第三章 参
……
ピンと張った水面に、丸い月が映っている。
……
それはわずかな風で、あっという間にヒビが入り、粉々になってしまう。
……
僕はどうしても月が丸かった記憶を思い出せなかった。
……
あの時、ルルディが僕から逃げたのは何故だったか、ロバロの咆哮後、強烈な風のような何かに押し倒されて、誰かが呼ぶ声が……
頭に霞がかかったように記憶を覆い隠す。
嵐に吹かれ続ける枯葉の如く散々振り回された挙句、投げ捨てられるような感覚。
しかし最後には、優しく寝かせてもらった。でも隣にルルディがいない。いつも隣に寝ているのに……彼女、泣いていたな……
どうして泣いていたのか、オルヒアさんに聞いてみよう。
僕に女の子は分からない……
遠くから聞こえる唸り声に、はっと飛び起きて枕元の剣を握る。
ここ二週間ほどの間に何度もあった状況だが、今は僕を勇気づけてくれる師匠の声は飛んで来なかった。
「(ハイドラ、いくぞ! )」
「(はいっ、オルヒアさん!)」
いつものロバロの警戒音だと思ったそれは、巨大な穴から地上へと吹き上がる低い風の音だった。
「何だここは……」
上を見ると垂直に切り立った壁には、何本もの筋が彫られ、遥か上空の光へと収束している。横へは二町(220m)ほどのゆるい円を描いて元へと戻る円筒状。所々に出っ張りや穴があって、その一つに僕は寝かされていた。
ここは火口の中だろうか?
それにしては円の直径が小さい気がするし、空船の桟橋で感じた暑さも感じられない。
ゴーグルはどこかに飛ばされたのか着けていないが、剣はちゃんと二本枕元に揃えて置いてあった。大きな怪我も無いようだし、上からここまで落ちてきたとは思えない。
誰かが僕をここへ連れてきて、寝かせてくれたの……か?
誰が?何のために? うーん……
ルルディは?オルヒアさんは?周りをぐるりと見渡す。なぜ僕だけ?
様々な出ない答えを探すより、とりあえず二人を探す方が先だ。
僕は壁に空けられた穴のひとつに入り込み、奥に進んでみることにした。