第345話 あったか毛布
ええと、とりのは説明を始めた。
「羽毛……鳥の体表近くに生えているふわふわした羽根のことですけど、これをきれいにして、毛布につめています。鳥のふわふわした羽根は大体、保温と防水の効果が高いので、それを利用した形です」
ラウの次はゼノンがぐるんと体に巻いて、うっとりしている。
その毛布の隅っこを引っ張りながら、ラウが作りを確認していた。
「毛布を二枚合わせて、その間に羽毛を詰めているんですよね? この四角に分かれているのは?」
「そうしないと、中で羽毛が偏っちゃうんです。区画ごとにわけて偏りがひどくならないようにしています」
全員分作って持ってきましたので、試してみてください、とりのは残りの羽毛布団……羽毛毛布? をひとりひとりに手渡した。
「この毛布の代わりに他の素材を使ってもいいかなと思ったんですが、ひとまずは冒険者用にこの毛布で作りました。この半分の厚さの毛布があれば、今までの毛布と同じ重さであったかくなります。あと、簡単につぶせるので、それほど場所もとらないかなと思います」
説明を聞きながら、みんなは自分の体に羽毛毛布をまきつけている。
立派なミノムシが四人できあがった。ロゼリアまで……。
「あったけえな……」
「あたたかいですね」
「夜営中にぐっすり眠るのは怖くありますが」
「いいですねえこれ、魔術師団での野外訓練でもほしいなあ!」
ゼノンの一言を皮切りに、近衛の夜勤でもとか、第三でもとかいろいろ要望が出始めた。
ぱんぱん、とりのは手を叩く。
「そのためにも、使い心地の確認をお願いします。耐久性とかも気になりますし」
「任せろ」
「しっかり確認させていただきましょう」
腰に巻くだけでも温かいですねえ、とラウがどこか幸せそうに言うと、アダンが小さく笑った。
「あんたは寒がりだからなあ……よくラウルーヘンで暮らせていたものだと思うぜ」
「?」
きょとんとするりのに、ゼノンが、ラウルーヘンの冬はとても寒くて、雪がものすっごく積もるんですよ、と教えてくれた。春から秋にかけては気候が穏やかで美しいが、冬は過酷なんだそうだ。
「私は寒いのが嫌で故郷を出ましたからねえ」
ラウは再びミノムシになって笑う。
うんうん、あったかいんだよねえ、羽毛って。喜んでもらえたならよかった。
りのも寒いのは嫌いだ。冬の散歩は好きだけど、それもあったかい家に帰れるとわかっているからこそである。
「リン、これを作るのは大変ですか?」
どうでしょう、とりのはちょっと困ってしまった。
「さっき話してた『クリーン』を使って、羽毛の処理をしたんです。魔法なしでやるとどうなんだろうなあ……?」
「具体的にはどんな作業なんだ?」
「羽毛をきれいにする作業だよ。汚れやごみ、ほこりを取り除いて、ふわっふわにするの。ああそれに、ついている小さな虫を残さず駆除します、ええ徹底的に殺ります!」
「お、おう……」
ごほんごほん。
「その次に、毛布を二枚合わせて、一段ずつ口を開けたブロックに縫い分けて、そこにきれいにした羽毛をつめて閉じるの。それの繰り返し。この作業は、私のメイドさんたちにやってもらったんだ」
「王宮メイドさんは裁縫も必須項目ですからねえ。魔術師団のメイドたちも上手ですよ、怖いですけど」
それはゼノン君たちが実験と称して魔術をうちまくり、ローブをぼろぼろにして帰ってくるからでは?
