影人
さて、集落丸ひとつ滅ぼした魔神とやらを見に行きますか。
軽く言っているが下手をこくとこちらが全滅することになる。
といっても戦闘できるのが俺とアキラしかいないのだが。それでもタイガも加勢すると言っていたが正直言って足手まといしかならない。酷いいいようだが事実だということを多少オブラートに包んで、荷物の護衛をして欲しいと言った。嬉々と拝命してくれたおかげで明日の着替えなど入った荷物を見失うことは無くなった。安心して突っ込むことができる。
…俺、なんでこんな好戦的になったんだろう。
元の次元では競争や順位争いなんて一切気にしずに生きて来たのに、どうもこちらに来てからおかしくなったように思えた。次元超越を生きて突破したために人間やめる羽目になってしまったのだが。そんなことは些末なことだ。
争いごとなんて画面の外だけにして欲しいものの、明日生きるために仕方のないことか。大昔の生き物たちもこんな気持ちだったのかな。
そう思いつつ斜面になった道を下る。滑ると言った方が正しいかもしれない。
となりの集落とやらの影を見つけると、ふと空が暗くなった。
見上げるとそこは墨汁と何倍も濃くしたようなものが一面に広がっていた。
浄化で送った例の皆さんの言っていた情報通り「真っ黒」で、すぐにあの雲が目標と定めた「魔人」だと分かった。
タイガ、ミオ、ケイには悪いが村人がいるかと、いたら避難誘導してやって貰う。いなかったらそのまま3人で先に進んで隠れてろと言ってあるため、後ろに気を引く必要がある。
手始めに、アキラに近くにあった握り拳大の石を俺に向かって投げてもらった。
野球は試合を見ていただけで実際にプレイはしたことなく、スカしてしまう可能性があったが、無事に槍で打ち返すことができた。
槍をバット扱いするとダメかなと思ったが、大丈夫だろうと思う。思うことにする。
ただ投げただけでは空高くにある雲に届くわけないと考えたからで、丁度、こつんと当たった。
そうしたら、雲からいきなり殺気と共に黒い雨が降ってきた。
冷たい。痛い。重い。正直言って火山灰混じりの雨の様だった。足元にはだんだん雨がたまって行く。
空に光が射すようになり、全ての黒い雲が地上に降り注いでからすこし。
目の前に真っ黒い人影が立っていた。
その影はどこかで見覚えがあった。
「つか、さ」
咄嗟に出してしまった名前。
それが聞こえたのか、ニコリと笑う。
「覚えていてくれていたんだね、一真」
元の次元にいた時の親友の形をしていた。




