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インドア聖女は早くおうちに帰りたい  作者: 和原茉白


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第337話 初討伐


 ダンジョンの中は、まさしく洞窟だった。

 じめじめしていて、岩や石がごろごろしていて、カビっぽい匂いがする。

 うすぼんやりとした灯りが灯っているのは、冒険者ギルドが灯りの魔道具を設置しているからだそうだ。


「ダンジョン内に発生している薄い魔力を動力にしていますので、壊れるまでは動き続けます」

「便利ですねえ……」


 辺りを見回しながら歩く。

 そうしながら、ラウのダンジョン講習が始まった。


「リン、魔力感知は使えますね?」

「あ、はい。ええと、敵の位置はわかります」


 念のために「サーチ」をかけているので、だいたいの位置と魔力の強さはわかる。


(これ、敵の種類とかまでマップに出てくるようになればいいのになあ。まあこの先の成長に期待だね)


「では、魔獣が出てきたら前衛に伝えましょう。伝え方は場に合わせる必要がありますが、ここでは声に出していいですよ」

「わかりました。ええと、前方十メートル左(いち)、そのさらに十五メートル前方右に(いち)

「了解」


 しゅんとロゼリアがレイピアを振ると、風の斬撃が飛んでいって、ぺきっと小さな音がした。


「左(いち)ロスト」

「次右いきます」

「――おっけー右(いち)ロスト。現在地から三十メートルほど前方、中央に(いち)。少し大きめかも」

「了解」


 さっくさくだ。

 この辺は第三騎士団で飽きるほど繰り返した試験で身についたものである。


「ろすと、というのは、死んだ、ということですか?」

「そうです」

「言いやすくていいですねえ、ロスト」


 歩きながらラウはトリスールダンジョンのおさらいです、と話し始めた。


 トリスールダンジョンは全十五階、入り口から降りていくタイプで、ダンジョンでよくある階層と魔獣が出る、初心者向けのダンジョンだ。


 第一階と第二階は洞窟エリアで、出るのはスライムのみ。採取できるものはなし。

 第三階と第四階は平原エリア。アルミラージといううさぎ型の魔獣と、ココバードという鶏型の魔獣、それにプレーリーシープという羊型の魔獣が出る。採取できるものはトルカリアとハーブ類が少しだが、質は良くない。


「第一と第三は一匹ずつしか出てきませんが、第二と第四は複数で出てきます」

「――――親切、ですね……」


 本当にねえ、とラウがのんびり言う。

 まずスライムで肩慣らし。一匹から複数を倒せるようになりましょう。

 次は平原でおとなしめの動物の魔獣を倒しましょう。慣れたら複数にもチャレンジしてみましょう。

 確実なステップアップである。


「親切ですけど、採取できるものがほとんどありませんので、新人講習に向かないんですよね。同じように親切で、なおかつ採取ができるところもありますので、ここは本当に実入りがないんです。だから潰してもいいだろうという判断になりました」

「なるほど。ロゼー、前方三十五メートル、中央に少し大きめが(いち)

「あ、それこの階のボスです」

「え、もう?」


 百メートル歩いたか歩いていないかだが……。


「じゃあリン、ボス戦ですよ」

「え、私? ――ええと、魔術でいいんでしょうか。それとも、一応杖を使った方がいいですか?」


 りのは腰につるしたホルダーにさした魔術杖をぽんと軽く叩いた。

 これはラウにもらったものだ。杖は魔術の行使の補助をしてくれるものだという。


「魔術で」

「いいえ、まず杖でやってみましょう。ゼノン、あなたリンの魔術を見たいだけですね?」

「それが目的で来ましたから!」

「護衛です、言葉だけでもとりつくろいなさい」

「はーい!」


 目のつぶれそうな美形同士が話し合ってると、うっとりするよりも乾いた笑いしか出てこないものなんだなあ……。



 ホルダーから杖を出し、手に持って歩いて行くと、少し広めの広場のようなところに出た。

 十メートル四方くらいだろうか。床は変わらず石が散らばる洞窟仕様で、変わったところと言えば少し明るいくらいだろうか。

 そこにいたのは、大きな水まんじゅうだった。

 周囲の魔力を探ったが、何も感知できなかった。念のため「サーチ」もかけるが、そちらにも反応はない。


「水まんじゅう……」

「リノア様、『鑑定』、『鑑定』してみてください!」


 ゼノンが興奮してハァハァしながら言ってきた。

 カノンが「鑑定」を使えるようだということは、先日すでにユーゴに伝えられており、リノアちゃんも使えるんじゃないかなあと思うよ、とユーゴに言われている。


(その通りですすみません……! でもこれで解禁だから……!)