「街の主婦たちの内職でもできそうですね……リン、この技術はどうする予定ですか?」
りのは姿勢を正した。この件に関しては、あらかじめ話を詰めてきている。
「私とカノンちゃん、連名で特許申請をする予定にしています」
「おや」
ちょっと意外そうにラウが片方の眉をひょいと上げた。
「実は、この毛布、私はアイディア……考えを出して羽毛に『クリーン』をかけただけで、実際の作り方は主にカノンちゃんが考えてくれたんです」
「縫い方とかですか?」
「ですです。私、袋状にして羽毛を詰めてから縫えばいいかって適当に考えてたんですけど、それだとうまくいかないと思いますってカノンちゃんに言われまして……」
たまたま王宮内のりのの部屋に遊びに来ていたカノンが、適当すぎるりのの考えに苦笑しつつ、縫い方のアイディアを出してくれたのだ。
カノンの母親がハワイアンキルトを趣味にしていて、その時の綿がシート状になっていたことを思いだし、羽毛の状態だとうまくいかなさそうだと思ったらしい。
それをもとにイリットとメリルが縫ってくれたのだ。
みんなから軽くて暖かいと大絶賛されたのを見て、カノンが、
「リンさん、これ、『俺何かやっちゃいました?』案件なのでは……?」
それで、どういう形で発表するか、話し合ってきたのである。
「私はカノンちゃんの名前で出したらって言ったんですけど、思いついたのはリンさんでしょって言われまして。そしたら、カノンちゃんがいっそ連名で特許申請して、私たちが仲良しだってみんなに知らせましょうよって。主導は王家に任せていいかなって思ってます。お披露目と合わせて出してもらえたらちょうどいいでしょうし」
王家の力を見せるのにはいいだろう。
「なるほど。冒険者ギルドには材料の確保依頼が殺到しそうですね。――まああなたからの手紙で、こうなるだろうと内々でいろいろ進めていますが」
にやりと笑うラウが頼もしくて面白い。
そうしてくれるだろうと思ったから、先に情報を渡しておいたところもあるのだ。
「商業ギルドと繋がりをもつかどうかは、王家との契約の様子を見てからでもいいかもしれませんね」
「ですね」
こちらもにやりと笑っておく。
ゼノンが、これがあるとダンジョン研究がはかどりますねえ! と嬉しそうだ。
「というか、お前一人でサーギマに潜ってたろう? 眠る暇とかあったのか?」
「アダン副団長こそですよ、よく一人でレトーだのデネブトエだの、はてはラルグだの行けましたね」
二人が顔を見合わせて不思議な顔をしている。
「あの、一人だと眠れないんですか? どのダンジョンにもセーフエリア、あるんですよね?」
ラウに聞くと、ラウは肩をすくめた。
「セーフエリアで怖いのは、魔獣ではなく人間ですからね」
まあ他国に出れば人間以外の種族にもヤバいのはいますが、とあっさり言う。
セーフエリアでの強盗や暴行はけっこうあるらしい。
はあ、以外の言葉が出てこずに、微妙な顔をしていると、ゼノンが、
「おれは特別製の『防壁』の魔道具を持っていってましたし、常時『隠ぺい』使ってたんで」
あー……と一同の口からため息が漏れた。
この美形っぷりだ、血の気の多い冒険者たちの中にいたらさぞかし目だっただろうし狙われただろう。
「俺も似たようなもんだな。魔術で何とかしてたし、まあセーフエリアに入って、ヤバそうな奴らは先に脅しておけば何とかなる」
「あー、わかりますわかります。絡んできたのを適当にシメて吊るしとけば朝までは何とかなりますよねえ」
そんなの、あっけらかんと言うことなのだろうか。
ちらりとロゼリアを見ると、ロゼリアも渋い顔をしている。
「今夜はどうしましょうね。寝てしまっても問題はありませんけど、一応見張りをたてますか?」
ラウが聞くと、アダンが新人研修は見張りの経験が必須だったろう、勝手に省略すんなとラウを横目でにらんだ。
「あんまり意味はないと思うんですけどね……まあいいでしょう。じゃあ朝まで、時告げ紐二本分ずつ見張りをしましょうか。私は起きてて問題ありませんので、四人で時間を割り振ってください」
「え、ラウさん、寝なくても大丈夫なんですか?」
「ああ、リンはエルフ族に詳しくありませんでしたね。私たちは活動時間も長いんですよ。一度眠れば、三日ほどは眠らずに動けます」
な、な、なにその社畜仕様……!
「言ったでしょうリン、エルフは基本、なんでも長いんですよ」
暖かい毛布もありますから、苦ではありませんしね。
美しい金髪をかき上げながら、ラウは美しく微笑んだ。
今日はここまで。お読みくださりありがとうございました。
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