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インドア聖女は早くおうちに帰りたい  作者: 和原茉白


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第67話 ガズメンディ公爵領とポタ芋

 

 向こうの世界へ残してきた家族を思うと胸がつまった。

 その痛みを振りはらうために、りのは会話に集中する。

 そして、先ほどの講義の時のことを思いだした。


「……あれ、メディル伯爵家って、北の方の領地だったっけ? たしか薬草の研究をしているとか」

「そうですね」


 ロゼリアは、こくりとトルカリアティーを一口含んで、それを飲み込んで。


「薬のメディル、治癒のロアーダ、と私たちはよく言うのですが、メディル家は領地を上げて薬草の研究をしています。質の良いポーションをたくさん作ったり、ポーションの改良をしたりするのが主な産業ですね。よく効くので重宝しています」

「そういう特色のある領地はいいよねえ。――――あ、そういえば」


 つらつらとおしゃべりしながら、りのははっと思いだした。


「なんかヤン先生、変に詰まってたよね、北側の領の話してたとき。あれ、なんだったんだろう」


 いつも饒舌なヤン翁が妙にひっかかっていたから、よく覚えている。


「北の国で作っている農作物の話だったかなぁ、何か育ててないんですかって聞いたら、うーん……ってためらってた感じだった」

「ああ……それは、少し心当たりがあります」


 ロゼリアが呟くように言って、少し首をかしげた。


「リン、でも、あなたにとっては不愉快な話になるかもしれません。ガズメンディ公爵閣下の話になりますので」


 ガズメンディ公爵。

 謁見の時、りのを自領へ連れて行こうと強硬に主張した男だ。

 たしか、薄い水色の髪にヘーゼルの目をした、かなり年をとった感じの。

 そういえば、ガズメンディにしろダルクスにしろ、どんな人間かについて聞いたことは全くなかったな、と思う。


「わかった。それでもいいから、聞かせてくれる?」



 ガズメンディ家は、ウェルゲアの北東の角に広大な領地をもつ公爵家。

 代々、広大な土地でポタ芋という芋を作る豊かな領だったそうだ。

 寒いところでもよく育つ作物だったため、ガズメンディ家は同じく北の領地を治める領主たちに、ポタ芋の種イモを渡し作り方を指南した。

 それによって、このウェルゲアの北の地方全体が豊かに過ごすことができるようになった。


 しかし、先々代のころ、恐ろしいほどの不作が突如、ポタ芋を襲った。

 緑の葉は白くなり、実が次々に腐っていった。

 北部地方は壊滅的な被害を負い、国からの支援でなんとか冬を越したが、そこからポタ芋の不作は続いたという。

 寒い地方で作って育つ他の作物も見つからず、なんとか自分たちの食べる分だけを作っている状況なのだそうだ。

 当然、領の運営も民の暮らしも貧しくなった


「……状況はわかったけど、それでなんでガズメンディ公爵は聖女を領地に連れて行こうとするの?」

「ポタ芋は、以前この国にお招きした聖女様によって見出された作物だといわれています」

「そうなんだ?」

「小麦がなかなか育たない大地に新たな作物をもたらし、北の民を飢えから救った、と」

「へえ~」

「聖女様のもたらされた作物ですから、聖女様のお力を借りて、不作から抜け出したいと考えている可能性はあると思います」

「は?!」


 何その理屈、とりのは愕然とした。

 聖女のくれたものだから、聖女なら何とかしてくれるだろうってこと?

 あまりにも安易では? 別人なんだが?

 というか、なんで不作になったのかとか、どんな病気にかかったのかとか、調べてないの?


「聖女を頼る前に、するべきことがあるのでは……?」


 思わず呟いたりのに、ロゼリアが苦笑した。



「聖女様のもたらしたものに手を出すと天より罰が落ちる、と言われていますから、恐ろしかったのではないでしょうか」




 な ん で す と ー !?




 りのの頬がひきつった。



「ロゼ、それどういうこと? 手を出す?」

「はい、迷信のようなものではありますが、聖女様のお力でできたものを壊したり、なくそうとしたりすると、その家や人に不幸があったということが何度もあったみたいなんです。それが、聖女様のもたらしたものに手を出してはならない、という話になったのかもしれません」



 わりと衝撃だった。

 「壊したりなくそうとしたりした」ことも、それによって不幸があったということも、事実なのだろうか。どういう経緯だったのだろう。

 聞いてはみたが、ロゼリアも詳しいことは知らないという。


(学校の怪談とかと似てる……もともとの事例が、尾ひれ背びれがついてすごい不幸が起こるように言われちゃう、みたいな)


 しかし、とりのは考えた。

 いろいろ中途半端な研究や発展は、この辺にも理由があるのかもしれない。


(やっぱり聖女の資料にあたることは必須だわ……聖女が作ったもの、それがどんなふうに広まったか、そしてどんなことがあって発展が止まったか。っていうか、プリンの件はこのタイミングでやっててよかったのかもしれない)


 まあそれはともかく。


「……ということは、ガズメンディ公爵としては、魔獣を退治させたいとかっていうよりは、ポタ芋の不作を何とかしてもらうために領地に来てほしい、ってことだったのかしら」

「可能性はあると思います。ですからあの時、シャルニエ前伯爵殿も迷われたのかと。魔獣を退治するには危険が伴いますが、領への訪問となると、その領が安全などのすべての責任を負いますので、下手なことはしないと思われたのではないでしょうか」

「ああ、ちょうど作物の話してたもんね、一つの可能性として、私に伝えたかったのかな」


うーん、と頭をひねる。


(あー、その辺のことも含めて、「聖女の残した資料がある」だったわけね、ヤン先生! 怖すぎん!? なんでそんな話をちりばめて誘導できるの!? 偶然でも怖いし意図的ならもっと怖いよ!)


 それでも、これらの情報は非常に、ものすごく有用である。なんか悔しい。


「怖い人だな、ヤン先生」

「ほんとに」


 ロゼリアと二人で、頷き合った。


 それにしても、これはダルクス侯爵とは別の方向でややこしい。ダルクス侯爵は、はっきりと魔獣退治をさせると公言していた。てっきり同じような考えの派閥が二つあるのだろうと考えていたが、実際は大分違うのかもしれない。


「ポタ芋って、ロゼは食べたことある?」

「それがないんですよね……。私の祖父母の代までは時々食べられていたらしいのですが、それ以降は南部には出回らなくなりましたので。今では、北部の一部でしか作られていないと聞いています」

「そっかあ」


 不作の原因はいろいろ考えられる。

 単純に天候不順。あるいは病気、疫病。虫害ということもあるだろう。


(ポタ芋とやらの種類によっては、連作障害も考えられるしなぁ)


「……ガズメンディ領へ行きますか?」

「行かないよ?」


 恐る恐る聞いてくるロゼリアに速攻で返す。


「そんな義理もないし、そもそも直で接触したわけじゃないし。でも、そのポタ芋は気になるかな。前の聖女さまが推してたんなら、もしかして、すごくおいしいお芋なのかもしれないよね?」

「!?」


ロゼリアの愕然とした顔が面白くて、笑いをかみ殺した。


(サツマイモ、里芋、山芋、どれが来てもおいしいけど、可能性が高いのはやっぱりじゃがいもだと思うんだよねえ)


「うん、今度ウェスさんに会ったときに聞いてみて、手に入るようだったら食べてみようね、ロゼ」

「はい!」


食いしん坊ロゼの満面の笑みがかわいかった。

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