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13 わろたさんにお礼

「物語なのに曲?」

「物語と一言で言っても、観劇とかもあるでしょ。その物語が異世界でどう展開されているのかは、ローリにしか分からないんだよ」


ルシア先輩達のそんな会話が聞こえてくるけど、気まずくて人差し指同士をくっつけイジイジとしてしまう。

そうしていたらクスッと鈴を転がすようなフィオーレ先輩の笑い声が聞こえた。


「ローリ・クレイン、顔をお上げなさい。淑女がそのように俯いてはなりません」

「は、はい!」

「貴女の気持ちは十分理解しました。そういう事でしたらその想いに、最上級の感謝でお受け致しましょう」


スッとフィオーレ先輩が片手を上げると、いつのまに隣に来ていたのか、音もなくラリオ先輩がその手を取った。そのままフィオーレ先輩は片方の脚を引き、そうかと思ったらもう片方の膝を曲げて腰を落とす。

滅茶苦茶優雅な姿を目の当たりにして、ドキドキしてしまう。


「ふわわぁ」

「ローリ・クレイン、本当にありがとうございます」

「この感謝が当たり前の品を贈ったんだ。それを自覚できるようにこれからきちんと学べ。俺からも心から感謝しよう」

「で、でも、フラセ先輩には何も…」

「だから、楽譜で有り余るほど十分なのだと理解しろ。あほう」


フィオーレ先輩の手を持ったラリオ先輩も首を前に曲げた。

最上級の礼。それを、私に向かって執っている??? 確かに自分が得た知識の価値についてちょっと不勉強だったようだ。気を付けるだけじゃ足りないらしい……気を付けなきゃ。

1人焦っていると、先輩達が元の姿勢に戻ってくれた。

雰囲気的にはこれで終わりなのだけど、この際だと思って、気になる事を聞いてみる。


「フィオーレ先輩は卒業後、故郷に戻られる予定でしたけど、婚約した今はどうなさるのでしょうか?」

「今朝、学園長に魔法通信をお借りして母へ報告したところ中央に残る事を勧められましたの。急だったから色んな事がまだ決まっていないのだけど、当面はフラセと共に魔法師団の一員としてあるつもりですよ」

「そうですかぁ。魔法師団なら学園からも近いから、いつでもお会いできますね」

「えぇ。ローリに頂いたこの曲をいつでも奏でられるように練習しておきますから、遊びにいらっしゃいな」

「魔法師団は学園生が気軽に遊びに行く場所じゃないぞ」

「お堅くってよ、フラセ。水を差さないで」

「叱られても俺は知らんからな」

「あらあら、冷たい事。どうせわたくしが演奏する時は聴くくせに」


クスクスと笑うフィオーレ先輩。ラリオ先輩は呆れた様子だけど、その目はすごく優しい。

2人一緒の将来を話す姿は幸せそのもの。

良かった。

恋愛成就の瞬間だけじゃない。

未来を信じる2人を見られて、本当に良かった。


私は満足だ。


フィオーレ先輩に楽譜を渡せたし、恋愛成就の瞬間も見られたし、いや、そもそもフィオーレ先輩とラリオ先輩の悲恋が回避できた。

満足、満足。ラブアンドピースをまずは一つ、成功する事が出来た。

これも全部わろたさんのお陰だね。

わろたさんの協力は私の情報と引き換えの取引って事になっているけど…。その情報はファンの人達が集めて考察しまとめてくれたものであって、いくら私が【記憶の魔法】で知識を継承したと言っても何一つ苦労していないのにさも自分の情報だぞって扱うのは、なんだかなぁ~とも思うわけでぇ。


ーーー私が私として、わろたさんに何かお礼が出来ないかなぁ。


なーんて思ったのは軽率だったのだろうか…。



「ローリから聞きましたよチャチャイさん! 私からも是非お礼をさせてください!」

「……ローリくん、これは?」

「あははぁ」


満面の笑みのルシア先輩。横目でこちらを見るわろたさん。

とりあえず、笑ってごまかす。


私はただ…今回の事でわろたさんにお礼をしようと思い付き、色々考えて、何気に肌荒れしやすいわろたさんにクリームを贈ろうと決めただけだ。

クリームなら今までも渡した事はあったけど、全部ルシア先輩が作ったのを分けてもらっていただけだったから、今回は一から自分で作ろうと思い、それでルシア先輩に作り方を教えてもらおうとクラブ活動で一緒になった時にお願いしたら…。


