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何なんだ?その質問は。

 リーダーの男が電話を終え、再び車が動き出した。

 車はこの街の一番南にある博道路を東に向かっていた。辺りはマンションや小さな戸建住宅が密集した住宅地である。その道を20分ほど走った頃、車はさらに南に向けてハンドルを切った。この先は工場が並び建つ広大な埋め立て地である。車はその埋め立て地につながる橋の上を渡り、埋立地に入って行った。埋め立て地の中に入ると車は埋め立て地の外れに向かい、そこに建つぼろぼろな工場の敷地の中に止まった。


 車が停車したのは荒れ果てた駐車場跡の空き地と言った感じである。その前に建つ工場は外壁のALCの塗装が汚れにまみれていて、ガラス窓の一部は割れている。いかにも、何年も放置されていた。そんな感じであって、人が活動している気配は全くない。

 停車した車からまず運転手が降りて、建物の錆びついた取っ手に手をかけ、ドアを開ける。鉄の軋む音が、敷地の中の静けさを打ち破る。

 後部座席の男が車のドアを開け、優衣ちゃんを引きずり出す。


 「真一さん」


 優衣ちゃんが、俺の方に顔を向けて言う。

 情けないが、俺は何もできない。

 俺にもう少し力があれば。

 俺は自分の非力さを呪いながら、視線で優衣ちゃんを追っていると、俺も車から引きずり出された。

 手足を縛られている俺は、リーダーの男に抱えられ、工場の中に連れて行かれた。

 建物の中は大きな空間が広がっているだけで、何の設備らしい設備も置かれていない。元々倉庫だったのか、設備は持ち出されてしまった後なのか分からないが、片隅に置かれた机以外には目立ったものは無く、その机の上には、ここには不似合いなほど真新しそうなパソコンが置かれていた。


 「あの方につないでくれ」


 リーダーの男が言うと、車を運転していた男が机の前に向かい、パソコンを軽やかに操作し始めた。


 「つながりました」


 そのパソコン上のウインドウの一つにはどこかの部屋の風景が映し出されていた。

 リーダーの男がパソコンを置いた机に優衣ちゃんと俺を連れて行った。


 「浅井優衣」


 パソコンから声が聞こえてきた。ネットでつながった向こうの人物の声だ。少し細工しているのか、人の声にしては不自然な声である。


 「あなたたちに聞きたいことがあるのよ」


 女?

 修正を加えられた声からは判断できなかったが、話し方から言って、どうやらパソコンの向こうにいるのは女性のようである。


 「私たちは奈良岡が所長をしている浅井新薬研究所の事について知りたいの。

 あなたたちは何か知っている?」


 優衣ちゃんが俺をちらりと見た。


 「何が知りたいのか、分からない。

 それに、俺たちはあそこの事なんか知る訳がない」

 「そう。

 あそこはね。

 暴徒たちが占拠したと言う研究所と地下でつながっていたらしいのよ。

 そして、本当に占拠していた者達は、その地下通路を通って、外に出たらしいのよね。

 私たちが知りたいのは、あの研究所は何をする施設だったのかと、占拠していた者達がどこに行ったのかを知りたいんだけど」


 俺と優衣ちゃんは顔を見合わせた。

 どこに行ったのかは本当に知らない事である。だが、地下通路の存在、そしてそこを通って暴徒たちが脱出したと言うのは事実であり、それを知っている相手は何者なのか?

 ただの乱暴な者たちではなさそうに俺は感じた。

 あと気になるのは、その占拠していた者たちがクローンだと知っているのかどうか。

 俺はそれを気にしつつ、パソコンの向こうの相手の問いに答えずにいた。

 そんな俺たちの気配を察したのか、パソコンの向こうの相手が突き放すように言った。


 「話す気が無いのか、本当に知らないのかは分からないけど、あなたたちに教えてもらおうと思って連れてきた訳じゃないんだからね。

 この話は、あなたたちを人質にして、奈良岡から直接教えてもらうから。

 じゃあさ、別の質問ね。

 浅井優衣。

 あんたさあ、なんで、奈良岡の家にいるの?」


 何なんだ?その質問。

 突然、どうしてそんな質問になるのかも、質問の意図も分からなかったが、ただその言葉には何か不快感のようなものが含まれているのを俺は感じた。

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