「ゼノン、どういうことです?」

「カノン様が、治癒をしている時に患者の状態が読める、と仰いまして! これは『鑑定』というものではと! それでユーゴ様が確認して、間違いなく『鑑定』のギフトだと確認されました!」

「私とカノンちゃん……もうひとりの聖女様って持っているギフトが同じなので、あちらが使えるならばこちらも使えるのではないかと」

「正確に言うと、今までも使っていたけれど、『鑑定』だと認識していなかったのでユーゴ様の『鑑定』に出なかったのではないかと思われます!」


 ゼノンの声は飛び跳ねている。うっきうきだ。一方のラウは不思議そうな顔をしている。何かが引っかかっているのだろう。


(まあつつかれればボロがでそうな言い訳ではあるからなあ……まあ異世界人ならではで押し通しますけどね)


「えーと、対象をよく見て、詠唱……『鑑定』」

「どうですか!?」

「えーと、視界の端に、文字列が出てます……別に詠唱しなくても、治癒をするときは出てきますけど……」

「それ、それです! 読んでみてください!」

「はあ、ええと、名称、ヒュージスライム、産地、トリスールダンジョン。えー、魔獣って産地があるんですか?」


 地産地消かな?


「次、次を!」

「ええと、体力五十五、魔力十七。特徴、――触ったら、皮膚が解ける、口から、体液を吐く」


 ゼノンは一生懸命メモを取っている。

 ゼノン君正直に言えなくてごめんね、とりのは内心で謝った。

 出てきた情報は、正確に言えばこうだ。



【名称:ヒュージスライム】

【産地:トリスールダンジョン】

【体力:55】

【魔力:17】

【特徴:体表が酸性の溶解液で薄く覆われている。開口部から溶解液を吐いて動きを止め、体内に取り込んで分解する】



 そして「開口部」に意識を向けると、



【ヒュージスライムの開口部:固定しておらず、体表に体内に通じる穴を自由に開けることができる】



 そっかー、この世界のスライムに口はなかった。いいね?

 それにしても、この「酸性」とか「溶解液」とか、やっぱり向こうの世界の知識がもとになっているのではないだろうか。

 それならば、もう少し情報を出し惜しみしたい。科学知識に関するものはひとまずごまかしておく、ということでカノンと確認し合っている。いつか話すにしても、今でなくてもいいので。


「ええと、ラウさん、この中の魔石をつつけばいい、んですよね?」

「はい、どうぞ」

「わかりました……」


 自分に「バリア」をかけて、おそるおそるスライムの側に近寄る。

 近づけば近づくだけ、水まんじゅうにしか見えない。しかも、白っぽい魔石なので、


「白あんの水まんじゅう……あんこ少なすぎない?」


 思わず呟くと、スライムがプルプル震えた。あ、怒った? っていうことは、


 ぴゅっ!


 ぽこんとスライムの表面に、カタツムリの触角のようなものが伸びて、そこから溶解液が飛んできたので、慌てて右にずれた。

 溶解液は、さっきまでりのが立っていたところに落ちた。


(うん? でもお話の中みたいに、しゅーって言ったりしないね?)


 思わず「鑑定」をかけると、



【名称:ヒュージスライムの溶解液】

【産地:トリスールダンジョン】

【特徴:漂白洗剤程度】



「溶けないじゃん! ぬるぬるするくらいじゃん! もう!」


 ちょっとびびってたのに!

 ぷりぷりしながらヒュージスライムに近寄って、えい! と杖を魔石に向かって突き出すが。


「あっ」


 スライムの体の中で、魔石がふよーっと動いて、杖から逃げた。


「このやろ……!」


 イラっとして、えい、えいとつつくが、そのたびに魔石が移動して当たらない。

 後ろで、ラウやゼノンだけでなく、とうとうアダンまでが爆笑している。


「もういい! 面倒! 『身体強化』!」


 怒りに任せてがっつり「身体強化」をかけて、えーいっと上から杖を叩きつけた。

 気分は餅つきだ。


 ヒュージスライムは杖にぺったんとつぶされて、真っ平になった後、きらきらと金色の光の粒子をまき散らしながら消えた。


 りのの初討伐は、何ともしまらないものとなった。




本日はここまで。お読みいただきありがとうございました。

ブクマ、リアクションもありがとうございます。

楽しんでいただけるように頑張ります!

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