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異世界図鑑は食レポで埋まっていく  作者: 夕月ねむ


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6/7

大蛙はもも肉がうまい

※カエル回です、苦手な方はご注意ください。

 僕が巨大なカエルから皮を剥ぎ取ると、背後から「げえ……」とうめき声が聞こえた。

「お前それ、本当に食うの……?」

「そうだけど」

「毒とかさあ……なんか変なイボがあるぞ」

「ちゃんと皮を剥いで加熱するし、僕は毒に耐性があるから」

「でも……」


 僕は振り返って男を睨んだ。

「もう黙っててくれない?」

「だって。お前がそんな変なものを食うのは、俺にパンを譲ったからだろう?」


「違うけど?」

 男が怯んだ。

「え、違うの」

「違う」


 カエルの魔物から魔石を取り出して、魔法できれいにして仕舞う。大きいカエルだ。人が飲み込まれてしまうほどの。もっと大きくなる個体も存在する。冒険者が丸呑みされることがあって、腹の中に装備品が残されていたりするけど、こいつが直接の死因になることはまれである。飲み込まれてもすぐに吐き出されるからだ。間違って飲み込むだけで、人間は好きじゃないらしい。じゃあ無害かというと、そんなことはない。冒険者からはひどく嫌われている。誰だってカエルの腹の中に入りたくなんかない。


 僕はこのカエルをソテーにして食べようと思った。食用目的で近づいたのだけれど、目の前でカエルの腹がおかしな具合にうごめき、冒険者がひとり、吐き出されたのだ。それがさっきからうるさいこの男である。


 消化液でべとべとの男を、洗ってやるなんてことは、僕はしない。ただ放置して食事の用意をしようとした。男は自力で立ち上がり、洗浄魔法で消化液を落とし、何故か僕に礼を言ってきた。僕、何もしてないのに。話している最中、男が空腹だと言って、自分の荷物を確認したんだけど、携帯食はカエルのせいで駄目になっていた。仕方なく、僕が持っていたパンをひとつ分けてやって、今に至る。


「焼いたら食えるのか、それ」

「普通の人には毒だよ。吐き気や腹痛で苦しむことになる」

「そうなのか……」


 食えたらいいのに、と思っていそうな男に、ひとつ教えてやることにした。

「キエラ草ってあるでしょ、第2階層によく生えてる」

「ああ、毒消し草な」

「あれをつぶして絞るか、煮出して布で濾した液に魔物の肉を漬け込むと、半日くらい置けば毒が抜けるよ」

「本当か!?」


「味は保証しない。でも、どうしても食べてみたいなら試すといい。食料を失くした時とか、役に立つかもね」

 ほんの気まぐれ、半分嫌がらせ。そんなつもりで知識を提供した。だって。この方法は確かに毒が抜けるけど、キエラ草自体が凄まじく苦くて、肉の味も台無しになるのだ。食えるなら食ってみたらいい。本当にまずいんだから。


 巨大なカエルの脚から肉を切り出す。関節で切り離してもいいけど、大きすぎて食べきれないことはわかっている。食べる分だけもらって、後は放置しておけば、他の魔物の餌になるだろう。つまり、ここに居たら『食事』をしに来る魔物と鉢合わせることになる。肉を手早く油紙に包んで、移動した。


 大蛙のもも肉は塩焼きが美味しい。スープにするのも悪くないけれど、シンプルな味付けで十分だ。塩を振って、串にさして、焚火で焼いていく。

「おい。なんか……変なにおいがするぞ」

 自分の分のパンを食べきった男が、眉間にしわを寄せて言った。

「やっぱそれ、毒なんじゃないのか」


「毒だよ?」

 さっきから、そう言ってるじゃないか。

「僕は食べても大丈夫だから食べる。あんたはやめた方がいい。下手したら死ぬよ」

「まじか……」


 食べ終わったなら帰り道でも探せばいいのに、男は僕の側から離れない。

「まだ何か用?」

 そう言って軽く睨んだら、申し訳なさそうに「実は」と言った。


「荷物がほとんど駄目になったから……水がなくて。ここから転移魔方陣まで歩くのはちょっと不安なんだよ」

「ああ……」

 確かにこの近くには帰還用の魔法陣がないか。

「水を分けて欲しいってこと?」

「いや、もし可能なら、一緒に街まで――」


「断る」

 きっぱりとそう告げた。

「僕は誰かと一緒に行動するつもりはないよ」

「気持ちはわかるけどよ」

 自身もソロであるらしい男が言った。

「最近ギルドもうるさいだろう? 誰かと組んだ方があれこれ言われなくて済むし。だからさ、とりあえず帰り道だけ、お試しってことでどうだ?」


 僕は首を横に振った。

「予備の水筒があるからあげる。返さなくていいよ」

 男の手に水の入った水筒を押し付けた。水生成機能はない安物だ。

「流石にそれは」


「わからない?」

 僕は男を睨んだ。

「いちいち食事のたびに『うげえ』とか『うわー』とか言われたくないの。そんなの仲間じゃないでしょ」

「あ……」


 言葉に詰まった男を無視して、大蛙のもも肉にかじり付いた。

「……うまいのか、それ」

 まだ話しかけてくるのか。こいつ、結構図太いな。

「僕にとっては、ね」

 他の誰かとは共有できない。そんな思いを込めて言えば、男はようやく立ち去っていった。




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