第19話 孤高のイケメンと告白
時刻は19時を回ったところ。
私 上月さわの膝の上。
そこには、男の子の頭がある。
その男の子は私の好きな人だ。
今日はまさに激動の1日だった。
ストーカーなんじゃないかといきなり疑われて、窮地に立たされた。
そんな私を救ってくれたのが佐藤 陽光くん
今 私の膝の上を枕に横になっている男の子だ。
この男の子は、俗に言うコミュ症だ。
人の前に立って何かを話す。
多くの人に注目される。
それが苦手なのだ。
にも関わらず、クラスのみんなの前に立って私のことを守ってくれた。
勇気を振り絞って助けてくれた。
そのことがとてもとても嬉しかった。
そんなことを考えているとふと、陽光の声が聞こえた。
「なんで僕がこんなにもさわさんのことが...
好きなのか...知ってますか?」
「え...」
膝を枕にしていた陽光が急に起き上がり、真剣な顔をして唐突に話し始める陽光。
さわもなんだか真剣な雰囲気を感じて、真面目な表情で陽光を見つめる。
その表情は少し悲しそうに見えた。
目は何だか虚ろである。
「中学校の頃、さわさんと同じ高校に入る前 僕は彫刻って呼ばれてました」
「え?」
「彫刻です
あの美術館とかに飾ってあるやつ
なんか、彫刻みたいに少しだけ顔がかっこいいからだそうです」
陽光が自分のことを話すのは、初めてかもしれない。
「うんうん」
さわは、とても真剣に一言も逃さないよう陽光の話を聞いている。
「でも、僕はこのあだ名が嫌いでした」
「どうして...?」
「なんだか、クラスの皆が僕のこと彫刻って呼ぶ時
半笑いでニヤニヤしているんです
あとから、気づきました
僕 彫刻って馬鹿にされてるんだって..」
陽光は、辛そうな表情をしながら話し続けている。
さわは優しく柔らかな表情で陽光の言葉を真剣に受け止める。
「彫刻って鑑賞物で話さないですよね..
僕 その時から...自分から話しかけたり グループの中で話すの苦手だったんで...
話せないのに顔だけいいってことで彫刻だったんです
女子からしてみても、美術品みたいな
ただ、眺めて楽しむものだって思われていました」
そんな陽光の話に悲しい気持ちになるさわ。
「いつしか話さないキャラみたいなのが定着してしまって、気づけば誰にも話かけれない状態になってました
自分から話しかけようとしても、キャラ的にこんな僕が話しかけちゃダメなんじゃ...って思っちゃうんです...」
このクラスメイトの反応は陽光への嫉妬心が大きな原因だろう。
多くのクラスメイトにとって俺の好きな女の子は、陽光のことが好き
そんな状況が、モテてるんだから、少しは陽光に意地悪してもいいという雰囲気を作っていたのだろう。
「ゴホ..ゴホ..」
不意に咳をする陽光。
どうやら気分が悪いようだ。
過去の嫌な記憶を思い出して、気分のいい人は中々いないだろう。
「大丈夫...」
心配そうに見つめるさわ。
「ひかる ひかるの話なら 私 いつでも聞くから
無理しないでよ...」
「いえ、話させてください...
多分今日じゃないと一生話せない気がします」
そう言って覚悟の決まった表情をする陽光。
さわは、陽光の背中に手をやった。
その手で、陽光の大きくて小さい背中をさする。
そして、”聞いているよ”と伝えるため、彼の目を見つめ続けた。
「ただ、女子の方は話しかけたりしてたんです
だから、一人ではありませんでした
けどある日 クラスの女子グループの中心みたいな人にいきなり告白されたんです
その人は、一番よく話しかけてくれていた人でした
ただ、全然好きな感情が湧かなくて
断ったんです
そしたら、次の日から女子も僕に近づかなくなりました」
苦しそうな表情をする陽光。
黙って背中をさすり続けるさわ。
「それからの中学校は正直全然楽しくありませんでした..
いじめられてた訳じゃないです
ですけど、いつも疎外感を感じてました
僕だけ仲間じゃない 仲間はずれのような気持ちで、ずっと息が詰りながら生活してました
とりあえず何とか通い続けて、卒業はしました」
「そーなんや..
