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第二章 十六


「オルヒアさん、この木を見ましたか」


ハイドラ言われて、たくさん生えている低い木を眺めてみた。高さはだいたい私の身長ほど。地面から生える幹は足首ぐらいの太さで、葉が一枚もついていない。黒っぽい樹皮していて、枝が極端に少ない所が変わっているが、稀少というほどではない。


「この木がどうかしたのか?」


「皮がものすごく硬いですよ。まるで石みたい」


見た目は木の皮のそれだが、触れてみると確かに石のように冷たく硬い。これは木のような石なのか、石のような木なのか、私の浅い知識では計りようがない。


ここは三人の中で、最も植物に造詣の深い少女に答えを委ねよう。彼女の母親は天才と言われた大薬師だったと聞いている。彼女自身も幼い頃から、薬師として修行して呪いを受けるほどの才器を持っているし、きっと目に覚めるような答えを……


「……ぐむぅ……」


ダメだ。大量の汗をかいて固まっている。


「ん〜……せ、せめて皮を剥がしてみないと……」

「わかった。ボクがやってみるよ」


ハイドラは小太刀を構え、一本の木を正面に見据える。


やっ、と短い気合とともに一閃

しかしその一刀は、かん高い音ともに見事に弾かれてしまった。


「ハイドラ、もっと細い枝を狙ってみろ」


「は、はい」


次は親指ほどの枝を選び、再び挑戦してみたが、結果は同じだった。

刃の当たった場所を丹念に調べてみると、皮がはがれるどころか傷ひとつ付いていない。


まさか師である私が、弟子のハイドラと同じ結果にはならないだろうが、とりあえず気を引き締めて挑まないとな。


父の形見である小太刀、〈山離王抜丸〉を引き抜いて呼吸を整える。

私とて、中条螺子捲流 皆伝の許しを得ている身だ。このようなヘンテコな木など巻きワラを切るよりもあっさりと両断してくれる。


慎重に立ち位置を決めて、最高に速さと力が刀に乗る間合いを測る。

軽く閉眼し、すっぱりと切り倒した場面を心に描き、愛刀を上段にかまえた。


「はあっ!」


気合とともに振り降ろされた白刃は、かん高い音を響かせて見事に幹を真っ二つに……しなかった。


「あ、あれっ⁉ 」


情けない声を発して宙を掻いた手には、我が愛刀は握られていなかった。


あわれにも剣士の意地を持って挑んだ一刀は、幹の半ばまで食い込んだ状態で、宙に浮いたまま醜態を晒している。


「……なっなんの!私のはもう一本〈無銘 正宗〉が……!」


ーーかくして私の大事な愛刀は二本仲良く並んで木の幹に飾られる事になった。



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