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第三章 二十三


 しかし、我々を戦慄させるにはそれで十分すぎた。狂気に酔っていたブブキでさえ顔色をかえて、今耳が捉えた音を確かめようと聴覚に意識を集中している。


天井を突き抜け、何か重いものが落下する音、破片が散り、土煙が舞う。


それが合図だった。


その場にいた三人が同時に土煙と反対方向に駆け出す。


向かう先は、寝室を抜けた先にある縦穴。あそこ以外逃げ道は残されていない。


「ルルディを離せ!」


「どきなさい、このガキを殺すわよ」


ルルディの喉元にある左手を見せつけ、行く手を遮ろうとするハイドラを恫喝する。


「僕の苦しむ姿を見たいんじゃないのか! ルルディがいては逃げきれないぞ!」


 一瞬の躊躇とたたらを生む言葉。ブブキの性癖からすると、悩み苦しむ姿をじっくりと愉しみたいはずだ。しかし、人質を殺せばそれは半減することになる。


さらに生き延びる事を信条とするなら、荷物になるルルディをほっておけば身軽になるし追撃の心配も無い。

ハイドラは端的にブブキの行動原理を言い当て、逡巡を誘った。


さらにその躊躇を私が見逃すワケがない。


怪人の腕に抱えられ、ぐったりするルルディの白い羽織は、赤いシミに侵食されつつあり、右肩の出血が止まっていない事を示している。


 私はすかさず喉元を抑える左手に狙いをすまし、渾身の一刀を繰り出す。


「この間合いなら!」


 しかし両断を確信した一撃は、甲高い金属音を発しただけで、あっさりと覆されてしまった。


「(くっ!小手を仕込んでいたか)」


 そして反撃とばかりに、私の右肩に突き抜けるような衝撃が襲う。


「これは⁉ 」


 ブブキの隠し武器ムチ


 どの様な体勢からでも蛇のように伸び、確実に当ててくる。こちらの方がヤツの主力と言ってもいい武器だ。


 右肩にはズキズキと拍動する痛みが這い、痺れを伴って自由を奪う。わずかな動きの違和感から見抜かれたか。


 すぐ背後では緑の塊が姿を現し、触手を振り回しながら奇声をあげている。


「ぐがああっ‼ 」


 今度は目の前のブブキが奇声をあげて身体をブルッと震わせたかと思うと、喉の奥底から白い塊を大量に吐き出し、ハイドラの脚を地面に縫い付けてしまった。


「うわっ⁉ 何だこれは!」


「アタシに奥の手まで使わせるなんて、全く予想外だわ。残念だけどもうコレでお終いよ」


 言うが早いか怪人は風の如き動きで、寝室を抜けた先の縦穴めがけて突進して行く。


 その行動には迷いが無い。縦穴に何かしらの逃走手段を用意してあるとみて間違いない。


「オルヒアさん! ルルディを頼みます!」


 ハイドラは白く粘つく何かに脚を取られ、身動きが取れない。


 私は視線だけで承知の旨を伝え走り出す。右手の痺れは続き自由は戻っていないが、今はそんなことに構っている余裕は無い。


 狭い通路では伸縮自在の武器の方が圧倒的有利だ。


 私が狙うのは、縦穴に出たブブキが逃走の方向か縄か何かを確認するため、気をそらす瞬間。


 縦穴は下から強烈な風が吹いている、その影響を鑑みるなら必ず隙を見せるはずだ。


 そこで二段突きを放つ。一段目の突きで左脇の付け根、拘束が緩んだ所に二段目の突きでルルディを縛っている縄を引っ掛ける。


 いくらルルディが軽くても、人一人抱えていては脚も鈍る。


二者の距離はあっという間に縮まり、完全に間合いに捉える。


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