よく乗り越えたな」
さわは、そう語りかける。
「高校は同級生が誰も居ない所に行こうを思って、家から遠く離れたこの高校にしたんです
親も進学校だったんで、渋々許してくれました」
「高校からは楽しくやっていこうと思ってました
だけど、上手くいきませんでした」
陽光は変わらず悲壮感にあふれる表情のまま話し続けた。
「話したいんですけど、どうやって話しかけたらいいかわかんないんです...
それに話せないとバレたらまた仲間はずれにされるんじゃ無いかって...怖くて...
勇気が出ませんでした...
結局、高校1年生の時もまともに友達も作れず 大体一人で生活していました
孤高のイケメンといえば聞こえは良いですが、ただ孤独なだけでした」
さわは陽光の背中に手をおき続けながら、優しくも真剣な目線を送り続ける。
「僕ってもうダメなんだ....
人と関わることは一生できないんだ..
そう思っていた時
僕はさわさんに出会ったんです」
少しだけ、陽光の表情が晴れた気がした。
「高校1年生から進級し2年生となった時、初めてさわさんと同じクラスになりましたよね」
「そーやな」
さわは穏やかに微笑みながら答える。
「さわさん 凄く賑やかで活気のある人だなって印象でした」
「うるさいだけだよ笑」
「いえ それにさわさん クラスの色んな人から慕われている
まさに僕とは真反対の人で、一生関わらないと思っていた人
こんな風になれたら、人生楽しいだろうなって思っていた憧れの人でした
そんな人が ある日 僕の家の玄関前でうずくまってたんです」
「あったなー」
「すごいビックリしました
そんな人が、すごい困ってそうで...
助けないといけない
でも話しかける勇気がでない...
それで、右往左往してしまいました」
思い返すと、陽光と初めて会った時 彼は、完全に私の前で挙動不審ムーブをしていた。
あの時そんなことを思っていたのか。
さわは、過去をゆっくりと思い出し自分の中で振り返る。
「そうやったなー
あの時は助けてくれてありがとな」
「いえ、結局話しかけられなくてさわさんにツッコまれちゃいましたよね
あの時は ごめんなさい」
陽光はさわに向かって軽く会釈をする。
さわは、柔らかい表情を返す。
一瞬穏やかな空気が流れていた。
しかし、再び陽光の表情は深刻な顔に戻る。
「本当は僕 さわさんを見て 中学校のことを思い出したんです...
あの時も中心的な女子に嫌われて...それから1人になりました...
だから さわさんには絶対に嫌われてはダメだって...
そう思ってました..」
「そーだったんだ
それであんな辿々しかったんや」
「辿々しいのは元からかもですけど...」
「なんでや笑」
先ほどまでの緊張した雰囲気が少し柔らかくなる
「段々さわさんと関わるようになって..
僕何回もさわさんの前で 失敗しちゃって...」
「んなことあったか?」
「はい」
陽光ははっきりと頷く
「全然話せなかったり...日直で黒板クリーナーの中身をぶちまけて...教室をチョーク粉まみれにしちゃったり...急にシャワー貸してもらったり...」
「あっ!あったね」
さわは一瞬で様々な陽光との思い出を振り返る。
「はい
何回もさわさんに迷惑かけちゃって..その度に嫌われないか..とずっとドキドキしていました..
でも、
その都度さわさんは笑顔で許してくれたんです...」
「だって...その時は...
ひかるの優しさ私に伝わってたしさ」
さわは、隣にいる陽光の肩に軽く頭を乗せて、穏やかにそう語りかける。
「徐々に徐々に
さわさんなら僕のことを嫌わないんじゃないか...?
って思ってきました
段々 嫌われたら...とか考えずに話せるようになりました
久しぶりに...数年ぶりに...人と関わるの..人と話すのが楽しいと思えました..」
照れくさいのか陽光は、視線を合わせずに正面を向きながらそう話してくれる。
ただ、その横顔から嬉しそうな気持ちが伝わってくる。
「さわさんと一緒に居た時間は人生で一番楽しかった自信があります」
「さわさんの家で号泣しちゃった時は...すいません...(第6話)
本当嬉しくて、勝手に涙が出てきてしまって...」
「あったね...
