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異世界図鑑は食レポで埋まっていく  作者: 夕月ねむ


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2/7

角ウサギは串焼きがうまい

 大蜘蛛以外にもいくつか魔石が手に入ったし、換金しようと街に戻った。迷宮から出たのは何日ぶりだろう。ずっと真っ暗な所にいたわけじゃないけど、太陽がまぶしい。


 僕が今拠点にしているゼディアの街は、迷宮の周りに人が集まってできた冒険者の街だ。なんと街の中央広場に迷宮の入り口があって、そこから放射状に建物と道が並んでいる。ほとんど真ん丸の街だから、同心円状でもある。


 中央広場には冒険者と許可証を持つ商人しか入れない。万が一、迷宮から魔物が迷い出たら、真っ先に被害を受ける場所だから、戦えないと危険なのだ。


「よう、おかえり! お茶はどうだい?」

「ありがとう、いらないよ」

 迷宮の入り口近くに露店を構える商人が、薬や弁当、お茶、果物、各種消耗品を売っている。冒険者ギルドの店もあって、迷宮の浅い階層の地図が手に入る。地図以外は全部ぼったくりだ。商人たちは忘れ物に気付いた冒険者や疲れて帰ってきたやつらの足元を見ている。


 僕は中央広場で買い物はしない。荷物は全部、空間拡張が施された魔法鞄に入れている。ひとりで行動するなら余るくらいの物資が常にある。何より、ほとんどの食料は迷宮内で現地調達できるから、弁当が必要ない。たまにパンが欲しくなる程度だ。もし白米があれば話は別だけど。


 中央広場を囲む壁を出て、東に向かう。東広場には市場があって、調味料や野菜、果物、乳製品や油が買えるし、安くて美味しい屋台がいくつもある。特に世話になっているのは串焼きの屋台だ。たれにつけて焼いた肉がいい匂いでたまらない。まるで学校帰りに通りがかった焼き鳥屋のよう。


「今日の肉は何?」

 僕は顔見知りの店主に声を掛けた。

「ああ、お前か。また迷宮に行ってたのか?」

「うん」

「今日のは角ウサギだよ」


 角ウサギは魔物の一種だ。毒のない、食用にできる安全な魔物。でも、初心者の冒険者が苦戦する相手でもある。素早くて体が小さいから攻撃を当てにくい。食用にした時の肉質はクセがなく、食べやすい。この街では比較的安価で出回る食材で、シチューが定番だけど、僕は串焼きが好きだ。炭火だから香りもいい。


「串焼き、五本くれる?」

「おう。銀貨一枚だ。紙に包むか?」

「一本はここで食べてく」

「じゃあ、四本包むぞ」


 先に一本受け取って、立ったまま食べる。ここの串焼きは日替わりで肉の種類が変わるけど、いつも美味しい。このたれに何が入っているのか、店主は絶対教えてくれない。黒砂糖のような甘さがある。たぶん生姜は入っているだろう。味はどこか照り焼きに近い。でも、僕には再現できないんだよな。

「ありがと、美味しかった」

 串を回収の箱に返して、残りの串焼きは魔法鞄に入れた。


「またすぐに迷宮に行くのか?」

「とりあえずギルド。売るものがあるから」

「そうか。怪我には気をつけろよ。またおいで」

「うん」


 冒険者ギルドは街の中心部にある。ゼディアの街は古い建物ほど中心に、新しい施設や建物は外側に集まっているのだ。一番の中心は迷宮の入り口。その周囲に冒険者のための施設や店。迷宮に関わらない民家や一般人向けの商店、学校なんかは外側にある。実に分かりやすい。


 正直、僕は冒険者ギルドが苦手だ。組織がというより、そこに集まる人間が。僕が若くて弱そうで、仲間を作らないから、何かと口出ししてくるやつがいる。ギルドの職員のお節介だったり、冒険者の勧誘だったり。放っておいて欲しい。誰かとパーティを組んだら今ほど気ままには動けなくなる。


 ギルドに入って、まっすぐ奥のカウンターを目指した。買取窓口に魔石を出して、換金を頼む。食べ物にはあまり困らないといっても調味料は欲しいし、着替えや日用品を買わないわけにはいかない。宿に泊まりたい時もある。多少のお金は必要だ。


「小金貨二枚と銅貨三枚になります。確認してください」

「小金貨を一枚、銀貨に崩してもらえる?」

「ええ。それなら、小金貨一枚、銀貨十枚、銅貨三枚ですね」

 カウンターの上の硬貨を数えて受け取る。今日はギルドでの用事はこれだけ。でも、すんなり帰れたことがほとんどない。


「ところでルイさん。パーティを組む気にはなりました?」

 ああ、ほら。また……。

「僕は誰とも組まないって」

「ですが、ひとりで迷宮に入るのは、ギルドとしては非推奨でして。遭難の危険性が上がりますし……」


「こうやってちゃんと帰ってきてるんだからいいじゃない」

「規則なんですよ。特に若い方にはなるべくパーティで行動していただきたく」

 僕はわざとらしくため息をついた。声を落として、言う。

「大蜘蛛の脚を焼いて食う冒険者がいたら紹介してよ」


「やだなぁ。いませんよ、そんな人」

 ギルド職員は僕が冗談を言ったと思ったらしい。

「とにかく。今日はもう帰る。疲れてるんだ。休ませて」

 そう言って、僕はギルドの建物を出た。早く宿の部屋に行こう。疲れているというのも、完全な嘘というわけじゃなかった。



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