。数千度に達する白熱の3本のビームが空間を交差する。


君主は、青白い指を1本だけ突き上げた。


プラズマは反射されたのではない。凍結されたのだ。超高温の光のビームが空中で凝固し、不活性な紫色の氷柱つららへと変わり、乾いた無機質な音を立てて床に落ちた。彼の魔法は熱を吸収するだけではない。熱力学の法則を、屈辱的なほどあっさりと書き換えてしまうのだ。


『お前たちは混沌カオスをもたらす。混沌は病だ』第零の君主は、その星屑の視線を俺に向けた。『そしてお前……お前は最も汚らわしい媒介者ベクターだ。肩に開いた傷口を抱えた泥棒め』


彼の意識が、俺の黒水晶の腕へと向けられた。


痛みは即座に現れ、目の前が真っ白になった。外部からの攻撃ではない。幾度となく俺の命を救ってきた魔法の武器である、俺自身の義手が反逆したのだ。


水晶を俺の左肩に繋いでいる紫色のフィラメントが膨張し始めた。俺が魔法を支配するために使っていた論理的ウイルス『バベルのコード』が、ほんの一瞬で一掃される。ハードウェアを作ったエンジニアに対して、俺はソフトウェアのトリックを使おうとしていたのだ。


君主は自分の腕を取り戻そうとしていた。紫色の結晶化が俺の首を這い上がり、神経系を無視して鎖骨を石灰化し始める。


「アーサー!」ルナが俺の方へ走り、音波の杖を掲げて破壊の周波数を放とうとしたが、君主の声が空間を沈黙させた。


『完全なる真空に、音は存在しない』


ルナの周囲の空気が突如として高密度になり、エンパスは腕を動かすことすらできなくなった。彼女はその場に凍りつき、目を丸くして、窒息するような沈黙の中で息を詰まらせた。


俺は膝から崩れ落ちた。水晶はすでに左胸の半分を覆っていた。俺は貴族フィダルゴへ、従順な彫像へと変えられ、旧世界のゴシック博物館に「アーカイブ」されようとしていた。奴の魔法に魔法で対抗することはできない。君主は、物質そのものに対する管理者アドミニストレーター権限を持っているのだ。


義手が致命的な腫瘍チューモアと化したのなら、医学が提示する解決策はただ一つ。「根治的切断手術ラジカル・アンピュテーション」だ。


目を閉じる。魔法を無視し、自身の意識を肝臓へと降ろしていく。そこでは、絶対的な冷気に追い詰められ、恐怖し、飢え切った寄生体が身悶えしていた。


『起きろ』俺の生物学バイオロジーに棲むエイリアンの獣に命じた。『起きろ、さもなくば俺たちは氷の塊の中で死ぬぞ』


寄生体がシャーッと音を立てた。生存本能が、無気力を上回ったのだ。


奴に君主を攻撃しろとは頼まなかった。「俺を」攻撃しろと頼んだのだ。


エンドルフィンではなく、怪物の肉を溶かすために使う腐食性の酸と消化酵素で、俺の左のリンパ系を氾濫させろと共生体シンビオートに命じた。


変異した生物学は、おぞましい有機的な暴力をもって応えた。


沸騰する黒い酸の血の噴流が静脈を駆け上がり、俺の左肩の内部で爆発した。痛みは極限に達し、視界が真っ赤に染まった。寄生体は、俺の脳と黒水晶の腕を繋ぐ神経の架け橋を破壊するために、文字通り俺の人間の肉を溶かしていた。


石灰化の魔法的無菌状態が、エイリアンの胃酸の沸騰する腐敗と衝突した。有機化学オーガニック・ケミストリーが魔法に勝ったのだ。


水晶の根がパキリと鳴った。俺の左肩は黒い血が湯気を立てる傷口として開き、俺の体とのリンクを失った義手全体が、不活性なまま死んだような金属音を立てて氷の床に落ちた。


君主の「ダウンロード」を防ぐため、俺は今しがた自分自身の腕を内側から引きちぎったのだ。


息を荒げ、顎から唾液と黒い血を滴らせながら、残された一本の手で床に手をついた。強制的な切断の痛みが心臓の鼓動と同期してズキズキと痛んだが、俺の脳は冷たい侵略から解放されていた。


第零の君主が動きを止めた。初めて、その無限の平穏な顔が、わずかに、ほとんど気づかないほどの嫌悪の表情へとひび割れた。


『有機的な自傷行為か。お前たちという種の狂気は、底を知らんな』


「これは……『誘発性虚血インデュースト・イスケミア』って言うんだよ」磨かれた床に唾を吐き捨てた。俺の黒い血の染みが、汚れなき氷の上で沸騰する。青白い人間の右手で、ミスリルのメスの柄をしっかりと握りしめた。


寄生体は今や完全に覚醒し、自分自身の宿主を喰らうよう強制されたことに激怒し、代償を要求していた。首から右顔面の皮膚の下の静脈が真っ黒に染まる。人間の手からキチン質の爪が突き出し、メスと絡み合った。


俺はもはや魔法使いではなかった。末期状態の生物学バイオロジーだ。あの無垢な場所がこれまでに感染した中で、最悪の病気である。


「ルナ……ヴァレリア……グリッスル!」俺の声は、人間と怪物の二つの声帯が同時に振動する、歪んだ咆哮となって出た。「奴は古典物理学に免疫イミューンがある! 魔法にも免疫がある!」


よろめきながら立ち上がる。左肩からは酸の煙が立ち上り、熱い血が足元の床を溶かしていく。


「だが、奴は院内感染ホスピタル・インフェクションにかかったことはないはずだ。手術室を汚してやるぞ!」


第零号患者は両手を掲げ、彼が準備している幾何学的な怒りで空間全体が振動した。だが、俺たちの麻酔は切れていた。手術は、外傷トラウマ任せの荒療治となる。

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