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第20話 非難

斎藤夜が服を着替えて出てきた時、奈々子は何か言いたかったけれど、どう話し始めていいのか分からなかった。


さっき、システムで斎藤夜の過去を見てしまったせいで、奈々子の胸が苦しくなった。


奈々子は幼い頃から家族がいなくて、つらい思いもあった。

けれど、斎藤夜は両親がいて、裕福な家庭に生まれたにもかかわらず、彼女の人生が孤児である自分よりもずっと苦しいことに胸が痛んだ。


双子ではあるが、斎藤日奈が生まれたとき、体が病弱だったため、斎藤家は彼女を治療するために海外に連れて行かなければならなかった。


斎藤夜も一緒に連れて行かれたが、夫婦は限られたエネルギーを病弱な斎藤日奈に費やすことが多く、何度も斎藤夜の存在を完全に忘れてしまった。


使用人が世話をしていたとはいえ、大小さまざまな問題が避けられなかった。


その時、家を取り仕切っていたのは斎藤家の祖母で、斎藤祖母は大孫娘がこんな風に無視されていることを聞き、すぐにその子を自分の元に連れて帰ることを決めた。それから、斎藤夜は小さい頃から両親と離れて斎藤祖母に育てられたため、自然に両親とは親しい関係を築けなかった。


