第三章 九
ルルディが指した先は、草に埋もれかけた石畳の道が続いていて、林の奥に消えている。改めて周辺を見渡すと、蔓の絡まった石の壁に囲まれたこの場所は四間(7.28m)ほどの幅の通路になっていて高い天井からは明るい光が降り注いでいる。
火口を上下する神功光明と同じ種類の光に思えるが、あれよりはもっと小さい物が散りばめられているようだ。
「ルルディ、ここでロバロと待っててくれるかい? 少し様子を見て来るよ」
再びルルディをロバロに託して立ち上がる。
ロバロの反応からして敵ではなさそうだが、視野もだいぶ戻って来たし、気をつけるに越したことはないだろう。
視覚だけに頼らず他の感覚も駆使して、辺りを探りながら進んで行く。
茂みが増え、背の高い樹々が並び始めると、見通しがかなり悪い。
道らしきものが蛇行しながら続いているが、張り出した葉に隠されていたり、一部崩れていたりしている。
途中、通路よりも少し広い空間があり小川が流れていた。この辺りだけ妙に臭いが、その他は特に変わった様子は無かった。
道らしき石畳はさらに奥へと続いている。
あまり長い間離れていても心配だ。一度戻って……と考えていた時、天井が崩れ落ちている場所が目に入った。
そこには萎んだ風船カズラと何本もの蔓、空船の一部が引っ掛かっていた。
上の空間から落ちて来た空船が、天井を突き破って壊した。という状況だろうか。
火口で暴れていた黒色の塊の事が頭をよぎり、背筋が冷たくなった。
アイツが何なのか分からないが、もし今出くわしたらとても僕一人では戦えない。
心臓の鼓動が速くなるのを感じながら、崩れている部分の下、空船の船があると思われる場所を慎重に覗き見る。
茂みの間からは、崩れた天井の破片、壁の一部、船体が見え、そこには見慣れた服装の人物が力なく倒れていた。
「オルヒアさん⁉ 」
僕の心からの叫びにその人は反応する事はなく、赤黒い血溜まりに沈んで行くように見えた。