クローン!
「それは」
優衣ちゃんはそこで言葉を止めた。きっと、自分がクローンだと言う事を気にしたのではと思った俺が、元々俺の親から聞かされていた話を始める。
「優衣ちゃんのご両親は優衣ちゃんが小さい時に亡くなられていて」
「お前には聞いてないよ」
話の途中で、俺の話はパソコンの向こうの相手に遮られた。
「では、少し変えてみましょうか。
私たちはこの国の全国民の情報を管理しているサーバーに侵入し、浅井優衣と言う人物を検索したけど、あんたには行き当たらなかったのよね。
それはなぜなの?」
何なんだ?こいつら。優衣ちゃんの事を調べる理由ってなんなんだ?
そう言えば、さっきも車の中で優衣ちゃんの生徒手帳を見て、驚いていたみたいだったし。
俺はこの者たちの行動に疑問を抱いたが、その理由を聞く余裕は無かった。俺の横で、優衣ちゃんの体が小さいけど、激しく震えはじめていた。
「優衣ちゃん」
俺にできるのは気持ちを込めて、その名を呼ぶだけだ。抱きしめてあげたい。なのに、手足は縛られていて、立っているのがやっとの状態の俺は何もできない。俺は優衣ちゃんをかばうため、大声で叫んだ。
「そんな事、俺たちが知る訳ないだろう。
お前たちの能力が足りなかっただけじゃないのか?」
「その子、震えているのね。
それにその男の子の反応を見ていたら、本当の理由を知っていそうね」
パソコンの向こうの相手はそこまで言うと、一度言葉を止めた後、ゆっくりと囁くような口調で言った。
「ク・ロ・ー・ン。
なんでしょ。あんた」
予想外の言葉に俺の目が見開いた。
横で優衣ちゃんは顔を両手で覆って、泣き崩れた。
「何を言っているんだ。
そんな訳ないだろ?
だいたいお前たちは何者なんだ!」
「隠したって無駄よ。その子の反応がクローンだって事を認めてるじゃない。
私たちも、そう。クローンなのよ」
俺の目がまたまた見開く。
こいつらはあの研究所を占拠していたクローンたちの仲間だったのである。だとしたら、クローンたちを使った人体実験の話など決して知られてはならない。いや、もう知っているのかもしれない。知っていて、復讐で俺の父親を狙おうとしているかもしれない。
「お前たちの目的は何だ」
俺が大声で叫ぶ。
「あら、あんた、頭弱いの?
最初に言ったわよね。
あの研究所は何をする施設だったのかと、あそこから出て行った私たちの仲間がどこに行ったのかを知りたいと」
「そんな事を知ってどうする気だ!」
「この国の政府はね。私たちを国民にすると言っておきながら、国民登録の申請を行った仲間たちを拉致しているのよ」
「拉致?」
「そうよ。
奴ら、つまりこの国は私たちを裏切っているのよ。
私たちは消えた仲間を取り戻したいの」
俺の頭の中はその言葉に混乱した。
優衣ちゃんだって、申請しているのだ。そして、それには俺たち二人の未来がかかっていると、俺は思っていた。俺の父親だって、そんな事は知らないはずだ。だからこそ、優衣ちゃんに自分がクローンだと言うつらい事実を明かしてまで、国民への登録を勧めたはずである。
「嘘だ。
そんなはずはない」
「あら、どうしてそこまで言い切るのかしら?
じゃあ、あなたに聞くけど、その子はもう国民登録を済ませたのかしら?」
「申請は終わった」
「申請したクローンの下に、政府から確認の訪問があるんだけど、あなた知ってる?
その子はもう終わったのかしら?」
「まだだ。
明日って、聞いている」
「九重さん」
「はい」
パソコンの向こうの相手の呼びかけに、リーダーの男が答えた。どうやら、この男は九重と言うらしい。
「作戦変更しましょうか。
その子を使って、政府側の動きをつかみませんか?」
「承知しました。
しかし、この二人が協力するかどうか」
「大丈夫よ。
協力してくれるわよね?
だって、この子たちにとっても、国民への登録が行われないと困る事になるんだもん」
俺は癪だけど、このパソコンの向こうの声が言うとおり、優衣ちゃんと一緒にこのクローンたちの作戦に協力することになった。
理由は簡単である。
優衣ちゃんは国民への登録申請をしている。その所在確認としての訪問は登録の処理として必須であり、優衣ちゃんはそこにいなければならない。そこを何者かが狙ってくるとすれば、優衣ちゃんを守らなければならない。が、残念だが、俺だけでその狙ってきた者たちから、優衣ちゃんを守る事はできそうにない。なら、このクローンたちと組むしかない。
そう言う事だ。