「根掘り葉掘り聞かれちゃった、と」

「わ、私はただ、ほら、わろたさんと世間話でフィオーレ先輩とラリオ先輩は両想いなのに卒業後は離れ離れで悲しいなぁと言っただけじゃないですかぁ。そうしたらぁ、此度の事になりましたからぁ、ひょっとしなくてもわろたさんのお陰かもぉ~ならお礼をしなきゃぁ~とルシア先輩に、ありのままを、伝えただけでぇ」


嘘ではない。ルシア先輩への説明にラブアンドピースを一切出さなかっただけである。

あくまでもわろたさんが私の何気ない発言を拾い、お仕事しただけ。

結果喜ばしい事になっただけ。

是非ともこれで押し通したいが、それにはわろたさんの肯定が不可欠。

どうか話を合わせて下さい! 考えよ伝われ! と目に力を込め、縋る思いでわろたさんを見上げる。


「…。私はただ、ローリくんの話から上手くいけば2人丸ごとトロモントに引き込めるか…出来なくともノトスの族長と縁が作れるかもしれないと考えて仕事をしただけだよ。礼を言われる事をしたつもりはない」


やった伝わった! 感謝を込めてわろたさんに手を合わせておく。

て言うかわろたさんも流石に話が上手い。私からの話って部分がかなり凝縮されているだけで、嘘は一切言っていない。


「ユージンからチャチャイさんがフラセの相手をしていたって聞いていたので、ローリの話も聞いて合点がいきました。お仕事内容を聞くつもりはありませんが、結局はそれがきっかけになってフラセはやっとリンジュに告白したって事ですよね?」

「まぁ…多分、そうなるのかな」

「なら是非お礼をさせて下さい。本当にあの2人、下級生の頃から好き合っていたくせに全然進展しなくて…。何度か何とかしようとしたんですけど上手くいかず、このまま卒業で終わってしまうのかとずっとヤキモキしていたんですよ」


少し目を潤ませながら、ルシア先輩もわろたさんに向かって手を合わせた。


「チャチャイさんの思惑が何処にあったとしてもこの際構いません。1年生のローリにすらバレて心配されていたあの2人をよくぞくっつけてくれました! 2人になり代わり、私から感謝させてください!」


わろたさんは高身長だから、ルシア先輩でもわろたさんを見る時は視線が上になる。

聖女の異名を持つルシア先輩が手を合わせながら仰ぎ見ていると、何だか、天から光が降っているかのような錯覚を起こす。

て言うかルシア先輩…1年生の私にすらって言い方はフィオーレ先輩とラリオ先輩に失礼だから止めましょうよ。私はたまたま『カログリアシリーズ』の知識から知れただけで、その前はお似合いとは思っても相棒としての認識の方が強くて両片想いだったとは知りもしませんでしたからね? 婚約が発表された食堂でも最初は驚きの方が大きかったし、私と同じように思っていた人の方が多かったって事で、2人はかなり上手く自分達の気持ちを隠していましたよ。


「分かったから、ルシアくんもローリくんもその拝む手を下ろしてくれ。他の救護クラブさん達の前で何だか居たたまれないよ」

「あ、私達の事はお構い無く」

「ルシア先輩の手伝い兼勉強でいるだけですから」

「気にせずお礼を受けて下さい」


わろたさんが視線を送った先にいた救護クラブの他の先輩達とシシーが、制止するように手を上げる。

今更だけど、ここは救護室です。

いつものように手土産片手に救護室へ来てくれたわろたさんを捕まえて話をしていました。


「私からチャチャイさんへのお礼はズバリ、リラクゼーションマッサージです!」


そう言うや、ルシア先輩は勢いよく6年生の緑色のローブを脱いでシャツの袖を腕まくりし始めた。

リラクゼーションマッサージとはルシア先輩が開発し、そう命名した魔法と手技を用いた心身の回復術。

もともと痛みを和らげたり緊張を解したりするのに【癒しの魔法】を使う事はあったけど、痛む患部や緊張を解すなら背中や胸を軽く撫でるだけだった。ルシア先輩はそこに【記憶の魔法】で得た整体技術を合わせる事に成功した。

この回復術により身体の悩みや不調の改善、身体的な機能障害への回復が即効性と共に大きく跳ね上がったと言われている。ジェネリック薬品と同じく、聖女ルシア・ヴァーチュの功績の一つだ。

ルシア先輩の後輩である私達救護クラブも取得を目指して勉強中なので、今日は当番じゃない人達も見学に来ていると言う訳。


「さあ! チャチャイさん、こちらのベッドで横になって下さい!」


さあ! 準備を済ませた救護室のベッドへ、救護クラブ一同でわろたさんをお迎えする。


「私に遠慮とかの選択肢は一切ないんだね…」


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