第二章 十四
……こんな私では、いつまで経っても嫁ぐなんて出来ないな。
男でも、職人の様に料理を作るハイドラを見て、深くため息をつく。
料理も華道も茶の湯もダメ。
武家の娘要素皆無で、オマケに嫁き遅れの剣術バカ。
私とハイドラの立場なんて、まるっきり逆転した主人とヨメみたいじゃないか。
これはもう最終手段としてハイドラに婿に来てもらうしかないな。
私が働いて、ハイドラとヒューゴと一緒に暮らす。というのはどうだろう。
(姉上、おかげで身体が良くなりました。これで勉学に励めます)
(オルヒアさん。食事出来てます、温かいうちに食べて下さいね)
……っいい。スゴくいいな。
「ダメ妄想している気配がする」
「うぐっ⁉ なな何の話かな……」
焚き火にかかる鍋の反対側には、餌をねだるヒナの如く大口を開けて運ばれてくる匙を待つルルディが座っている。
「ルルディ、ちゃんと噛まないとダメじゃないか。最低二十回は噛んでから飲み込むんだよ」
かいがいしくルルディの食事の世話をするハイドラは、もはや良妻賢母の域に達している。
因みに旅に同行して一週間余り、(ちゃんと話さないと、もうあーんしてあげないよ)とのハイドラの説得を受けて、やっと一昨日辺りから私と会話してくれるようになった。
「ロバロに臭いを嗅がせて何の実験なんだ? 」
「……なんでもイイダロ」
しかしまあ始終こんな感じで私を敵視する視線はやめないのだけれども。
「毒の調査ですよ。どの植物にどんな種類の毒があるのか。ロバロの微妙な反応の違いで色々な事が分かるみたいで」
「そうなのか。よくロバロの気持ちがわかるな」
「そうですね。僕にはさっぱりですけど、ルルディは小さい頃からずっと一緒に育ったから分かるんじゃないかな。ね、ルルディ」
「今頃気がついたかトロい女。ナメクジ、ウミウシ、アメフラシ」
会話というより呪いをかけられているな。確実に。