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インドア聖女は早くおうちに帰りたい  作者: 和原茉白


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第70話 最強コンビのもう片っぽ


 クリーク……じゃなくてティロンエールと合わせて食べるなら何がいいか。

 りののイチオシは、やっぱりチーズと生ハムだ。チーズはできれば青カビのチーズがいい。独特の匂いときりっとした塩み、そしてなにより、あのとろりと舌から逸れて広がっていくなめらかさは、なんとも言えず幸せだ。最近は値段が高くなってしまって、とんとご無沙汰だけど。

 もちろんこちらの世界には、生ハムもブルーチーズもない。クリームチーズやモッツアレラっぽいのはあるけど、あんまり合わせたい気分じゃない。


「ん、アーディルンは決定。炒ってきつめに塩をしよう」


 レノアにお願いして、アーモンドっぽいアーディルンをローストしてもらう。めんどくさいのでフライパンで。


「あとは、フルーツかな」


 冷蔵庫を見ると、アゼリアやアドルジュ、ランギスといったこちらならではのフルーツに加え、先日カーティスが持ってきてくれた桃とりんごがあった。

 甘さの感じでいうと、ランギスとりんごがいいかな。桃も試してみようか。

 りのはそれらを「水球」に放り込んで洗い、水気を切る。あとでレノアに切ってもらおう。切る作業でいえば、りのよりレノアの方がずっと上手なのだ。

 ついでに、グリーンサラダに使えそうな野菜も出して洗っておいた。


「そして、メインを何にするかだよねえ。ド定番ならフライドポテトとかムール貝とかなんだろうけど、どっちもないしなあ……」


 先日じゃがいもっぽいものを手に入れたが、安全確認がまだできていないので使わない。

 今手元にあってメインになりそうなのは、卵とコカトリス、クイーンオークとデミバハムート。つまり、卵と鶏肉と豚肉、それにうなぎのようなふしぎな白身魚だ。


 先日、食料品店のウェス・ガディアから買ったクイーンオークはものすごく上質な豚肉でおいしかったが、デミバハムートの方はちょっともてあましていた。なにせ、端っこを切って焼いてみたら、うま味の濃いうなぎのような魚肉のような何かだったので、料理の幅がなかったのだ。


(だって! しょうゆが! おおっぴらに使えないから!)


 照り焼きかば焼き、何なら生姜を利かせた煮つけもしてみたいけど、ここではできないので。

 塩を振って焼いたり、スープに入れてみたりして、久々のお魚っぽいなにかはおいしかったが、どうしたってかば焼きが恋しくなるので、ちょっと避け気味になっていた。

 ちなみに、この肉類は、冷蔵庫でぎっちり冷やした後、最近ユーゴが調達してくれたミニサイズのマジックバッグへ収納しているので、悪くならないようになっている。



「……あ、そうだ」



 ビールなら、最強コンビはアレだろう。

 ちょっとビールの種類が違う気もするが、いったん思いつくとすっかり口がその気になった。


「コカトリスと、デミバハムート。アスパラっぽいナリシスも。あと、マッシュルームあったよね。うあ~~、やっぱりじゃがいもほしい~~! でもしかたな~~い!!」


 飲み会の定番、ビールに合うご飯といえば、そう!


 からあげだ!!







 そして、その日の夜、テーブルを囲んだ五人の前には、りのがどうしても食べたかった料理が並んでいた。

 キッチンで揚げているときからしていた、食欲にぶっささるいい香り。

 その大もとが、テーブルの真ん中にどんと置いてある。こちらでは大皿料理というのを見たことがなかったが、レノアに聞くと庶民は大皿に盛ってとりわけることも多いですと聞いたので、気にせず大皿にどかんと盛った。

 他にも、フルーツの盛り合わせやアーディルンの小皿、グリーンサラダやパンの皿もあるし、それぞれの目の前には角に切られた野菜が入ったスープも置いてあるが、やはり真ん中の大皿が圧巻だった。


「リン、これは……」

「えっとね、私の国で大人気だったエールのおつまみ。から揚げっていうの」

「からあげ」

「これがコカトリスのお肉、こっちはデミバハムート。この辺がマッシュルームで、こっちがナリシスね。お皿にとって、好みでレモンを絞ってみて。味はついてるけど、足りなかったらこっちのお塩をちょっとつけて食べてみて」


 片栗粉やコーンスターチがなく、小麦粉だけの衣だから、揚げたてが一番さくさくしているはずだ。

 熱いうちに急げ急げ!