あの時 ひかるの気持ち正直に話してくれて嬉しかった」
「いや.. 実は..
あの時少しだけ嘘ついてしまったんです...」
「え?」
「本当は...
あの時からさわさんのことが好きでした」
「...」
急な告白に対して、呆気にとられるさわ。
「そーだったんや
全然気づかなかった...」
「はい..
なんとか気づかれない様に、隠してました
だってさわさんは僕のこと...絶対に好きじゃ無いと思ったから..
僕がそんなこと言っても迷惑だとおもったから..」
「それは...」
予想外すぎる陽光の思いに対し、反応に困るさわ。
「だから お姉さんが来た時はすごくびっくりしました...」
「あっあの時はごめんなー
私の姉がはちゃめちゃにしちゃって」
「確かにはちゃめちゃでしたね笑」
お姉ちゃんが2人の関係をぐちゃぐちゃにしたあの日(第10話)を思い出す。
「あの時 お姉ちゃんに、あっさりと僕の恋心を見抜かれてしまって、びっくりしました..
流石です..」
「伊達におばさんやってないからね あの人も」
お姉さんのことを思い出し、クスクスと笑う2人。
「急に変に告白しちゃって..すいません
その時
好きな気持ちが抑えられなくなっちゃって....」
「いやいや
てか、すいません禁止って言ったよなー」
陽光からの好き連打に耐えきれなくなってきたさわは、ふと話題を逸らす。
「あっ...すいません...
あっまた言っちゃってる
すいません..」
「おい ふざけてるやろ笑」
少しドジで可愛い陽光に、場が和む。
「あの時....最初 告白したせいでもうさわさんとは会えない...
告白なんかしなきゃよかったと死ぬほど後悔しました...
あの夜ずっと泣いてだんです...」
「あの時は、私も変な態度とっちゃってごめんな...」
「でも、あの後すぐに仲直りできて本当よかったです
仲直りした時に、僕の隠してたさわさんが好きという本音を打ち明けられて本当に嬉しかったんです
僕は本当の自分を..さわさんのことが好きな自分を....コミュ症な自分を知ってもらうことがずっと怖かったんですけど...
結局さわさんの前では、全ての自分を曝け出しちゃって....
誰かに...好きな人に...自分を知ってもらうことがこんなに嬉しいんだって気づきました」
少しはにかみながら話す陽光。
「それからの日々はすごく楽しかったです
泣いたり笑ったりで、人生ってこんなに楽しいんだって思いました
そんな日々の中で一番嬉しかったのが、色々なさわさんを知れたことです...」
そんなことを言いながら、陰りのある表情をしていた。
先程まで、流暢に話していた陽光の口が止まる。
それから少し息を呑んで話し始めた。
「沢山知れた今だからこそ...思うんです
僕がさわさんの隣にいちゃいけないんじゃって...」
陽光は首を曲げ、下を見る。
その美しい顔に影が落ちる。
その靄のかかった表情は、私から見えづらくなっていたが、明らかに暗くなっていることだけはわかった。
さわは、上手く言葉を返すことができず沈黙する。
「僕がいることで、さわさんにあんまりメリットが無いんじゃって....思うんです
僕は勉強が出来ないから...さわさんに教わってばかりだし....
僕は面白い人間じゃ無いから..他の人がさわさんの近くにいた方が楽しいと思います」
そんな陽光の意外なセリフに、動揺を隠せないさわ。
なんとか首を左右に振り陽光の言葉を否定するが、横で暗い顔をしている彼は言葉を続ける。
「さわさんのためを思うと....さわさんに幸せになって欲しいからこそ...僕はいない方がいい」
陽光の頬に、微かな水が滴り落ちる。
「だから...この関係解消しましょ...」
「え....なんでや....」
「その方が...絶対にさわさんのためです..
一緒に暮らすのはやめて....
あっ...でも友達ではいてくれると助かります..」
「わかった..
ってなるか
なってたまるか」