一方で、斎藤日奈は小さい頃から溺愛され、姉はほとんど現れず、何事も自分一人のものだと思うようになった。

体調が回復して帰国した後、彼女は自分のものを取られたような気がして、斎藤夜を受け入れることができなかった。

これが、斎藤夜の悲惨な人生の始まりだった。


帰国してから、斎藤夜は家で笑うことがなかった。鬱ではないと言えば、彼女の内面が強かったからで、勉強に没頭する日々を送っていた。


二人は一緒に階段を下りていった。

奈々子は思わず言った。「本当に陽明との婚約を解消するの?」


システムが提供する情報によると、斎藤夜は5歳の頃からずっと古川陽明を心の中で思い続けていたという。

奈々子は全くその生意気な男にどこがいいのか分からなかったけれど。


奈々子の問に、斎藤夜は躊躇うことなく頷いた。

彼女はもう諦めていた。


奈々子は少し考えてから言った。


「それもいいかも。夜さんはこんなに優秀なんだから、もっと幸せになれるはず。」


斎藤夜は不思議そうに奈々子をじっと見つめた。


確かに、古川陽明だけでなく、親や妹とも、彼女はもう完全に諦めていた。

家族との縁を切り、二度と関わらないつもりだった。


この人生、斎藤日奈に邪魔されずに生きていくことだけが、唯一の願いだった。


「ありがとう、私もそうするつもりです。」斎藤夜は淡々と微笑んだ。


ホールに到着すると、ちょうど斎藤家の一行が古川智子にお祝いを言う番だった。三人はどうやらもう一人の娘がいることをすっかり忘れていたようだった。


斎藤家夫婦は左右から斎藤日奈を支えていた。

「望が帰ってきてよかった。おめでとう、おめでとう。」

「智子さん、望、おめでとうございます。陽明さんから話を聞いたとき、涙が出るほど怒りましたよ。幸いにも、望が無事でよかった。」

「そういえば、日奈がプレゼントも持ってきているんですよ……」


斎藤家夫婦は必死に斎藤日奈を目立たせようとしたが、命の恩人の件で嘘をついていたため、古川家は彼らに少し不快感を抱いていた。


「夜さんは?」と古川母が尋ねた。

斎藤家の夫婦は一瞬戸惑い、斎藤夜がいないことに気づいた。


「この子、全く礼儀がなっていない。どこに行ったのかしら。」斎藤母は不快そうな顔をした。


斎藤日奈はこっそりと古川陽明を見つめていた。

古川陽明が戻ってからずっと無表情で、機嫌がよくないのが目に見えていた。


斎藤夜が無礼にも古川陽明に絡んで何か問題を起こし、だからこの場にいないと思い始めた。

その考えに少し得意げな気持ちになり、斎藤日奈は口角を上げ、心配そうなふりをして言った。


「じゃあ、私が姉を探してくるわ。きっと悲しんでいると思うから。」


そのおとなしい様子は、場にいない斎藤夜がいかにも無理に騒いでいるように見せた。


「うちの日奈は本当に優しい子だね。お姉さんのことは気にしなくていい。すぐに気を悪くするんだから、足の怪我もまだ治っていないんだし、動かないでおきなさい。」


斎藤父は斎藤日奈の頭を優しく撫でながら言った。


その次の瞬間、声が響いた。


「あら、ただ服を着替えに行っただけよ。どうしてこんなことになっているの?」


その声に、みんなが一斉に注目した。

見ると、古川家のお嫁である奈々子が斎藤夜の横に立っていた。


そして、斎藤夜は元の控えめな黒いドレスから、まるで空のような深い青のドレスに着替えており、彼女の白い肌が一層際立っていた。


斎藤夜は無表情で、先ほど自分を非難していた家族をじっと見つめた。

その場の空気が一気に気まずくなった。


古川朔がようやく口を開いた。

「お客様のドレスが濡れてしまったので、妻にお手伝いを頼んだ。」


「どうしてさっき言わなかったのかしら?」古川母が尋ねた。


古川朔は斎藤家の三人を一瞥して言った。

「言いたくても、口を挟む余地がなかったので。」

その一言で、斎藤家の三人は顔を赤くした。


結局、先ほど彼らは言葉を交わしながら、斎藤夜を一方的に非難し、他の誰にも口を挟ませる隙を与えなかったのだ。


斎藤日奈は周囲の冷やかしや探るような視線を感じ、恥ずかしくて穴があったら入りたい気分だった。

どうして古川家に来てから、すべてがこんなにうまくいかないんだろう!

すべては斎藤夜のせいだ。

斎藤日奈は不満そうに斎藤夜を睨み、言い訳をして言った。


「姉さん、着替えに行っていただけなんですね。私、姉さんが怒っているのかと思いました。」


斎藤家の両親も、これを斎藤夜に責任を押し付け、どうしてわざわざ服を着替えに行ったのかと不満を言った。


だが今回、斎藤夜は冷ややかな目で斎藤日奈をじっと見つめ、その目の中には怒りが燃え上がっているようだった。


斎藤日奈は内心でひるみ、ふと思った。

もしかして、古川陽明が斎藤夜に婚約のことを言ったから、斎藤夜は今こんなに怒っているのかもしれない。

斎藤日奈は顔を引きつらせ、隠すように斎藤夜に得意気な表情を向けた。


もし他の人の歓迎会でなければ、斎藤夜はきっともう我慢していなかっただろう。

化粧室で起きた出来事は、間違いなく斎藤日奈に関係していると斎藤夜は確信していた。

いつの間にか、また自分が斎藤日奈のせいで困らされていたのだ。


斎藤夜は怒りを抑え、何も言わずに席に着いた。

斎藤家の人々はそれを無視して、社交を続けた。

一方、ぼんやりしていた古川陽明は、斎藤夜を見た瞬間に我に返った。


古川陽明の表情は次第に変化し、頭の中は混乱していた。

ありえない、俺を救ったのは…


「ねえ、斎藤社長と奥さんの名前、何て言うの?」


古川陽明は振り返ると、奈々子が古川朔に小声で尋ねているのを見かけた。

古川朔が答えた後、古川家の全員は古川望を除いて、体を少し前に傾け、表面上はまだ他の人と挨拶を交わしているものの、目の中に隠しきれないほどの好奇心と興奮が見て取れた。

体も無意識に奈々子の方向に傾いていた。


一体何をしているんだ?

【なるほど、どうして命の恩人を間違えるのかと思ったら、あの三人が一緒に嘘をついていたんだ。】


古川家の人々もそう考えたが、これだと理屈に合わない。斎藤夜がそれを知らないわけがない。

古川陽明は顔色を変え、奈々子をこっそりと怒りの眼差しで睨んだ。



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