 りのは、自分とロゼリアのグラスに程よく冷えたティロンエールを、レノアとイリット、メリルの前にはティロンエールをクローブやシナモンと一緒に温めてアルコールを飛ばし、そこに蜂蜜を加えたホットエールを置いた。


「一応、酔っぱらうもとになってるのは飛ばしてあるけど、気をつけて飲んでね」


 特にレノアの様子は気をつけておかねば、と思いながら、さあ召し上がれ、と促す。

 皆はそれぞれに神への感謝をささげ、グラスを手にとった。りのも頂きます、と小さくつぶやいて、グラスを取り上げ、ぐいーっとエールを飲んだ。


「~~~~ぷはーっ、おっいしー!」

「おいしいですね!」

「これ、お酒って感じがしなくて、私でも飲めます!」

「リノアさま、あまくておいしいです!」

「はじめて、こんなエールを頂きました……」


 さすがのメリルも、初めての味にびっくりして、いつものグルメコメントがなりをひそめている。


 さあさあ熱いうちに食べましょう、と皆を促して、りのはコカトリスと、デミバハムートを取り皿にとった。そして、くし形に切られたレモンをひとつとって、ぎゅっと絞る。


 コカトリスのからあげを口の中に放り込む。カリッとした衣を歯で破ると、じゅっと、口の中を火傷しそうな油が衣とお肉からあふれてきた。その後で来る、レモンとニンニクと塩と、暴力的なコカトリスのうま味!


「はふ、」


 口の中に入れておくのも難しいような熱さに耐えながらもぐもぐかみしめて飲み込んで、すかさずそこにティロンエールを流し込む。


「ふわぁ……」


 口の中の熱と油をさらりと流す冷えたエール。甘酸っぱさが口をリセットし、飲み込んだら複雑な酸味とさくらんぼの香りが肉の名残をきれいに消してくれた。

 ――そのとたん、肉が、油が恋しくなる。

 次はデミバハムートを取り上げた。こちらもカリッとした食感のあとに、ほろっと歯でほぐれていく柔らかな白身の魚の味わいがゆったりと口にひろがった。


(おいしいんだけど、やっぱりフィッシュアンドチップス風にモルトビネガーとタルタルがほしいなあ……)


 エールで口をリセットしながらちょっとそう思ったが、デミバハムートというふしぎなお肉のうまみはやはり抜群だ。このままでも十分イケはする。贅沢は言うまい、でもそろそろマヨネーズについては考えよう、とりのはひっそりと決めた。


 次はマッシュルームをとりながら、食卓を見回す。



「Оh……」



 ロゼリアは、上品ながらすごいスピードでコカトリスのからあげとエールを交互に口に入れている。鮮やかな孔雀石色の目がさらにきらきらになっていた。幸せそうだ。


 一方、日ごろにこにこしているイリットは真顔だった。すごい真顔。真顔でコカトリスのからあげにたっぷりとレモンを絞って、ていねいに咀嚼している。スピードはそれほどでもないが、じっくりと味わっている。真顔で。


 レノアは、デミバハムートとコカトリスを交互に口に運んでは、衣やお肉の食感の違いを確かめているようだった。味と作り方を何度も反芻しているのだろう、宙に細めた目を固定している。ちょっと怖い。


 そしてメリルは。


「リノア様、これは画期的なお料理です……! 外側はカリッとしているのに中身はふわふわで柔らかいのです。食感だけでもこれだけの対比があるというのに、味わいも大変深く、コカトリスやデミバハムートのうま味が一切逃げることなくこの小さな茶色の衣服に包まれて眠っているようです。それが歯を立てると同時に目覚め、口の中を走り回るこの快感……! そこへにんにくの強烈な香りと慣れ親しんだ塩の味が混ざり合い、知っているのに初めて会ったような、新鮮な味わいとなって舌を覆うのです……! そして最後にさわやかな生姜の辛みと風味がふわりと消えていく……! そこへこのホットエールを入れることで」


 驚きと感動が一気に言葉になって溢れてきていた。

 りのは笑顔でうんうんと頷きながら、自分とロゼリアのグラスにエールを足し、イリットとメリルにはホットエールを足し、レノアのグラスにはレモン水を足す。慣れたものである。

 その合間にほぼアスパラなナリシスという野菜とマッシュルームのフライをつまみながら一度胃を休ませた。体は若くなったが、四十代の気持ちが抜けないのか、から揚げの連続摂取はなんとなく気が引けるのだ。

 その間も四人はそれぞれが自由にエールとから揚げを楽しみながら、好きなことを話している。主に今まで食べたおいしいものの話。あれ、みんなちょっと酔っぱらってる?



(うーん混沌! でも女同士の飲み会ってこんな感じよね。これに恋バナが入れば完全再現だわ)



 ほらサラダも食べて、パンにからあげを挟んで食べてもおいしいのよ、レノア、フルーツも食べてね、エールじゃなくてレモン水飲んで、とこまごま声をかけながらゆっくりと久々のから揚げを楽しんだ。





 その日、フィンレー国王からもらった樽の中身は駆逐された。


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