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第四章 四


オルヒアさんは少しげんなりしている。僕がフラウラさんに"かれえ汁"の作り方を教えている間、ずっとロジエさんの話を聞いて少しでも情報を集めようとしていたが、あまりにしゃべる量が多いために、整理しきれないと言っていた。


「ロジエが言うには、この迷宮は大昔から大薬師が薬草を育てたり、薬を作ったりする場所で、以前はもっと森も植物も小さかったそうだ。それがニエベが来てからどんどん変わって行った。その原因がアレだ」


オルヒアさんは、遥か遠い天井の一番高い所に突き出た大薬師神宮本殿を指差した。


「ハイドラは何故あんな山頂にワザワザ建物を建てた理由を知っているか?」


「いいえ、全く。あんな所に物を運ぶのはかなり大変ですし、謎ですね」


「簡単に言うと、あそこから毒を撒いているのだと」


「毒⁉ 」


「あの場所は、川の水が火口で水蒸気となって上昇し、雲になる所でもある。あそこで毒を振りまくだけで、迷宮全体に行き渡る。そして毒を持つ植物が次々に生まれ、収穫者がそれらを狩って全国に毒植物をばら撒くというワケだ」


「なぜそんなコトを……」


「人々の間に病気を流行らせるためーー毒を持つ植物が増えればそれを食べる動物、人間が病気になる。薬草がたくさん売れるな」


オルヒアさんは怒りを抑えているような、悲しみに耐えているような、複雑な表情をしていた。そう言えば、郷里に残してきた弟さんは身体が弱く病気がちだと聞いていたが、その事を思い出したのだろうか。


「大薬師ウーヴァは、ルルディの母親は、この事実を知っていたのかどうか。知っていたとしたら、どう思ったのか。どちらにせよ薬師としてはあり得ない行為だ」


 記憶にはないけれども、僕は僕が生まれてすぐに病気で死んだ母さんの事を想っていた。父さんが語る母さんはとても穏やかな人で、病床にあってもそに笑顔があるだけでいつも家の中は明るかったと言っていた。


カクトス親方の娘さんも小さい頃に病気で突然亡くなっているし、そに他に何人も病気で苦しんでいる人を知っている。


 もしあの人達の病気の原因がこの迷宮にあるとしたら、とんでもない秘密を知った事になる。


 胸の奥の深い所で、ドロドロとした嫌なものがじわり湧いて、溜まりを作っていく。


 憎しみとか憤りとかそういった単純な言葉では言い表せないような黒くて鈍い物が、ぐるぐると渦を巻いて、混ざり合うことのない複雑な模様を描く。


胸が苦しくて喉の奥が苦い。心の闇に潜む得体の知れない怪物に、心臓をわしづかみにされているみたいだ。

とん、と横にいるオルヒアさんが、僕の肩に手を置き身を引き寄せてくれる。


「希望はある。あの小さな"もり"達だ。彼等は元々迷宮にいた生き物をウーヴァが改良し、少しづつ植物を食べて浄化する役目を担っているらしい。ニエベの凶行を止める事が出来ればあるいは正常に戻るかもしれない」


「じゃ"かれえ"は?」


「毒を食べ続けるとどうしても浄化しきれずに、心を病んでしまうとロジエは言っていた。その為に治療薬としての"かれえ"が必要なのだと。ともあれ、真実を確かめに大薬師神宮本殿に行かなくてはなるまい。そして必ずやその凶行を止めなくては」


 たくさんの"もり"が"かれえ"を食べている様子を眺めていたフラウラさんが不意に僕の横に駆け寄り、オルヒアさんと同じように肩に手を回してきた。



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