第四章 三十三
〈彼の人に死を与えるべし〉
それが森の人の大半の意見だった。
彼らは長年に渡って”もり”と共に迷宮中に蔓延する毒と戦ってきた。
ニエベは自分の私利私欲のために、たくさんの生命を苦しめ、その命をもてあそんできた。それを考えれば決して許される行為ではないし、死を望む声があってもおかしくはない。
他ならぬ僕自身もニエベに対して複雑な思いを抱いている。間接的にだが、両親ともに迷宮の所為で死んでいるし、知り合いにも病気で苦しむ人や亡くなった人もいる。なによりルルディのことは許せない。彼女は自身の母親を失い、呪いに犯され、今は死の淵をさまよっている。
しかし憎悪の視線を向ける人々に囲まれ怯える男は、小さく、細く、薄い。この人物が、本当にそんな大罪人なのかと疑ってしまう。
ルルディならこの男に向かってなんと言うだろうか。母親を殺されたルルディなら……
「ロジエさん」
僕は人の群れから離れた場所で、事の成り行きを見守っていたロジエさんに、ニエベを見つけた時の様子を語った。
ロジエさんは腕組みのまましばらく考えていたが、やがておもむろに口を開いた。
「……わかった。我等は"もり"と共に生きる民だ。その意思は何よりも尊重される」
そう言って集まった人々に、聖薬師ニエベが"もり"の意思によって助けられた事実を公表し、その命を奪うことは"もり"の意思に反すると説いた。
森の民は一様に困惑した表情で、思いおもいに意見を述べたが、強硬に反対する者は誰もいなかった。
「聖薬師ニエベ、お前にやってもらいたい事がある」
「……いっ命だけは助けて……頼むから」
「それは"もり"の意思による。今日は助けたが、明日は見離すかもしれない。今後のお前の行動次第だ」
「何をさせるつもりなんだ、ボクはこの通り何の力も残っていない」
「我が一族の娘、ルルディを救ってもらいたい」
ニエベは首を縦に振り、小声で簡単な事だと答えた。
「本当だろうな!助かりたい一心でデタラメを言うと許さないからな!」
「ひいっ!ほっ本当だ。材料と、ウーヴァさんの薬事辞典があればすぐにでも……」
「辞典?なぜ辞典が必要なんだ?」
「あっあの辞典は娘のためにウーヴァさんが作った物だ。分量や調合の注意点などは全て娘の為に書かれている。ボクにはわかるよ……間違いない」
数日後、ニエベの言葉通り生命の危機を脱したルルディは、鬼装の呪いを解かれ、僕らに真からの笑顔を見せてくれた。




