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人違いでさらわれた?

 男たちは俺をワンボックスカーの後席に押し込めると、暴れないように手足を縛り、車を発進させた。車の中は最前列に運転手の男が一人、真ん中の席には気を失っているのか、目をつぶったままぐったりとした優衣ちゃんを挟み込むように男が二人。


 「優衣ちゃんに何をした」


 俺が叫ぶように言った言葉に、男たちが驚いた表情で振り返って、俺を見た。


 「ゆいちゃん?

 この子はお前の妹、真奈美ではないのか?」


 俺はその言葉で理解した。

 この男たちの狙いは俺たち兄妹だったのだ。たまたまスキー合宿に行っていていない真奈美と優衣ちゃんを間違ったんだろう。

 だとしたら、優衣ちゃんを助ける手立てはある。俺はこのまま捕まっていてもいい。優衣ちゃんだけは助けたい。


 「そうだ。

 その子は俺の妹ではない。

 お前たちの狙いは俺たち兄妹なのか?

 だったら、その子は関係ない。

 すぐに離してやってくれ」


 俺の言葉に男たちが顔を見合せている。その表情から、まだ完全に信じきっているようではないと感じた俺が、言葉を足した。


 「俺の妹はスキー合宿に行っていて、ここ何日か、家には帰って来てないんだよ」


 俺の言葉に優衣ちゃんの右横にいた男が慌てた表情で、優衣ちゃんの体に視線を向けた。その視線が上から下に下りている。

 男は突然、優衣ちゃんの胸に手を伸ばしはじめた。


 「何をする!

 俺の優衣ちゃんに触るな!」


 男は俺の言葉など無視したまま、優衣ちゃんのふっくらとした胸に手を伸ばした。


 「止めろ!」


 俺の大きな叫び声で優衣ちゃんが目を覚ました時、男は優衣ちゃんの胸ポケットに手を突っ込んでいた。


 「きゃー」


 うるさいエンジン音もざわついたロードノイズもかき消すほどの甲高い優衣ちゃんの悲鳴が車の中に轟く。優衣ちゃんが両手を男の胸に当て、懸命に男を押しのける。


 「優衣ちゃん」


 俺の声に気付いた優衣ちゃんが振り返り、俺がいる事に一瞬驚きの表情を浮かべた後、少し落ち着いた表情になって、俺の名を呼んだ。


 「真一さん」

 「ごめん。

 優衣ちゃん。

 真奈美と間違えられてさらわれたみたいなんだ。

 人違いだから、すぐに帰してもらえるはずだ。

 人質は俺だけで十分なはずだから」

 「真奈美ちゃんと」


 優衣ちゃんがそう言って、事体を飲み込もうとしている時、優衣ちゃんの胸ポケットに手を突っ込んだ男は、優衣ちゃんから奪った生徒手帳を見ながら、驚きの表情を浮かべていた。運転席の男も気になるのか、ルームミラーをちらちらと見ては、後席の状態を確認している。


 「どうしたんですか?」


 優衣ちゃんの左横の男がそう言うと、右横の男は手にしていた生徒手帳を見ていたページを開いたまま左横の男に渡した。

 生徒手帳を受け取った男も驚きの表情を浮かべ、つぶやいた。


 「浅井優衣。

 しかも、この写真は」


 その二人の反応は、俺や優衣ちゃんには理解できず、一体何がどうしたと言うのかと言う感じで、二人を見つめていた。

 すると右横の男が、マスクで覆われた優衣ちゃんの顔に手を伸ばしはじめた。


 「きゃっ」


 優衣ちゃんが小さな悲鳴を上げ、両腕で顔をガードする。


 「止めろ!」


 俺も怒鳴ったが、男はお構いなしに優衣ちゃんがしていたマスクをはぎ取った。優衣ちゃんの両横の男たちが、優衣ちゃんの顔を覗き込む。その二人の顔には驚きの表情が浮かんでいる。運転席の男もルームミラーでその様子を見て、やはり驚きの表情になっていた。


 「そう言う事だったのか」


 男の一人がそう呟いた。


 「何がそうだったんだよ!

 優衣ちゃんは妹じゃないんだから、もういいだろう。

 さっさと解放してやってくれよ」

 「悪いな。

 元々帰すわけにはいかなかったが、そらにそうはいかなくなった」


 俺の言葉に固い表情で、優衣ちゃんの右横の男が言った。

 右横の男が運転している男に、車を止めるように言った。

 どうやら、この男がこの男たちのリーダーのようである。

 車を路肩に駐車すると、そのリーダーらしき男は車を降りて、どこかに電話をかけ始めた。

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