第二章 十五
道行く周りの風景は、迷宮に入った当初の生い茂った森林の様子とはうって変わり、岩肌が目立つようになってきた。
我々はときどき出現する野菜を倒し、解呪霊薬の素材を集めながら、ゆっくりと東へと進んでいる。
「私達はどこへ向かっているのだ?」
「この道の先にある〈白き谷〉呼ばれる場所です。薬事辞典によると稀少三種のひとつ乳香〈バルター〉があるはずです。三つの中で唯一生息地が書いてありますし、入手しやすいかと思います」
ハイドラが、迷宮内部を大まかに描かれた地図を片手に答える。
「乳香とは聞いた事がないな、薬草なのか?」
「それが稀少三種については、辞典にも詳しくは載ってないんですよ。〈最も多い〉としか書いてなくて」
「"最も多い"のに"稀少"とはね。そのあたりの謎が、入手困難と言われる所以かもな」
頭であれこれ考えるのは苦手だ。行動派な私は、欲しいなら物の怪を倒せ!ぐらい単純な方が好みだ。
「ルルディは乳香について何か知ってる?」
「いけばわかる」
ハイドラの横を歩くルルディは仏頂面で応えた。どうやら私とハイドラが仲良く会話しているのが気にくわないようで、はた目にもイライラしているのがよく分かる。
彼女は、寝る時も歩く時も食事の時も、ハイドラの側を離れようとはしない。ハイドラに依存しすぎている気さえする。またそんなルルディを、ハイドラはよけいに可愛がるものだから、ますます離れなくなる。せめて朝晩の修行の時ぐらいは私と二人きりにして欲しいものだ。
抗議の視線に気付いたのか、ルルディはハイドラの手を両手で抱え、ワザとらしく笑みを返してきた。
このひねくれ者め、今晩から修行の時間を倍にしてやる。
一行は両側を岩山に挟まれた道を下り、小川が流れる谷底へ足を踏み入れた。
「ここが〈白き谷〉?」
確かにこの周辺は、見わたす限り大小の岩がごろごろしていて、その名の通り白い色ばかりが目立つ。 しかし岩の他は低い木が群生しているだけで、ほかに変わったものは見られなかった。
「とにかくたくさんあって稀少なものを探してみよう」
少しばかり辺りを歩いてみたが、白い岩にも小川にも変わった所は無かった。




