第三章 五
眩しい光と共に目に飛び込んできた光景は、周りを石の壁に囲まれた通路のような場所で座ったまま唸り続けるロバロと、それにしがみついて怯えるルルディの姿だった。
その二間(3.64m)手前には血まみれの野菜の姿がある。
キィキィと硬いものを擦るような鳴き声を発しながら、ロバロを威嚇して飛び回る二体のそれは、茶色く丸い身体から細長い緑の葉が何本も突き出ていて、脚とおぼしき底部の根を生やしていた。
「(カパラソン種の玉葱!)」
ロバロの足元には一尺(30cm)はある巨大玉葱が踏み潰されて無残な姿を晒している。ロバロが戦って何とか一体倒したのだろうか。だとすれば玉葱ついた血はロバロのものだろうか。
いずれにせよ、あんなに苦しそうな息をして呻くロバロを見たことが無い。
一体の巨大玉葱が僕の存在に気付き、威嚇の鳴き声と共に大きく跳ね来る。
「(確かコイツは丸の下の部分に急所があったはずっ!)」
素早く抜き放つ双剣。体をかわしながら球体下部を狙いすまし剣を振り抜く。
ーーが、その刃はカシッと軽い音を立てて、茶色い皮一枚を宙に飛ばしただけだった。
そうだった。外側の皮は硬いから、刃を垂直に入れないと切れないぞと、何度もオルヒアさんに言われていたのを忘れていた。
「くそっ!」
自分のうかつさに腹を立てながら、肩を上下させ無理やり力を抜こうとする。
落ち着け。今はオルヒアさんがいないんだ。
僕が、ボクがしっかりしないで誰がルルディを守るんだ!
彼女の周りで飛び跳ねているもう一体を気にしながら、目の前の巨大玉葱の方へ向き、刀を構え直す。
「(垂直に……まっすぐ垂直に……)」
手にする愛刀が、カタカタと過度の緊張を僕に伝えて来る。
キッと高い声と共に再び襲いかかる巨大玉葱。
しかも今度は直線的な跳躍で、まっすぐ僕の首元を狙っている。
しかし、この動きは完全に読めていた。以前に戦った時の経験から、いつもの二刀から一刀に構え直していた僕は、十分な速さと体重を乗せた斬撃で、真上から左右に両断していた。
「……っ⁉ 」
初めて独力で野菜を狩った喜びを感じる間も無く、またも僕は自分のうかつさに腹を立てることになった。
玉葱種は切られると視界を奪う毒液を撒き散らすため、力加減に注意しろとあれほど言われていたのに。
いつもはゴーグル着けていて、特に意識しなくても戦えた事もあり、すっかり油断していた。
左眼が焼けるように痛み、開けることができない。右眼の方も薄く開けておくので精一杯の状態で距離感が上手くつかめない。
しかし僕の戦いはまだ終わりでは無い。もう一体。最悪ルルディだけでも守りぬかなくてはならない。
最後の巨大玉葱は、飛び跳ねる間隔を次第に狭め、怯えて動けないルルディに飛びかかろうと力を溜めている。
急いで回り込んで……ダメだ。それでは間に合わない。
アイツが跳躍した瞬間に背後から攻撃するしかないが、さっきと同じ様には行かない。後ろから真っ二つにすれば、毒液がルルディとロバロに降りかかってしまう。
一撃で急所を捉える"突き"ーーこれしか無いが……




