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出会えて、幸せだった

 少女の言葉の意味が分からず、平澤たちはお互い顔を見合わせている。

 それは俺もだ。どうして、全てが終わったとなるのか?


 「ここで起きた事は全て、全国に流されたわよ。

 あなたたちが造っていたクローン5号タイプはサイバー攻撃のプロ。私の仲間にいたの覚えている?」


 五木さん。ここに来て以来、ずっと姿を見ない。しかし、いない訳でも、逃げた訳でもない。監視カメラを制御したり、マイクのシステムを制御したりしていた。

 今もどこかに潜んで、何かをしていると考えるべきなんだろう。


 「何をしたんだ」


 田中が震える声で言う。


 「5号 いえ、五木はね。全民放TV局のサーバーにここの監視カメラの映像と音声を送り込んで、全ての放送内容をここの映像に切り替えたのよ。

 気付いて復旧させようとしても、数分で復旧できるようなものではないわ。

 まだ続いているはずよ」


 俺の視界の中で、田中が崩れ落ち、地面に手をついている。

 俺はやった!と心の中で叫んだ。

 全国民の前にさらけ出してしまえば、隠す事などできやしない。これで、俺たちを抹殺する意味も無くなったわけだ。

 優衣ちゃん。一矢報いたぜ。俺は心の中で、優衣ちゃんに言った。


 「力ってのはね。何も動物的な力だけじゃないのよ。

 頭も力なの」


 少女が田中に歩み寄りながら言った。

 地面に四つん這いの状態の田中の前まで近寄ると、少女は立ち止まった。田中は少女に気付き、顔を上げると、少女を睨み付けながら、叫んだ。


 「そんな事をして、何になる!

 この国の恥を世界にさらすだけではないか!」

 「私たちの仲間の命が救われるでしょ」


 少女が冷たく言い放った。


 「実は」


 佐川がそう言った後、少女の所に走り寄った。


 「処分するように言われていたクローンの大半は私が部下にあずからせている」


 その言葉に少女の目が輝いたように見えた。


 「本当に?」


 佐川が頷く。少女たちに続いて外に出てきていたクローン達から、歓声が沸き起こる。


 「やりましたね」


 九重さんが少女に声をかける。


 「うん。

 よかったわね」


 俺は少女の目に涙が光るのを見た。

 


 事態は国会議員である大森がいたことも手伝って、少女たちの思惑通り、事は進んだ。


 「守るものを持つ者は強い。でも、守るものを失った者は弱いのよ」


 少女は言った。

 そして、少女を含め、生き残ったクローンたちは国民としての地位を手に入れた。

 政権は一気に国民の信を失い、国際的にも国家の威信は傷つけられた。

 俺の父親をはじめクローンを人体実験に使っていた者たちは、ヒューマノイド開発の第一線から退き、後進に道を譲った。




 優衣ちゃんを失った俺の心の空白は埋まりやしない。ましてや、俺の目の前で、守る事も出来なかったんだから。

 ただ、一つだけよかったのは、優衣ちゃんは浅井家のお墓の中に入れることが許された事だった。きっと、天国で本当の両親と暮らしていることだろう。いや、もう一人の本物の浅井優衣さんとも一緒に。


 俺は夕暮れが迫る中、優衣ちゃんが眠る浅井家のお墓を目指している。

 切り開かれた山の斜面に広がる広大な墓地。

 彼岸でもなんでもない時期、人影はほとんど無い。俺はそんな中、一人花束を抱えて墓の間を縫って、進んで行く。その先に見える大きなお墓。それが浅井家の墓である。

 俺はそこに人が立っているのに気付いた。

 一人の少女と三人の男。あの子たちである。俺は思わず、近くの墓の陰に身を潜めた。


 「眠れる場所ができてよかったわね」


 少女がそう言いながら、線香を手にしている。


 「あんたには感謝しているわよ。

 私たちの未来が開けたのも、あんたがいたからだからね」


 少女がそう言って、目をつぶり手を合わせた。


 「最初はね。人間として外で暮らしているあんたに嫉妬したんだ。

 自分はこんな生活を強いられるのに、不公平だってね。

 入れ替わってやろう。

 ただ、そう考えての事だったの。

 大勢のクローンを助ける。そんなつもりもなかった。

 ファースト・クローンに自由も未来も無いクローンたちを救うのは人ならざる者を率いた私だけだって言われた時だって、うれしくなんかなかった。

 そんな言葉、重荷以外のなにものでもなかった。

 大勢のクローンの運命なんて、背負やしない。

 でも、あんなむごい仲間の姿と、自分を信じてついて来てくれるこの三人を見ていたら、やるしかない。そう思ったんだよね。あんたと入れ替わることなんかよりも。

 あの時だって、もしかしたら、あんたを死なせずにいれたかもしれない。

 今はその事が、心を突き刺すのよ。

 ごめんね」


 俺は少女の顎から、夕日に輝く涙が落ちたのを見た。

 しばらくして、少女たちがその場から立ち去ると、俺は浅井家の御墓の前に立った。少女たちが供えた花の横に、俺もそっと花を添えた。立ち上る線香のけむりがしみたのか、瞳から涙があふれてとまらない。

 「優衣ちゃん。ありがとう。

 そてし、守ってやれなくて、ごめん。

 俺は優衣ちゃんの事をずっと忘れない。

 出会えて幸せだったよ。

 天国で幸せに」


 俺はそう言って、手を合わせた。

 俺の頬を伝って、涙の粒が地面に落ちては吸い込まれて消えていく。

 儚い人の命のように。

 まず、はじめに。

 拙い素人文章にも関わらず、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 アットで未完結のままだった「予言の少女」、完結できてほっとしています。

 バッドな終わり方でいいの?と自分でも悩みながら、書いてきましたが、いかがでしたでしょうか?

 感想なんかお聞かせいただければ、うれしいです。


 どうも最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。

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