第三章 七
結局あれは、絶妙な間合いで繰り出す"突き"技だった。しかしそれが分かった所で到底同じことができる訳ではなかったが。
巨大玉葱はルルディめがけて大きく飛び上がり、耳をつんざく叫びをあげる。
!
僕は右眼の薄い視界を頼りに、玉葱へと迫る。
剣を持つ右手を胸の前で構え、突きの体制へ。
あれから毎日剣を振り続けた。もう何回振ったかなんて覚えていないけども、手の皮が剥ける度に、ルルディの薬の塗り方が上手くなっていった事は記憶している。
呼吸を止めろ。
オルヒアさんに言われたことをなぞり、体へと還元して行く。
"突きの威力は体幹の回転だ。 その動きに右腕を乗せればいい。最終的に脊椎から肩肘手首柄切っ先までを一直線にするだけだ"
「……っああッ!」
ドズッ
想像していたよりずっと、手応えが無いように思えた。
伸び切った右腕にじわりと感じる重み。体勢を崩しかけ、慌てて剣を引く。
ドスンと鈍重な音ともに落ちる玉葱。
僕は間を置かずそれを飛び越し、すかさずルルディとロバロを背に剣を構え直す。
しばしの静寂……辺りを油断なく見渡し、最後にロバロの様子を確認する。
ロバロは気が抜けたのか首をぺったりと草に横たえ、大きく息を吐いていた。
「ルルディ、ルルディ! 平気かい? 怪我はない?」
ロバロにしがみ付き顔を伏せたままのルルディは、しばらく僕の声に反応しなかったが、包帯の取れかけていた鬼装の右腕に触れると、ゆっくりと顔を上げた。
「……ック、はいどにゃ……」
よほど怖くてよほど心細かったのか、ずっと泣き通しだったその眼は真っ赤に腫れ上がり、涙と鼻水でドロドロになっていた。
「もう大丈夫、カワイイ顔が台無しだよ。ホラ、ちゃんとふいて」
僕は懐から出した手ぬぐいを差し出したが、ルルディは視線を落としたまま、もじもじしている。……そうだったーー
記憶の底にかすかに残っていた"母親は村人を皆殺しにした"というブブキの言葉は、正直僕には衝撃だった。
彼女は少し変わっていて、人見知りな所もあるけど、僕にとってはとても素直で笑顔が可愛くて、ちゃんと怒ったり泣いたり拗ねたりする、普通の女の子だった。




